第27話 vsフィレム・ユーウェイン
(一人称視点)
魔物が住まう大森林を、俺とフィレムが駆けてゆく。
「――【
いや、彼女に対しては飛翔するという表現が正しいだろうか。
足元から魔術による炎を噴き出し、それを推進力として凄まじい速度で加速する。
「Gya?」
そのままフィレムは進行ルートにいた魔物を焼き切った。
切断面だけが溶岩に触れたかのように、黒焦げになって魔物が崩れ落ちる。
「九」
そしてこんどは直線軌道から、ジグザグ軌道へと切り替える。
速度は一切緩めず、かといって木々に激突するような愚も犯さない。
なんたる動体視力、そして魔術と体幹の制御技術。この齢でここまでやれるとは、素晴らしい。
「こちらも負けていられないな」
足元に留めていた極点を右肩に移動。
俺の感覚は木々に隠れ潜む魔物の気配を捉えている。
「ふんっ」
「Gogya!?」
適当な石ころを拾い、魔物のいる方角にぶん投げる。
極点によって超強化された投擲は、樹木ごと貫通して裏に隠れていた魔物の頭部を粉砕した。
「これで俺も九体目。感知能力では俺に分があるようだな?」
「チッ」
舌打ちしたフィレムは更に速度を上げていく。
途中、試験に参加していた他の生徒とすれ違うが、
「わっ」
「なんだ!?」
「キャアッ」
「十」
フィレムは速度を落とすことなく、彼らの合間を縫うようにして最短距離を突き進む。
彼らに襲い掛かろうとしていた魔物を駆除することも忘れない。
だが、それよりも。
「今のはなんだ? 生徒に火傷一つ負わせず側をすり抜けたのか? そんなことが可能なのか!」
末恐ろしい才能だ。
俺が魔術に疎いのもあるだろうが、彼女の炎魔術の扱いには目を見張るものがある。
確実に標的を仕留めるための火力。
標的以外に一切傷を与えない精密な制御。
それを淡々とこなす度胸と自信。
全てを兼ね備えた小さな女王。炎の雌獅子フィレム・ユーウェイン。
「まさに学園の頂点にふさわしい。……俺も少し本気を出さなければな」
丁度その時、進行ルート上に一体の魔物を捉えた。
サイ型の魔物はこちらの姿を捉えると、木々を薙ぎ倒しながら突進してくる。
俺は避けることなく、極点と共に手のひらをかざし、
「
突進してくるサイ型の魔物を受け止めた。
そして魔物の移動エネルギーを
「Buoo!?」
「やはり魔物の力を取り込むのが一番効率的だな」
正面で停止した隙だらけの魔物をぶん殴る。
俺の力と魔物自身の力が上乗せされ、魔物の頭部から胴体の半ばまでグシャグシャに潰れた。
「十体目。そろそろ身体も温まってきたな」
「……貴様、今のは何だ」
「【極点】という技だ。色々できるが、こうして敵の力を吸い取ることもできる」
力を一点に集中させ振るうのが“剛剣術”の戦い方。
ならば敵の力を吸収し、それを自身の体内で集中させたならば?
その結果がこれだ。極点が取り込むのは、何も自分の力だけではない。
倒せば倒すほど極点の力が増す。かつて俺が一人で戦い抜くために編み出した、永久戦闘継続機関。
……最も、極点の
「さて急ぐか。魔物の数は限られているからな」
「ほざけ。勝つのは私だ」
進行方向が被っていた俺たちは、ここで別方向に転換する。
膨れ上がった力を極点で制御し、更に増した身体能力で木々を薙ぎ倒しながら獲物を探す。
……さて。後はフィレムがどう出るか、だな。
◆
試験開始から、二時間後。
時間切れと共に、俺とフィレムは森の出口へと辿り着いていた。
「流石だな。長時間戦いながら飛行して、傷一つ負っていないとは」
「…………」
試験が始まる前に配られていた腕輪型のマジックアイテムで、お互いの討伐数は誤魔化せないようになっている。
このまま森を出て教師に腕輪を渡せば、全生徒の前に討伐数が知れ渡るという訳だ。
だが。
「報告する前に、先に勝敗を見ておかないか? 生徒の前で敗北するのは辛いだろう?」
「口の減らない平民だ」
荒くなった息を整えたフィレムは、
それでも俺の提案には乗ってくれた。互いに腕輪を見せ、表示された数字を確認する。
「六十六」「六十七」
結果は、頻差でフィレムの勝利だった。
「おや、負けてしまったか。俺もまだまだ修行が足りないな」
「――――――――」
「どうしたフィレム。お前は俺に勝ったんだぞ。もう少し喜んで見せたらどうだ?」
「貴様、
フィレムが浮かべた表情は、歓喜ではなく苛立ちであった。
俺と初めて会った時、いやそれ以上の鬼気迫る表情で俺に迫る。
「一点差だと? そんな偶然があってたまるものか。貴様がわざと私に勝ちを譲ったと考える方がまだ納得がいく」
「……。ご想像にお任せしよう、だが勝利は勝利だ。学園の頂点の座はお前のものだぞ?」
「それ以上口を開くな愚か者。私の理性が残っている内にな……!」
剣に手を掛ける様子を見て、俺は肩をすくめて後ろに下がった。
……まさか一発で見抜かれるとは。実際、俺は頻差で負けるよう討伐数を
わざと勝負に負ける。前世の俺では考えもしなかったであろう。
だがお陰で、知りたかったことは確認できた。
「安心したよ、フィレム」
「は?」
「
「――ッ!?」
相手の本質を知るには、会話を交わすのが有効だと聞くが。
やはり俺にとっては、言葉よりも剣を交わす方が一番早い。
「確信したよ。お前はリリを襲ってない」
「き、さま、何を」
「お前は正々堂々の勝負を好むタチだ。そんな性格の奴がリリの襲撃を命じるはずがない。
先日は疑って悪かった。今日はお前の勝ちだが、今度は違う形で勝負をしよう」
そう言い残して、俺はフィレムを置いて出口へと歩き出す。
「待てっ、貴様!」
「――そうだ、聞きそびれるところだった」
俺の中でフィレムという女に対する印象が変化しつつあった。
同時にそれは、彼女の根源に対する興味へとなる。
「フィレム・ユーウェイン。お前は何のために剣を振るっているんだ?」
「何を言い出すかと思えば……! そんなもの決まっている――」
初めて見るフィレムの激情。
しかし彼女は、口元まで出かけた答えを飲み込んだ。
そして絞り出すように、冷静な答えを俺に告げる。
「……最強の騎士になることだ。我がユーウェイン家、そして王国の将来を守り、導く為」
「
俺にもわかる、見え透いた嘘だった。
フィレムの瞳が僅かに揺れる。一瞬、女王としてでなく少女としての顔が見えた気がした。
「本当に頂点を目指す者は、眼差しが違う。ギラギラと
「――――」
「剣筋を見ていて思ったが、身体と精神が一致してないぞお前。
言いたい事を言った俺は、そして今度こそフィレムに背を向けて歩き出す。
彼女は俺に声を掛けることも、斬りかかることもせず。
静かに俺の背を見やるだけであった。
「……。私、は――」
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