第6話

「すっげぇな、こんなにデカい熊、嬢ちゃんが一人で仕留めたのか?」


「そんなまさか、これは彼が……って、ジョン?」


 ノエルとジョンは街へと出向いて、熊を市場へと卸していた。

 だが、市場についたとたん、ジョンは必要書類を手渡し、いつの間にか姿を消していた。


「おい、見てみろよ。あのデカい熊を!」


「あんな女の子がやったのか!?」


「雑誌の記者です、話を聞かしてください!


「え、えっ、えぇっ~!?」


 ノエルは、人々に囲まれて困り果てていた。


 一方のジョンは逆に人気の少ない路地に足を踏み入れていた。

 その路地に一つのコンクリート打ちの扉に手を掛けた。

 中には、外見からは想像も付かないシックな空間が広がっていた。

 ヒノキを使ったショーケースの中にはライフルが、整然と並べられていた。


 裏から仕立ての良い高級スーツをしっかりと着込んだ店主が現れた。


「いらっしゃいませ。

 当店は会員制となっておりますが……。

 カイル様。 今月はいつもの日に現れず、心配していたのですよ」


「ああ、少し面倒があってな。

 こいつに合う弾薬をくれ」


「ふむ……VSR-9 初代Hunter アンティーク趣味がおありだったとは。

 しかし、良い一品ですな。

 少々、お待ちを」


 店主はカウンターから、小箱を取り出す。


「シカ用のソフトポイント弾。それから、熊用のポリマーチップ弾。

 いつも通り、3ダースずつでよろしいでしょうか? 」


「……それに加えて、別の弾が欲しい」


「ふむ。どのような動物を狩るおつもりで?」


「猿だ。

 偉そうに二足歩行をして、自分の事を全知全能だと思い込んでいる畜生共を狩る」


「……」


 店主は押し黙った後、別の戸棚から小箱を取り出した。

 箱の側面にはArmyの文字が印刷されていた。


「軍の放出品です。

 威力、精度、取り回しの良さ共にそういった獲物を狩るのに、最も特化しているでしょう」


「サイドアームは?」


「オートマチック……はお好みではありませんでしたね。

 でしたら、これは如何でしょう。

 マグナム・リボルバー”アナコンダ・キラー”。南米のハンターが地面を素早くはい回る大蛇を仕留める為に、開発されたものです」


 黒光りする大型の拳銃を、ジョンは構え、シリンダーを振り出し、手でくるくると弄んだ後、店主へと返した。


「パーフェクトだ。貰おう」


 店主は微笑み、請求書を手渡した。

 先の熊一頭分ほぼそのままの値段だった。


「足元を見てきやがる」


「商売ですので。ですが、品質は一級品です。

 あなた様のことは信用しております。

 ここはツケということでも構いません」


「いや、一括で払う」


「毎度、ありがとうございます」


 品を受け取り、帰ろうとするジョンに店主は声をかけた。


「これは私からの個人的な餞別です。

 アーミー・コンバットナイフ。 

 切れ味は抜群です。


 では、良い狩りを」


 ◇


「隠しているんだろう!? 早く出せよ!」


「持ってないよ!」


 アパッチ村では住民たちがいがみ合っていた。

 作物が荒らされたことで、不安が蔓延し、備蓄のない住民たちが備蓄がある家庭に詰め掛けていたのだ。


「そもそも、お前達がちゃんと備蓄していればよかっただろう!」


「去年の冬、屋根を修理してやったことを忘れたのか!?」


「さぁ、覚えてないね!」


「なんだと!?」


 住民が乱闘になりかけた時、エレンが駆けつけた。


「やめろ!」


「エレン、こいつ、たっぷりと蓄えているくせに一人で独占しようとしているんだ!」


「自分で買ったモノを何故他人に渡さないといけない!? 悔しいなら、かかって来いよ!」


「お、おい、やめろ!」


 やがて、村人たちは乱闘を始めてしまう。

 女子供たちは怯え、群衆の中からは溜息が漏れた。


 そして、こんな声が漏れ、聞こえて来た。


「……ジョンがいれば、こんなことには」


 それを聞いた途端、エレンの眉間が跳ねあがった。


「そんなことはない!」


「い、いや、だって、誰か狩りをしていればこうはならなかっただろ?」


「違う、断じて、違う!」


 声の主に詰め寄ったエレンだが、周囲の困惑する目線を感じ、熱が冷めた。

 まずい、何か言い訳を……。


「そ、そうだ。

 僕は証拠を見つけたんだ!

 いきなりシカが現れるなんて、おかしいだろう。

 あ、足跡を見つけたんだ!


 そう、隣のコマンチ村の連中の仕業だ!」


「なんだって!?」

「本当かよ!」

「クソ、あいつら俺達を逆恨みしやがって!」


 住民たちはエレンの力強い宣言をまさか咄嗟にでた嘘だとは思わず、信じた。

 一方、エレンはなんとかなったと胸を撫でおろした。


 だが、この失言が大変なことになっていくとは考えもしなかった。


 突然、村長が息を切らしながら走って来た。


「おい! 大変だ、エレン! 連邦の軍人たちが!」


「ほぅ、隣村の仕業とな」


 村長が紹介する前に、その男が口を開いた。

 軍服を着込み、ベレー帽を被り、立派な口ひげを携えた軍人はニヤリと笑った。


「エレン君と言ったか。

 この私、連邦派遣分隊長、ペトロフに教えてはくれないか?」







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

カウンター・スナイパー ―追放された猟師は、追放者を狩る @flanked1911

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