第10話 新たな依頼

 武具屋を出ると、既に太陽は真上にあった。


 俺は買ったばかりの幻魔星斬を腰につけた革製のホルダーに差し込む。


 安くなったとはいえ、大金貨四枚だからな。日本円だと約四百万だ。それを持ち歩くのは少し恐い。


「秋斗」


 リティスが俺の肩を叩いた。


「せっかくいい武器を手に入れたんだ。いっしょにモンスター退治の依頼でも受けないか?」

「そうだな。スライムでも倒しにいくか」

「ああ。幻魔星斬でスライムの半透明の体をズバッと……って待てっ! 何で最弱のスライムなんだっ!?」


 リティスが俺の腕を手の甲で叩いた。


「お前の強さはSランクレベルなんだぞ。それなのにスライム退治の依頼を受けてどうするんだ?」

「いや。まだ、戦闘に慣れてるわけじゃないからさ。弱いモンスターを倒して、経験を積もうと思って」

「それでも、スライムはないだろ。せめて、オーガとか黄金熊とか」


 リティスは呆れた顔で俺を見る。


「慎重なのは悪いことではないが、お前は度が過ぎるぞ」

「そ、そうかな。はっ、ははは」


 俺はぎこちなく笑う。


【無敵モード】の欠点を知らない奴は、俺が圧倒的な強さで敵を蹂躙してるように見えるんだろうな。いつもぎりぎりなのに。


「あ、リティス様!」


 冒険者ギルドの職員のマリンが青ざめた表情でリティスに駆け寄った。


「んっ? どうしたんだ? 血相を変えて」

「スケルトンです! ブラグ墓地で大量のスケルトンが確認されました。数は二千体以上です!」

「二千体だと?」


 リティスの銀色の眉が吊り上がった。


「なぜ、そんなに多くのスケルトンが発生したんだ? ありえないぞ」

「リッチです! 調査に行った冒険者が黒いローブを羽織った骸骨を見たと報告がありました。そいつがスケルトンを生み出しているのでしょう」

「リッチか。まずいな」


 リティスは眉間にしわを寄せて、親指の爪を噛む。


 リッチって、たしかアンデッドモンスターで闇属性の魔法を使うイメージだな。といっても、異世界ファンタジーアニメやゲームの知識だけど。


「リティスさん。冒険者ギルドからの緊急の依頼です。リッチとスケルトンを倒してください!」

「わかった。他の冒険者にも伝えているんだな?」

「はい。Dランク以上の冒険者がブラグ墓地に向かっています。なので、秋斗さんもお願いします!」

「えっ? 俺も?」


 俺は自分の顔を指さす。


「はい。Aランクのザッドさんを模擬戦で倒したあなたなら、リッチとも戦えるはずです」

「まかせておけ」


 リティスが言った。


「私と秋斗でリッチを倒してやる! 行くぞ、秋斗!」

「あ……待っ……」


 俺の言葉を聞かずにリティスは北門に向かって走り出した。


結局、危険な依頼を受けることになるのか。敵の数が多いと、まずいんだけどなぁ。


俺は額に手を当てて、首を左右に振った。


 ◇ ◇ ◇


 ブラグ墓地は山の中腹にあった。

 巨大な月に照らされた山道を登ると、冒険者や兵士たちが大量のスケルトンと戦っている。


 カタ……カタ……カタ……。


 スケルトンたちは白い歯をカタカタと鳴らして、冒険者たちを攻撃していた。

 冒険者たちは剣や炎の矢の魔法で対抗している。


「くそっ! 数が多すぎるぞ! 増援の兵士はまだ来ないのか?」

「増援に期待するな! 俺たちだけでなんとかするんだ!」

「ああ。ここでリッチを倒さないと、スケルトンの数がどんどん増えるぞ。そうなれば、マブルの町がヤバイ!」

「誰か、回復薬をくれ! 腕をやられちまった!」


 状況は五分五分ってところか。冒険者のほうがスケルトンより強いけど、数の差がある。このまま、スケルトンの数が増え続けるのなら、ヤバイかもしれない。


「よし! まずはスケルトンの数を減らすぞ!」


 リティスが呪文を唱えながら、スケルトンに突っ込む。

