第4話 冒険者ギルド

 二日後、俺とリティスはマブルの町に到着した。


 マブルの町は円形で、周囲を高い壁で囲われていた。中世風の家が並んでいて、巨大な門の前には多くの荷物を積んだ馬車が並んでいる。


「まずは冒険者ギルドに行くぞ」


 リティスが言った。


「異界人なら身分を証明するためにも登録しておいたほうがいいし、ダルドを倒した賞金ももらえるからな」

「それ、俺ももらえるのか?」

「当たり前だ。手続きは私がするが、全額お前に渡すぞ」

「え? いいのか?」

「もちろんだ。ダルドを倒したのは秋斗だからな。私は魔族討伐の依頼料だけでいい」


 そう言って、リティスは町に向かって歩き出す。


 こいつ……いい奴だな。二つ名に『正義』の文字が入ってるだけある。大ポカをやらかしたのに詫び石一個しかくれないコロンとは大違いだ。


 俺はリティスに感謝しながら、彼女の後を追った。


 ◇ ◇ ◇


 冒険者ギルドは四階建ての大きな建物の中にあった。

 一階には多くの冒険者がいて、掲示板に貼られている依頼書をチェックしている。


 おおっ! 頭に獣の耳を生やした人がいる。リティスが言ってた亜人ってやつか。


 冒険者たちの声が聞こえてきた。


「グリン村のゴブリン退治は金貨四枚か。悪くないな」

「ああ。情報通りなら、群れの数も多くはないし、楽な仕事かもしれねぇ」

「でも、こっちのオーガ退治の仕事のほうがよくない? 依頼料は大金貨一枚だし」

「いや。オーガ退治はEランクだけの俺たちのパーティーでは厳しい。遠距離攻撃ができる魔道師もいないしな」

「うーん。安全に稼ぐのは難しいわね」


 弓を背負ったエルフが肩をすくめる。


 やっぱり、モンスターを退治する仕事が多そうだな。


 俺とリティスは冒険者たちの間をすり抜け、受付に向かった。

 受付には二十代ぐらいのスーツ姿の女がいた。


「やあ、マリン」


 リティスは女の名を口にした。どうやら、知り合いのようだ。


「魔族討伐の依頼を終わらせたぞ」


 そう言って、リティスは魔道具のポーチから金の首輪を取り出し、カウンターの上に置いた。


「魔族の名はダルド。Sランクのラックスを殺した魔族のようだ」

「ラックスさんを……。では、賞金が懸けられた魔族ですね」


 マリンは奥にある戸棚から書類を手に取る。


「依頼の報酬はすぐに渡せますが、賞金はいろいろと確認がありますので、数日かかると思います」

「わかった。それと秋斗の冒険者登録を頼む。異界人で三日前にこっちの世界に転移したらしい」


 リティスは俺の肩を軽く叩く。


「ちなみにダルドを倒したのは秋斗だ」

「えっ? リティスさんが倒したんじゃないんですか?」


 マリンの目が丸くなる。


「ああ。だから、賞金は秋斗に渡してくれ」

「ほっ、本当にこの方が魔王軍の幹部の魔族を倒したんですか?」

「本当だ。証拠の金の首輪もあるだろ?」

「それは……そうなんですが、魔王軍の幹部の強さはSランク冒険者と同レベルと報告されています」

「それだけ秋斗は強いってことだ」


 リティスは何故か自慢げに胸を張った。


「秋斗なら、すぐにSランクになれるだろう」


 その言葉を聞いて、近くにいた冒険者たちが騒ぎ出した。


「おいっ、あの男、Sランクレベルの実力があるみたいだぞ」

「マジか。全然強くなさそうだが」

「ああ。だが、Sランクのリティスが認めているんだ。間違いなく強いんだろう」


 冒険者の視線が俺に集中する。


 う、あんまり目立ちたくないんだけどな。強いっていっても、【無敵モード】には大きな欠点があるし。


「なあ、マリン」


 リティスがカウンター越しにマリンに顔を近づける。


「秋斗の強さは私が保証する。だから、一番下のFランクからではなく、もっと上のランクで登録するのはどうだ?」

「特例ってことでしょうか?」

「ああ。たしか、ギルド長が強者と認めれば、Dランクから登録できたはずだ」

「そう……ですね。秋斗さんが魔王軍の幹部を倒したのなら、特例は認められるかもしれません」


「いや、いいよ」


 俺はバタバタと両手を振る。


「この世界のこと、全然わかってないしさ。普通にFランクから始めるよ」


 Dランクが受けられる仕事は危険度が高そうだしな。コロンからもらった詫び石と賞金があれば、当分の間は生活できるし、無理をする必要はない。


「遠慮するな、秋斗」


 リティスが言った。


「お前は確実にSランクレベルなんだ。特例でDランクになっても問題はない」


「そいつはどうかな?」


 突然、野太い声が聞こえた。

 声のした方向に視線を向けると、二十代半ばぐらいの男が壁際に立っていた。


 男は茶色の髪を後ろに束ねていて、背丈が百八十センチを越えていた。ダークグリーンの服を着ていて、腰には二本の短剣を差している。


「ザッドか」


 リティスの銀色の眉が眉間に寄る。


「何か言いたいことがあるみたいだな」

「ああ。俺にはその異界人がSランクレベルとは、とても思えなくてな」

「……私の言葉が信じられないと言いたいのか?」

「まあ、そうだな」


 ザッドは頭をかいた。


「いや、あんたの実力は認めてるんだ。Aランクの俺より強いのは間違いねぇし。だが、相手の実力を測る能力は、いまいちじゃないか、って思ってな」

「バカなことを言うな! 私は秋斗が魔族を倒したところをこの目で見たんだ!」

「そのことだよ」


 ザッドはちらりと俺を見る。


「魔王軍の幹部を倒したことは事実だろう。証拠の金の首輪もあるしな。だが、そいつを倒したのは、お前じゃないのか?」

「んっ? 私が倒した?」


 リティスは首をかしげた。


「なぜ、そんなことをする必要があるんだ?」

「お前がそこの異界人に惚れて、実績を作ってやろう、と考えたんじゃないかってな」

「なっ、何を言ってるっ!」


 リティスの顔が熟れたトマトのように赤くなった。


「私は人族の未来と平和を守るために冒険者になった女だ。恋愛などにうつつを抜かすことは絶対にない!」

「そうかそうか。なら、俺がそいつの実力を試してやるよ」

「実力を試す?」

「ああ。Aランクの俺がそこの異界人と模擬戦をやってやる。三分立っていられたら、Dランク以上の実力があると認めてやるってことだ」

「ふっ、三分立っていられたら、か」


 リティスはふっと笑った。


「秋斗とお前が戦ったら、お前は三分持たずに敗北することになるだろう」

「……ほぉ? 面白ぇ」


 ザッドも口角を吊り上げて笑う。


「ならば、地下の訓練場でやろうぜ。その結果で冒険者ギルドはこいつのランクを決めればいい」

「いいだろう。ここなら、魔法医もいるからな。お前のケガもすぐに治してもらえるぞ」

「ふふっ、言うねぇ」


 リティスとザッドは互いに視線を合わせる。


 うーん。無理にDランクになる必要はないんだけどなあ。


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