第36話 子ども
アクリョーが目を覚ますと目の前には魔物に締め上げられるキリエがいた。
魔物に捕えられたキリエは死を覚悟した。
「...マア...マァ」
魔物の鳴き声を聞きキリエは恐る恐る目を開けた。
目の前では可愛らしい少女が心配そうな上目遣いでキリエをみつめていた。
なんて恐ろしい魔物だ。
幼い子どもに擬態して人間を油断させて近付き、じわじわと締め殺すのだろう。
すでに捕まってしまったキリエには死を待つことしかできなかった。
(終わりですわ!殺されますわ!
だんだんと締め上げる力が強く...
なってない??)
「マァ...マ?」
「ママ...ですの?」
「マァ、マー!!」
少女の顔がパァッと明るくなった。
かと思うとキリエのお腹に顔をぐりぐりと押し付けてきた。
(え、何これ、どういう状況...?)
アクリョーはポカンと口を開けキリエたちを眺めていた。
キリエにも何が起きているのかわからなかった。
しかしこの魔物、少女が自分を殺そうとはしていないことはわかった。
少女はしばらくキリエに抱きついていると満足したのかキリエを解放した。
そして今度はアクリョーに近寄ってしゃがみ込んだ。
「マァ...ンマ...?」
「く、来るな!」
アクリョーは怯えてキリエの背中に隠れた。
身体中が少女への危険信号を発していたのだ。
「アクリョーが視えるんですのね?」
「アァ...ク...リョ?」
少女は首を傾げた。
キリエはそんな少女を警戒しながら見つめる。
自分への敵意は感じなかったがアクリョーを食べたのは事実。
まだ敵ではないと判断しきれなかったのだ。
しばらくすると少女はペタンとその場に座り込んだ。
「イッ...パァ...イィ。」
胸をさすりながらそう言うとすやすやと眠り始めた。
キリエとアクリョーは顔を見合わせた。
「ど、どうする?
今のうちに殺っとくか?」
少女の寝顔はとても可愛らしく安心しきった安らかなものだった。
「こんな可愛い子どもを殺れるわけないですわよ!
こんなに無防備に寝てるんですわよ?
あなたには人の心がないんですわね!」
キリエは小声で怒鳴った。
「いや、でも魔物だろ?
そうやって油断を誘うやつなんていくらでもいたじゃないかよ。」
「この子は違いますわよ!
そんなふうにしか見えないなんてあなたの心が捻くれてるからですわよ!」
「お前は楽観視しすぎなんだよ!
さっきだって殺される寸前だったじゃんかよ!
気まぐれで助かっただけだろ!」
「こんな純粋な子に向かってなんてこと言うんですの!」
「ンー。」
少女は顔を歪めてそっぽを向いた。
「アクリョーがうるさいから起きちゃうじゃないですの。」
「いや、それはキリエの方だろ。」
「まあ、いいや。
こいつを殺さないとして、じゃあどうする気だよ。
このまま逃すのか?」
「それは...」
「すぐそこは町なんだぞ。
逃して他の人を襲ったらどうすんだよ。
責任取れるのか?
まあ町の人間がどうなろうがお前の知ったこっちゃないだろうけどさ。
こいつが他のやつにやられる可能性だって十分にあるんだぜ。」
「...わかりましたわよ。
それじゃあ私が...」
「やっとわかったか。
せめてもの情けだ。寝てる間に一撃でやってやれよ。」
「私が育てますわ!」
「なんでだよ!」
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