『ついにこの時がやってきた!! 第17回ベアナックルボクシング帝王戦。闘術、魔術、武器の使用は禁止。その他何でもありの決闘が、今ここに始まる!! さぁ、お前たちの見たいものは、何だ!!』


「血だ!!」

「サリドンだ!!」

「殺し合いだ!!」

「非日常だ!!」

「新たな王だ!!」

「獣だ!!」

「命の輝きだ!!」

「王者の記録更新だ!!」


「闘術?」


「それはベルナデッタが戦士になったら教えてやろう。しがない町娘にこれを教えたところで、毒にも薬にもならん」


「そう、ならいいよ」


『次に選手の紹介だ!! チャンピオンはもちろんこの男。旧ドルディア軍の切り込み隊長にしてドルディア最強のドラコ! 鍛え抜かれた強靭な肉体、翼がすべてを破壊する!! バン~~、サリドン!!』


「待ってたぜー!!」

「勝てー!!」

「記録を塗り替えろー!!」


『続いて挑戦者はこの男。光ある所に影がある。もっとも敵国に恐れられ、暗躍したループスのアサシン。ドルディアが生んだ死神が今、解き放たれる!! グラ~~ン、ウォーカー!!』


「あいつを玉座から引きずり落とせ―!!」

「ループスの意地を見せろー!!」



 今からここで行われることはベルナデッタでも容易に想像できた。暴力による殺し合いだ。殴る、蹴る、もしくはそれ以上の方法で相手を痛めつけ、屈服させる。ベルナデッタはそれを平然と行おうとする当事者、それを肯定する観衆に大きないきどおりを感じていた。人を傷つけて、それを見て一体何が楽しいのか、と。そして、登場したチャレンジャーにチャンピオンが声をかける。


「いいのかい? あなたのような使い手がこんなところに出張ってしまって。ここでは毒も武器も使えないんだぜ?」


「それはお互い様だろ。闘術のないあんたを屈服させるくらいなら、この身一つで十分だ」


「そうかい。なら早速、やろうか?」


 

 次の瞬間、サリドンは目にもとまらぬスピードでウォーカーの懐まで接近し、こぶしを振りぬく。その一連の動作は闘術がないにもかかわらず、常人の目には追えないような速さであった。しかし、ウォーカーはこの一撃を難なくかわす。まるで始めから、そこに攻撃されると分かっていたかのように。さらにウォーカーはカウンターの拳をサリドンに向かって放つ。それをサリドンは振りぬいた拳とは逆の腕で防御した。あいさつ代わりの一撃を済ませた両者は、ここで一度距離を取る。


「流石は歴戦のドラコ、硬いな」


「あなたもいい読みだ。とても攻撃が当たりそうにない」


「当たれば即致命傷なんだ。当然の対処だろ? じゃ、いくぜ?」



 ウォーカーは顔の前に構えていた拳を下ろし脱力する。そのたたずまいは決闘という場であるにもかかわらず、まるで自宅でティーブレイクをしているかのような穏やかさが内包されていた。その異様な雰囲気にサリドンは警戒を強めるも一瞬、遅かった。


『おーっと! ここで挑戦者の拳がサリドンの腹部に炸裂さくれつー!! 先制攻撃を決めたのはウォーカーだー!!』












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