第37話 メロメロ

「育てるって正気かよ!?

自分1人で生きるのだってやっとじゃないかよ!」


「そ、そんなことないですわよ。」


そんなことはある。

少し前のキリエは生きる希望を失い、放っておけば死んでしまいそうなほどだった。

今は元気を取り戻してきているものの、またいつあの状態に戻ってしまうかわからない。


そんなキリエが今、やりたいことを見つけ主張している。

それを奪う権利があるだろうか。


「...そうだな。俺が間違ってたよ。」


「やっとわかりましたのね。

こんなに可愛い子が悪い子なわけないですわ。」


キリエは眠っている少女のほっぺたを優しくつついた。


「ぷにぷにですわ。うふふっ。

アクリョーも触ってみなさいな。」


「いや、俺は...。ああ。」


嬉しそうなキリエにアクリョーは黙って従うことにした。

キリエとは反対側へ行きほっぺたをつつく。


ぷにっ


「ほんとだな!

子どものほっぺたってこんなに柔らかいんだな!」

「そうですのよ!」


「こんなぷにぷにしたもの初めて触ったよ!」


そう、初めてだった。


アクリョーが今までぷにぷにしたものと縁遠い人生を送ってきたとかそういう話ではない。


何かに触れること自体、幽霊になって初めてのことだった。


「あれ??なんで触れるんだ?」


アクリョーは自分の右手を確認した。

しかしいつもと変わった様子はない。


今度はキリエの元へ飛んで行き、キリエのほっぺたを触った。

しかしぷにぷにとした感触はなかった。


「そういえばさっき襲われた時も、俺がメロンを触って...」


あの時も確かに触れていた。


アクリョーは恐る恐るそこに実ったメロンを触った。


ぷにっ


「どこ触ってるんですの!?

変態ロリコン悪霊!!」


「い、いや!違うっ!そういうんじゃねぇよ!

触れるのか気になって!」

「大きな胸が気になったからって触っていいわけないですわよ!

変態痴漢ロリコン悪霊!」


「だからそういうことじゃなくて!

俺が何かに触れたことがなかったからさ!

なんで触れたのか気になったんだよ!」


「だからって胸を触ることないですわよ!

無意識に本性が出ちゃってるんですわ!」


「いや、そんなこと...」

ないとは言い切れないのがアクリョーの、男のさがである。


「てか、こいつは何なんだよ。

本当にただの魔物なのか?

今まで出会った魔物は触れもしなかったし、俺のことを認識すらしてなかったぞ。


いや、魔物だけじゃない。

キリエ以外に俺を認識してるやつなんていなかったし、お前でも触ることまではできないだろ。

ほんと何なんだよこいつは。」


「天使ですわ。

きっと神様が遣わした天使ちゃんですわよ。」


2人が少女について話していると少女が目を覚ました。


「あら、起きちゃったんですのね。」


少女は眠たげな目を擦りキリエたちの方を見ている。

そんな少女にキリエは優しく質問した。


「あなた、自分のことがわかりますの?

何者なんですの?」


「...ン?...メェロ...?」

「メロ?あなたメロっていうんですのね!?」


「フワァァアァァ...」

「やっぱりメロですのね!メロちゃんっ。」


「トトロに出会ったメイかよ!

俯きながらあくびしただけだろ。

...まあ名前なんてなんでもいいよ。

そいつが何者かって話だろ?」


今度はアクリョーが少女に話しかける。

「お前、俺のことが視えるんだよな?」


少女は話しかけてきたアクリョーの方へ目をやった。

やはり少女にはアクリョーが視えているし、声も聞こえるようだった。


「メロちゃんはすごいですわねぇ。」

キリエは少女の頭をなでた。

少女はとても嬉しそうだ。


「お前、人の言葉がわかるんだよな?

しゃべるのは得意じゃないのか?」


「...ウ...ン。」


「人間を食べたりはしないよな?」

「ウ...ン。」


「そうか。

一応意思疎通は取れるっぽいし大丈夫そうかな。

...全部人を騙すための演技じゃなければだがな。」


「なんてこと言うんですの!

自分基準で考えるからそうなるんですわ!

みんながみんなアクリョーみたいに悪いことを考えるわけじゃないんですわよ!」


アクリョーを睨むキリエは優しい目つきに変え少女に語りかけた。


「メロちゃん。

私たちと一緒に旅に来ないですの?

きっと楽しいですわよ。」


「...ウン!」


少女は嬉しそうに大きく頷いた。


こうしてキリエとアクリョーの2人旅は終わり、3人での旅が始まることとなった。

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