第8話 俺vsデスドラゴン

 俺は短剣を握り締め、ドラゴンの側面に回り込む。


 いつ、【無敵モード】を使うかがポイントだな。一撃で死ぬ攻撃を食らったら、そこで終わるけど、重傷レベルなら、【完全回復】でケガは治せる。


「ギュアアアア!」


 デスドラゴンは巨体とは思えないスピードで動き、俺に前脚を振り下ろした。赤く輝く爪が俺の前髪を揺らし、足元の地面を深くえぐった。


 ぐっ……ただの振り下ろし攻撃でも当たったら即死だぞ。


 俺は短剣でデスドラゴンの前脚を突いた。

 キンと音がして、短剣の攻撃が弾かれる。


 ちっ! ウロコが硬すぎる。まるで金属じゃないか。


「ゴ……ゴゴッ……」


 デスドラゴンのノドが大きく膨らみ、黒い炎が吐き出された。


 ヤバイ……【無敵モード】発動!


 俺の体が黒い炎に包まれるが、ダメージはない。


 よし! ブレス攻撃も無効化できてるな。


 俺は一瞬でデスドラゴンの背後に移動して、短剣を振り下ろした。刃が光沢のある黒いウロコに当たり、刃が欠けた。


 やっぱり、この短剣じゃダメか。


 八……七……六……。


 俺は短剣を投げ捨て、こぶしでデスドラゴンの後ろ脚を殴った。

 ドンと大きな音がして、デスドラゴンが横倒しになる。


「おおおーっ! すごいにゃ」


 うにゃ子の声が背後から聞こえてきた。


「さすが、時空公務員に選ばれた男にゃ。とんでもないパワーなのにゃ」


 十秒しか使えないけどな。


 心の中でつぶやきながら、俺はドラゴンの腹に連続でパンチを叩き込む。


「ギュアアアア!」


 デスドラゴンは長い首を動かして、額の角で俺を突こうとする。俺は高くジャンプして、その攻撃をかわした。


 三……二……一……。


【無敵モード】が終わり、クールタイムの時間が視界の右上に表示される。


 くっ……十秒で倒しきれなかったか。さすが、ドラゴンだ。防御力が高すぎる。


 俺は舌打ちをして、デスドラゴンから距離を取る。


「おいっ、うにゃ子。まだ、戦えないのか?」

「もう少し待つにゃ。デスドラゴンを倒すには、まだ、戦闘力が足りないのにゃ」


 うにゃ子が言った。


「とりあえず、うにゃ子の新曲『肉球デイズ』を歌うにゃ。みんな、盛り上がっていくにゃーっ!」


 突然、軽快な音楽が聞こえてきた。


「月明かり照らす夜の森♪ うごめく影に正義あり♪ みんなが待ってた奇跡のアイドル、桃玉うにゃ子の登場にゃー♪」


【うにゃにゃーっ!】【うにゃにゃーっ!】【うにゃにゃーっ!】【うにゃにゃーっ!】

【うにゃにゃーっ!】【うにゃにゃーっ!】【うにゃにゃーっ!】【うにゃにゃーっ!】

【うにゃにゃーっ!】【うにゃにゃーっ!】【うにゃにゃーっ!】【うにゃにゃーっ!】


 画面が同じ文字でいっぱいになる。  


あーもう、見えにくいなっ! 書き込み非表示機能とかないのかよ!


 俺は文句を言いながら、デスドラゴンのしっぽ攻撃をかわす。


 クールタイムは……残り三十二秒か。まだまだあるな。


「ゴ……ゴゴッ……」


 また、デスドラゴンのノドが膨らんだ。


 ブレス攻撃か!


 俺はデスドラゴンの側面を走りながら、丸太のようなしっぽを飛び越える。


 まずい。言葉が通じないから、時間稼ぎができない。


 俺の額から、冷たい汗が流れ落ちる。


 今、ブレス攻撃を受けたら、死亡確定だぞ。なんとかしないと!


