Ⅸ
「ああ、わしは初めて、この時代の転換に感謝しているのかもしれん。戦乱の世が終わっていなければ、このような光景を一生拝むことはできなかっただろう」
「なんなの、これ……」
「これが彼が極めた暗殺術の集大成なのだろうな。ベルナデッタは一対一で戦うとき、敵の何を見て攻撃、防御などを選択すると思う?」
「う、動きを見て判断するんじゃないの?」
「五十点、じゃな。より詳しく言うと相手の視線、重心、生命エネルギーの動きを見て、判断するのが一般的だ。まぁ、今回は魔術も闘術も使用禁止じゃから、生命エネルギーはさほど重要ではないが。そしてもう一つ、相手の行動を判断するうえでこれらの動きと同じくらい重要視すべきことがある。それは、意志じゃ」
「そんなの、戦いの参考になるほど分かるものなの?」
「ああ、分かるさ。ベルナデッタはウォーカーの戦い方を見て何かおかしいと思ったのじゃろう?」
「うん、あの人は決闘の最中なのに、寒気がするくらいリラックスしてる」
「それがまさに、ウォーカーの意志がもたらした結果じゃよ。本来このように戦うこと、つまり命を奪い合う現場では常に敵意が飛び交う。それも渦潮のように強く、激しく。そのような戦場に長く身を置くと、だんだん分かって来るんじゃよ。相手の敵意の強弱、揺らぎ、浮き沈みに応じてどのような行動が現れるのか。わし程度では勘の域を出んかったが、あの二人くらいの実力の持ち主ならおそらく、それを見ただけで相手の次の行動を確信できる」
「それは、すごいね」
「それで話は戻るが、ウォーカーがもたらす違和感の正体はこの動きと意志が極限までそぎ落とされていることに由来する。おそらくサリドンからすれば何もないところから突然、攻撃されたようなものじゃろうな。そしてサリドンの対応力もイカれとる。初撃こそもろに食らったが、それ以降はギリギリのところで防ぎ、躱す。流石はチャンピオンだ」
この時サリドンはウォーカーの攻撃の初動に全神経を注いでいた。本来ならそれ以前に行われる視線、重心、意志の動きから相手の動きを予測する。しかし、暗殺者としてのウォーカーの卓越した技術が、それを許さなかった。これによりサリドンは後手に回ることを強要される。
(初撃以降はとにかく当たらないよう防御最優先か。それでいてこの王様は攻撃の意志を無くしてるわけじゃねぇ)
(これほどまでに踏み込みも意志も感じられないのに、その攻撃はとてつもなく速いし、無視できないほど重い。やれやれ、この挑戦者は、今まで戦った相手の中で最も……)
(こっちがしびれを切らして強引に攻めようとすれば、手痛いカウンターが飛んできそうだな。全く……)
「「面倒な相手だ」」
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