第2話 ファーストバトル
ゴブリンが振り下ろした短剣の刃が俺の腕を
「いっ……敵意ありありじゃないか」
俺は腕を押さえながら、後ずさりした。
ゴブリンはよだれを垂らしながら、ゆっくりと俺に近づいてくる。
「地上に下りて一分で敵モンスターと遭遇かよ。RPG(ロールプレイングゲーム)より展開が早いって」
俺は唇を強く噛んだ。
こうなったら、【無敵モード】を使うしかない!
【無敵モード】発動!
強く念じると同時に腕の傷が消えた。
【完全回復】の能力が発動したってことか。
俺は視界の右上に青色の数字があることに気づく。
九……八……七……。
そうか。これが【無敵モード】のカウントダウンだな。
「ギャギャ!」
ゴブリンが俺に突っ込んでくる。
しかし、その動きはスローモーションのようだ。俺は一瞬でゴブリンの背後に回り込む。 これは【超神速】の効果か。いけるぞ。
武器はないけど、【超剛力】のスキルがあれば……。
俺は右手のこぶしでゴブリンの胸を殴りつける。
ゴブリンは水平にぶっ飛び、後方の木の幹にぶつかった。
ぐしゃりと音がして、ゴブリンの体から赤黒い血が流れ落ちる。
「あ……」
俺は木の幹に張りついているゴブリンを見つめる。
「死んだ……みたいだな」
俺は深く息を吐いて、額の汗をぬぐった。
視界の右上の数字の色が赤色に変わっている。
六十……五十九……五十八……五十七……。
「これがクールタイムか。赤色の数字が0になれば、また【無敵モード】が使えるってことだな」
【無敵モード】の使い方はわかった。弱い相手ならワンパンでも倒せるけど、問題は強い相手や複数の敵と戦う時だな。十秒過ぎた後、敵が反撃してきたら、一瞬で殺される可能性がある。
それに……。
俺はゴブリンの死体を見つめる。
たとえ、敵意のある生物でも、殺すのは気持ちのいいものじゃない。
いや。そんな考えじゃダメだ。俺が無敵になれるのは十秒だけなんだから。
「よし! これは最新のVRゲームだ! 敵はゲームキャラだから、容赦なく殺す。覚悟を決めろ、俺!」
俺は両手で頬を強く叩いた。
ふと、足元を見ると、ゴブリンが持っていた短剣が落ちていた。
「刃が欠けてるけど、武器ゲットだな」
短剣を拾い上げ、軽く振ってみる。
「うーん。短剣なんて使ったことないけど、なんとかなるか」
俺は森の中を歩き出した。
◇ ◇ ◇
森の中の小さな草原で顔を上げると、巨大な月が夜空に浮かんでいた。その大きさは地球の月の十倍以上あり、周囲の木々を淡く照らしている。
「でかい月のおかげで、夜も歩けるな」
俺は竹筒で作った水筒に口をつけ、中に入っていた水を飲む。
【無敵モード】があれば、五体のゴブリンに襲われても余裕で撃退できたし、とりあえずは何とかなりそうだ。
問題は町や村の場所がわからないことか。位置がわかれば、【超神速】の能力を何度も使って移動することができるのに。
その時――。
「そこから動くな」
背後から、声が聞こえてきた。
振り返ると、銀髪の女が俺に短剣を向けている。
女は十代後半ぐらいの見た目で、左右の耳がぴんと尖っていた。瞳は緑色で、すらりとした体型をしている。服は暗い赤色で焦げ茶色のブーツを履いていた。
この尖った耳……もしかしてエルフなのか?
女は薄く整った唇を動かす。
「ここで何をしている?」
「お、俺は月見秋斗。えーと、日本人で十七歳の高校生だ」
「月見……秋斗?」
女は銀色の眉を眉間に寄せた。
「その姓と名……もしかして、異界人か?」
「あ、ああ、そうだ。今日、こっちの世界に転移してきたんだ」
「……ふむ。嘘……ではなさそうだな。お前からは悪意を感じられない」
女は短剣を腰のホルダーに戻した。
「私はリーランド男爵の三女、リティス・リーランド。Sランク冒険者の魔法戦士だ」
「魔法戦士? それにSランクって、相当強いんじゃないのか……いや、ないんですか?」
「丁寧な言葉を使う必要はない。私は貴族として生きているわけじゃないからな」
女――リティスは俺の肩を軽く叩く。
「Sランクは圧倒的な戦闘力を持つ冒険者しかなれない特別なランクだ。シルバ国に四十七人しかいない」
「その中の一人が、リティスってことか」
俺は大きく息を吐き出した。
よかった。敵じゃなさそうだ。
「えーと、リティス。近くの町か村の場所を教えてくれないか?」
「それなら、東にあるマブルの町まで送ってやろう。あそこなら、異界人でも生きていくための仕事があるだろう」
「おおっ、マジか?」
「ああ。ただ、私の仕事が終わってからだ」
「んっ? どんな仕事なんだ?」
「魔族の討伐だ」
リティスの声が低くなった。
「魔族は太古の邪神ダジュラの血を受け継いだ種族だ。魔力が多く、力も人族より強い。その魔族らしき姿をこの森で見かけたと情報が入ってな」
「危険な仕事っぽいけど、一人で大丈夫なのか?」
「普通の冒険者なら、パーティーを組んで戦うところだが、私はSランクだ。魔族の一人や二人、余裕で倒してみせる」
リティスは白い歯を見せて笑った。
「それにしても、こんな危険な森でSランクの冒険者に会えるなんて、お前は運がいいぞ」
「いいや。その男の運は最悪だ」
突然、木の陰から青白い肌の男が現れた。
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