その時――。


「待たせたにゃ!」


 うにゃ子が俺の隣に並ぶように立った。その体が淡く輝いている。


「戦闘力一万を越えたスーパーうにゃ子の爆誕にゃ!」


 うにゃ子は右手を高く上げた。

黄緑色に輝く刃の槍が具現化した。その槍をうにゃ子が掴む。


「スーパーうにゃ子になった時だけ使える最強の槍『魔槍猫鈴まそうねこすず』にゃ。これを使ううにゃ子は鬼に金棒、猫に小判にゃ」

「猫に小判は意味が違うんじゃないか?」

「細かいことはどうでもいいにゃ。ここからが真の戦いにゃ!」


 うにゃ子はデスドラゴンに突っ込み、魔槍猫鈴を突いた。

 鈴が鳴るような音がして、黄緑色の刃がデスドラゴンのウロコを貫く。


「ギュウウウウ!」


 デスドラゴンは怒りの声をあげて、前脚を振り下ろす。うにゃ子は魔槍猫鈴で地面を突き、その反動で高く跳んだ。


「うにゃあああ!」


 変な鳴き声をあげて、うにゃ子は空中で魔槍猫鈴を振った。鈴が鳴る音とともにデスドラゴンの角が折れる。

 うにゃ子は地面に足をつけると同時に魔槍猫鈴を連続で突く。デスドラゴンの体に次々と穴が開く。


「ゴガアアアア!」


 デスドラゴンのノドが膨らみ、黒い炎が口から噴き出す。うにゃ子はぎりぎりでその攻撃を避ける。


 よし! クールタイムの時間が終わったぞ。これで、また【無敵モード】が使える。


 俺は両手のこぶしを強く握る。


 問題はデスドラゴンの防御力だ。パンチで殴っても致命傷を与えるのは難しい。

 その時、目の前にデスドラゴンの角が落ちていることに気づいた。


 この角……たしか神様が書き込んでたぞ。角に突かれると生命力が一気に奪われるって。その効果がデスドラゴン自身にも効くのなら、いけるかもしれない。


 俺は紫色の角を拾い上げ、デスドラゴンに向かって走る。


「ここで決めるにゃ!」


 うにゃ子がくるくると魔槍猫鈴を回して、呪文を唱える。黄緑色の刃の輝きが増した。


「うにゃ子四十八の奥義、七の型『桃玉流星ももたまりゅうせい』!」


 魔槍猫鈴の柄の部分が一気に伸び、黄緑色の刃がデスドラゴンの胸に大きな穴を開けた。

 しかし、デスドラゴンの動きは止まらなかった。

 怒りの声をあげて、前脚を振り上げる。


まずい! 大技を使ったせいか、うにゃ子の動きが鈍い。


【無敵モード】発動! 


 俺は一瞬でうにゃ子の前に移動した。

 デスドラゴンは大きな口を開けて、俺を噛もうとする。


 この位置ならちょうどいい! 


 俺は持っていた紫色の角を力を込めて投げつけた。角はデスドラゴンの口の中に入り、頭部から飛び出した。その角が天井の岩に突き刺さる。


「ゴ……ゴゴ……」


 デスドラゴンは口を開けたまま、動きを止めた。


 どうだ? やったか?


 数秒後、デスドラゴンの巨体が傾き、横倒しになる。


「た、倒せたか……」


 俺は深く息を吐き出した。


 同時に視界に神様たちの書き込みが表示される。


【おおおーっ! ナイスだ。この男、なかなかやるな】

【ああ。折れていた角を利用するとは】

【つーか、パワーとスピードがとんでもないぞ。こいつ、何のスキルを持ってるんだ?】

【普通の戦闘スキルじゃないな。上位スキルの【剛力】と【神速】だろう】

【マジかよ。二つとも、めちゃくちゃ強いスキルじゃないか】

【それだけじゃないぞ。こいつはデスドラゴンのブレスでもノーダメージだった。多分、防御系のスキルも持ってやがる】

【なんだそれ? 戦闘神レベルじゃないか】

【そんなことはどうでもいいっ! 月見秋斗、お前が止めを刺すな。空気読め!】

【そうだ、そうだ。うにゃ子が止めを刺したほうが、動画が盛り上がったのに】

【いや。うにゃ子が死ぬよりマシだろ】

【たしかにそうだな。うにゃ子が死んだら、新作の動画が観れなくなるし】

【とりあえず、お疲れさん。これは祝いの品だ。うにゃ子、受け取れ】


『うにゃ子は生活スキル【水生成】を手に入れた』


 強調された青い文字が表示された。


 これが投げスキルってやつか。


「みんな、感謝なのにゃ!」


 うにゃ子が何もない空間に向かって手を振っている。


「次の配信でもよろしくにゃ」


【動画モード】が終わると、うにゃ子が俺の肩を叩く。


「秋斗、ありがとう。おかげで新しいスキルも手に入れたし、報酬もゲットだよ」

「報酬は俺ももらえるのか?」

「もちろん。デスドラゴンの素材もあるから、大金貨十五枚以上は渡せると思う」

「おおっ、マジか。それは有り難いな」


 魔族の賞金もあるし、これでいい魔法武器でも買うか。普通の短剣じゃ、攻撃力がいまいちだしな。


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