夜空に数百本の輝く剣が具現化した。


「『光剣乱舞』!」


 数百本の剣がスケルトンの骨を貫いた。

 三十体以上のスケルトンが一瞬で倒される。


「リティスさんだ! 『正義の執行者』が来てくれたぞ!」


 青髪の冒険者が叫ぶと、周囲にいた他の冒険者たちの瞳が輝く。


「Sランクのリティスだ。これで勝てるぞ!」

「ああ。一気にスケルトンの数を減らすぞ。気合入れろ!」

「おおおーっ!」


 冒険者たちが雄叫びをあげて、スケルトンに攻撃を仕掛ける。

 多くのスケルトンが倒されたが、別のスケルトンが墓地の入り口から出てきた。


 カタ……カタカタ……。


 歯が鳴る音がして、木の陰からスケルトンが現れる。

 スケルトンは上半身を揺らしながら、古い剣を振ってくる。その攻撃を避けながら、俺は腰につけたホルダーから、幻魔星斬を引き抜く。


 敵は一体だ。それなら、【無敵モード】は温存して戦ってみるか。


 俺は右に回り込みながら、幻魔星斬を振った。スケルトンの骨の手が手首の部分から、すっぱりと斬れる。


 おっ、魔力を使わなくても斬れ味がいいな。さすが、大金貨四枚の短剣だ。


 俺は唇を強く結び、連続で幻魔星斬を突いた。紫色に輝く刃がスケルトンの肋骨を砕く。


「カ……カカ……」


 それでもスケルトンは動きを止めなかった。痛みを感じていないのか、首を右に傾けたまま、古い剣を振り回す。


 肋骨ぐらいじゃ無理か。それなら……。


 俺はスケルトンの背後に回り込み、幻魔星斬を突く。尖った刃の先端がスケルトンの背骨を砕いた。

 ぐらりとスケルトンの上半身が傾き、地面に倒れる。俺は足元で動いているスケルトンの頭蓋骨に幻魔星斬を突き刺す。陶器が割れるような音がして、頭蓋骨が粉々になった。


 よし! なんとか倒せたぞ。


 俺は大きく息を吐き出した。


【無敵モード】じゃない時でも、最低限は戦えるようになっておかないと。


 視線を動かすと、二人の若い冒険者が十体以上のスケルトンに囲まれていた。


 あっ、ヤバイ! 


【無敵モード】発動っ!


 俺は一瞬で二人の冒険者の前に移動して、幻魔星斬に魔力を注ぐ。紫色の刃が二メートル以上伸びた。


「おりゃあああ!」


 気合の声をあげて、俺は幻魔星斬を真横に振った。

 周囲にいた六体のスケルトンが真っ二つになる。


 残りは……七体か。【無敵モード】の時間が残っている間に……。


 俺は大剣のような大きさになった幻魔星斬を振り回し、残った七体のスケルトンを四秒で倒す。


 二……一……。


【無敵モード】が終わり、クールタイムのカウントダウンが始まった。


「あ、ありがとう」


 助けた冒険者が俺に声をかけてきた。


「助かったよ。あんた、強いんだな」

「いい武器を使ってるからな」


 俺は幻魔星斬の刃についた白い骨粉を払う


「二人だけじゃなくて、もっと大勢で戦ったほうがいいぞ」

「じゃあ、いっしょに戦わないか?」

「い、いや。俺はソロで戦うのが趣味なんだ」


 俺は二人に背を向けて走り出す。


 クールタイム中だと、助けられないからな。それに俺のサポートを期待するような戦い方をされても困るし。


四十七……四十六……四十五……。


 視界の右上に赤い文字が見える。


 ここからが問題だ。逃げ回りながら、クールタイムが終わるのを待とう。


 俺は二体のスケルトンの間をすり抜けて、木の陰に隠れた。


 やっぱり、【無敵モード】は多くの敵と戦う時が問題だな。周りに仲間がいれば、こうやって時間を稼ぐことができるけど。


「戦況はどうにゃ?」


 突然、背後から聞き覚えのある声がした。

 振り返ると、そこにはうにゃ子が立っていた。


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