第12話 十三魔将ザルドール
いつ、【無敵モード】を使うかだ。こいつは強そうだし、クールタイムに入ったら、一瞬で殺される可能性がある。最初の十秒で勝負を決めるぞ!
リティスが呪文を唱えながら、ザルドールに突っ込んだ。
「実力差もわからないとは」
ザルドールは首を左右に振って、唇を一瞬動かす。
百を超える氷柱が頭上に出現した。
「三人とも同時に死になさい」
頭上の氷柱がとんでもない速さで落ちてくる。
俺はぎりぎりで氷柱を避けた。地面に突き刺さった氷柱が砕け、その破片が俺の頬を傷つける。
普通の状態で氷柱が当たったらまずい。死ななくても大ケガ確定だぞ。
さらに三本の氷柱が落ちてくる。
ちっ……仕方ない。【無敵モード】発動!
俺は氷柱を避けながら、ザルドールに近づく。
「『光剣乱舞』!」
リティスが叫ぶと、数百本の輝く剣が具現化した。
その剣が一斉に動き出す。
「ほぅ。光属性の高位魔法ですか。やりますね」
ザルドールの周囲に氷の壁が現れ、輝く剣の攻撃を全て止めた。
「うにゃあああ!」
うにゃ子が魔炎剣で氷の壁を壊すが、ザルドールはすぐに別の氷の壁を具現化する。
俺はザルドールの背後に回り込む。その動きにザルドールは気づいたのか、周囲に十以上の氷の壁を具現化した。
俺は幻魔星斬に魔力を注ぎ込み、長く伸びた刃で氷の壁を破壊する。
四つの壁を破壊したところで、【無敵モード】のカウントダウンが0になり、クールタイムの数字が表示された。
ダメだったか。こうなったら、リティスとうにゃ子に期待したいけど……。
「うにゃあああ!」
うにゃ子が氷の壁の間をすり抜けて、ザルドールに走り寄る。
「うにゃ子百八の奥義、七十七の型『桃玉三日月』にゃ!」
うにゃ子は高くジャンプして魔炎剣を振った。
「無駄な攻撃ですね」
ザルドールはふわりと浮き上がり、うにゃ子の攻撃をかわす。
「舐めるなっ!」
リティスは白く輝く板をいくつも具現化し、それを足場にして連続でジャンプする。
「おっと。そんな手を使いますか」
ザルドールは笑みを浮かべたまま、左右の手を動かす。空中に氷の壁が具現化し、リティスの体にぶつかる。
「くっ……」
リティスは体のバランスを崩しながらも、両足で地面に着地した。
こいつ、やっぱり強い。
俺は唇を強く噛んだ。
広範囲の攻撃魔法を使ってくるし、防御魔法も無詠唱だ。前に戦ったダルドとは格が違うぞ。
その時、数十人の冒険者たちが墓地に入ってきた。
「魔族だ! 魔族がいるぞ」
「んっ? リッチじゃないのかよ?」
「どっちでもいい! とにかく、倒すぞ!」
「おおーっ!」
冒険者たちが一斉に走り出した。
「おや。数が増えましたね。ならば、あれを使いますか」
ザルドールは宙に浮かんだまま、呪文を唱えた。
数秒後、氷の壁が俺たちを囲うように具現化した。地面が白くなり、数百本の氷の柱が地面から突き出すように出現する。さらに、その柱に別の柱が組み合わさり、氷の城が完成した。城にはいくつもの階段があり、三つの塔の先端には青い球体が飾られている。その球体から、白い霧のようなものが染み出ていた。
頬に冷たい空気が当たり、俺の体がぶるりと震える。
何だこれ? こんなにでかい城を魔法で作れるのか? とんでもない魔力量だな。
「『
ザルドールは氷で作られたバルコニーに下り、丁寧に頭を下げた。
「これで、もう皆さんは逃げられません」
「逃げるつもりなどないっ!」
リティスが叫んだ。
「こっちは二十人以上だ。追い詰められたのはお前のほうだぞ!」
「ほぅ。まだ戦うつもりですか。ならば、急いだほうがいいですよ。氷獄城の敷地の中にいる生物は五分もかからずに凍りついてしまいますからね」
「五分もあれば十分だ!」
リティスは氷の階段を駆け上がる。
突然、階段の手すりから無数の尖った氷柱が突き出た。鋭く尖った先端がリティスの服を切り裂く。
「ぐっ……」
リティスは顔を歪めて、階段から飛び降りる。
「ふっ。まさか、正面の階段から突っ込んでくるとは思いませんでしたよ。あなた、ほどほどに強いですが、頭は悪いみたいですね」
ザルドールの口角が吊り上がる。
「それなら、こっちの階段からいくにゃ!」
うにゃ子が右端の階段を駆け上がろうとした。
さっきと同じように手すりから氷柱が突き出て、うにゃ子の行く手を塞ぐ。
「残念でしたね。そっちの階段もハズレです」
ザルドールは肩をすくめた。
「どうやら、誰も私と戦うことなく、氷漬けになりそうですね」
その時、背後にいた冒険者の声が聞こえてきた。
「あっ、足が動かねぇ!」
振り返ると、冒険者たちのブーツが白くなって地面にくっついている。
まずいな。動かないと一気に凍ってしまうぞ。
俺は交互に足を上げる。ブーツについていた氷がパラパラと地面に落ちた。
「秋斗っ!」
リティスが俺の耳元に唇を寄せた。
「このままではザルドールを倒す前に全員凍死してしまう」
「何か方法はないのか?」
「ある! 塔の上の青い玉――『
リティスは視線を氷魔球に向けた。
「問題はザルドールだ。氷魔球を壊そうとしても、氷の魔法で邪魔してくるだろう」
「なら、俺が壊す。リティスは光の板の魔法で足場を作ってくれ!」
「まかせろ! ザルドールの注意も引きつけておく」
リティスは数歩前に出て、呪文を唱えた。
数十枚の光の板が氷獄城の周辺に具現化した。
「ザルドール! 今度こそお前を倒す!」
リティスは短剣の刃をザルドールに向けた。
「さっさと逃げ出さなかったことを後悔するといい!」
「いいですねぇ。そのセリフ」
ザルドールが青白い唇を舐める。
「バルコニーまで来ることができたら、相手をしてあげますよ」
「ああ。すぐに行くから待っていろ!」
リティスは笑みを浮かべて、目の前に浮かんでいた光の板に飛び乗った。
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