第11話 ブラグ墓地の戦い

「あ、うにゃ子じゃないか。どうしたんだ?」

「冒険者ギルドから緊急の依頼を受けたのにゃ」


 うにゃ子は俺の質問に答えた。


「この前のデスドラゴン退治で、うにゃ子もDランクになれたからにゃ」


 そう言って、うにゃ子はDランクの証である緑色のプレートを俺に見せる。


「それなら、さっさと【動画モード】を使って、スーパーうにゃ子になれよ。あれなら、一気にスケルトンを倒せるだろ?」

「【動画モード】は一日に一度しか使えないのにゃ。お昼にスライム退治の仕事を受けて、そこで使ったから、今日は無理にゃ」

「スライム相手に回数制限がある【動画モード】を使うなよ!」


 俺はうにゃ子に突っ込みを入れる。


「お前、キャラ作りじゃなくて、がちのへっぽこじゃないか?」

「そんなことはないにゃ。高校でも、学年一の才女って言われてたし」

「才女って感じは全くしないけどな」


 俺はうにゃ子と会話しながら、視線を動かす。

 リティスがスケルトンを倒しながら、墓地の中に入っていく姿が見えた。


 リッチを倒しにいったんだな。クールタイムも終わったし、俺もサポートに動くか。


「うにゃ子、俺たちも墓地の中に入るぞ。あの中にスケルトンを生み出しているリッチがいるはずだ」


 俺はうにゃ子といっしょに墓地の入り口に向かった。


 墓地の中に入ると、リティスが黒いローブを羽織った骸骨と対峙していた。

 骸骨の骨は青白く、頭部に金色の王冠をつけている。右手には、いびつに歪んだ杖を持っていた。


 あいつがリッチだな。他のスケルトンと違って骨が発光してるし、ボスっぽい雰囲気がある。


 リッチが杖を振ると、周囲に黒い鎧を装備したスケルトンが十体現れた。スケルトンは両手に黒い曲刀を持っている。


「骸骨兵士を召喚してきたにゃ」


 隣にいたうにゃ子が言った。


「スケルトンの上位種で戦闘力はスケルトンの五倍ぐらいにゃ」

「五倍か。なら、リティスだけにまかせておくわけにはいかないか」


 俺は幻魔星斬を握り締めて走り出した。

前を塞ぐスケルトンの横をすり抜け、リティスに近づく。

 リティスは二体の骸骨兵士と戦っていた。その背後から、別の骸骨兵士が曲刀を振り上げる。


【無敵モード】発動っ!


 幻魔星斬の刃が伸び、骸骨兵士の頭蓋骨を砕いた。

 俺は動きを止めることなく、さらに三体の骸骨兵士の首を斬って頭蓋骨を飛ばした。


「感謝するぞ。秋斗!」


 リティスが俺に礼を言って、リッチに突っ込んだ。

 二体の骸骨兵士が左右から、リティスに攻撃を仕掛ける。


そうはさせない!


 俺は高くジャンプして、右にいた骸骨兵士を強く蹴った。その反動を利用して、左にいる骸骨兵士に突っ込む。骸骨兵士は曲刀を振り下ろすが、俺の動きのほうが速かった。

 長く伸びた紫色の刃が骸骨兵士の鎧を真っ二つに切断する。


 残りは……四体か。


「うにゃ子も参戦にゃあああ!」


 うにゃ子が骸骨兵士に突っ込み、赤い刃のロングソードを振った。オレンジ色の炎が骸骨兵士の体を焼く。


「有り金はたいて買った『魔炎剣まえんけん』にゃ。これで全員火葬してやるのにゃ」


 うにゃ子はピンク色のしっぽを揺らして、魔炎剣を振り回す。


 よし! 残った骸骨兵士はうにゃ子にまかせて、俺はリティスといっしょにリッチを狙うぞ!


 リッチに突っ込もうとした時、リッチの青黒い唇が動いた。

 突然、俺とリティスの前に骨が積み重なったような壁が現れる。


 骨の壁か。そんな魔法も使えるのか。


 三……二……。


 せめて、【無敵モード】が終わる前にっ!


 俺は刃を伸ばした幻魔星斬で骨の壁を連続で斬った。人が通れるぐらいの穴ができる。


「後はまかせろ!」


 リティスがその穴を通り抜け、リッチに駆け寄った。


「ここで終わらせるっ!」


 リティスは大きく足を踏み出し、短剣を突いた。黄白色の刃がリッチの額に刺さる。


「ガ……ガガ……」


 リッチは口を大きく開けたまま、両手を左右に広げる。その手のひらが赤黒く輝いた。


「まだ動くのならっ!」


 リティスは素早く呪文を唱えて、左手をリッチの胸元に当てた。


「『七光聖波ななこうせいは』!」


 七色の光がリッチの体を貫く。


「ガ……ゴ……」


 リッチの骨にひびが入り、粉々に砕けた。


「……ふぅ」


 リティスは息を吐き出し、額に浮かんだ汗をぬぐう。

 俺はリティスに駆け寄った。


「さすがSランク序列十八位だな。あっという間に倒したじゃないか」

「秋斗がサポートしてくれたおかげだ」


 リティスは白い歯を見せて笑った。


「それに私は光属性の魔法を使えるからな。リッチとは相性がいいんだ」

「うにゃ子のサポートも忘れたらだめにゃ」


 骸骨兵士を倒したうにゃ子がリティスに声をかけた。


「んっ? お前は誰だ?」


 リティスが視線をうにゃ子に向ける。


「桃玉うにゃ子にゃ」


 うにゃ子はぐっと親指を立てた。


「まだDランクだけど、将来はSランクになって魔王を倒す予定だから、覚えておくといいにゃ」

「異界人なのに、亜人のように頭に耳を生やしているんだな」

「これは職業病にゃ」


 うにゃ子は自身の耳に触れる。


「で、残りはスケルトンだけだにゃ?」

「ああ。そろそろ増援の兵士も来るだろうし、なんとかなるだろう」


 その時――。


針のように尖った氷柱がリティスの肩に突き刺さった。


「ぐっ……」


 リティスは顔を歪めながら、突き刺さった氷柱を引き抜いた。


「おっと、心臓を狙ったのですが、外れたようですね」


 巨大な墓石の陰から、痩せた男が姿を見せた。

 男の肌は青白く、手足が異常に細かった。髪は青く、金の首輪をはめている。


 金の首輪ってことは、魔王軍の幹部ってことか。


「秋斗、気をつけろ! こいつは十三魔将の一人、『氷結のザルドール』だ」


 リティスが叫んだ。


「十三魔将?」

「魔王軍の幹部の中で最悪の十三人だ。こいつらに殺された人族は十万人を越えている」

「最悪ではなく、最強と言ってもらえませんかね」


 ザルドールは青白い唇を笑みの形に変えた。


「ただ、今回はやられました。改良したリッチを使ってマブルの町を攻める予定だったのですが、こんなに早く倒されてしまうとは」

「お前が仕組んだってことか」


 リティスが銀色の眉を吊り上げた。


「そうですね。マブルの町を潰せば、魔王軍の拠点にすることもできます。そうなれば、シルバ国の地図も大きく書き換わることになったのですが」


 ザルドールは青い前髪を指先で払った。


「仕方がありません。せめて、Sランクのあなただけは殺して撤退するとしましょうか」

「やれるものなら、やってみろ!」


 リティスは新たな短剣を腰から引き抜き、その先端をザルドールに向ける。


「うにゃ子! 俺たちもリティスをサポートするぞ!」


俺は右に向かって走り出した。

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