11話 店長 小沼
ホールの店長の朝は早い。
9時開店ともなれば、7時にはホールにいなければいけないのだから。
しかも、特に大きいイベントの日となれば、睡眠時間が3時間というのは当たり前である。
前日にスロットやパチンコマシンの調整を一人で行なわなければいけないため、閉店作業後の深夜1時などから孤独な戦いが始まるのだ。
ただ、この苦労もイベントを楽しみにしてくれているお客様の顔を思い浮かべるだけで完遂できるというものだ。
ここでホール店長の業務を簡単に説明しよう。
そもそもマシンの調整に関しては不特定多数の人間が関わることができないため、どのホールも一人、もしくは二人である。
よほどの規模の大型ホールであればスロットに二人、パチンコに二人といった形で分業しているところもあるが、小沼が勤めているホールに関しては小沼店長が一人で行なっているのだ。
では、どのような作業するかというと、薄暗い店内(現在は経費削減と防犯のためほとんどの調整箇所以外は電気を消している)で1台、1台マシンを調整していくのだ。
正直いってこの作業・・疲れるというのはもちろんのこと、何より非常に怖いのだ・・
ホールという戦士達の怨念渦巻く場所において、普段は見えないものが見えたりもするものだ。
実際、いくつかのホールのトイレというのは心霊スポットになっていたりする・・
店の端っこで調整していると、どこからか突然笑い声が聞こえてきたり。
誰もプレイしていない台が突然回転し始めたりするなんてことは今まで何度も経験している。
「こういうのもあってお給料は普通のサラリーマンよりも良いんですけどね」
小沼氏は笑顔で語る。
そんな小沼氏には密やかな楽しみがあった。
まあ・・これはどこのホールでもやっていることなんですが・・
お客様にあだ名をつけること。
例えば、今日なんていつもは最後尾でしか見ない彼が25番に並んで鼻息荒くして並んでいる。
彼はいついかなる時でもクランキーばかり打つから・・
「クランキー君」
こう呼ばれています。
あとは・・そうだな・・
226番で脂汗がすごい彼とか
いつもジャグラーの設定1ばかり打つくせにやたらぺカるから
「ヒカ⭐︎キン」
高設定台掴んでもレギュラーばかり引いて毎回捨てちゃうんですよね。
でも、なぜか勝つから、豪運体質であることも含めてのあだ名ですね。
小沼店長は語る
「この業務はやはり大変だけど、お客様の喜怒哀楽が見れるのが楽しいですね。」
「笑顔だけって言わないのは、笑顔だけ見えてるってことはお店潰れちゃうからねw」
「さあ、そろそろ開店の時間だ!」
そう言いながら小沼店長は光の中へ消えていった。
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