第24話 剛剣と柔剣



 休日は今日を含めて二日間。この時間をフルに修行に充てる。

 この開けた場所を拠点ホームとし、対人修行と魔物実戦を交互に行う。


 まずは付近の魔物を探し回り、見つけたら討伐。

 今回はリリの成長が主目的なので、実際に戦うのは基本的に彼女だ。


 無事に倒せたら肉を持って帰り、拠点で調理して食う。

 体力を回復したら、戦闘を振り返って反省点を洗い出す。

 そして俺との実戦で反省点を修正できているか確かめつつ、問題がなければ次の獲物へ。


 とにかくこの繰り返しだ。経験を積むには数を重ねるのが一番。

 前世ではよくこの方法を使った。おそらくリリにも問題なく適用できるだろう。



「剣術には大きく分けて【剛剣術】と【柔剣術】の二種類が存在する。これは学校の授業でも習ったと思うが」


「うん! ティグルが得意なのは剛剣の方だよね?」


「ああ。剛剣は力によって押し切る剣術。力を集めて・・・強引に、敵の守りごと叩き切る戦法を得意とする。

一方柔剣は技によっていなす剣術だ。力を弾いて・・・攻撃を受け流し、逆に跳ね返すカウンターを得意とする。

力を集めるか弾くのか。これらは対照的でもあり、“疎と密”の関係でもあるな。」


「ほえ〜……リリ、剛剣の方はあんまり詳しくないんだよね。授業だと柔剣術ばっかりで、剛剣のことはほとんど教えてくれないもん」



 やはりそうか。

 貴族達と戦った時、剣士の大半が柔剣の使い手だったのは偶然ではなかったようだな。



「柔剣術は本人の技量による所が大きいからな、学校のような技術を学ばせる場では適正なのだろう。リリも得意なのは柔剣の方だろう?」


「うん。攻撃を受け流したりするのは得意だよ。でもリリもティグルみたいなかっこいい剣術使ってみたいな」


「剛剣術は体格による所が大きいからな……こればかりは才能と言わざるを得ない。身体を鍛えることができないリリには、残念だが剛剣術は向いていないだろう」



 前世でも剛剣術を極めていた俺は、今世でも早い段階で、剛剣を使う為の肉体作りに取り組んでいた。

 成長期の子供だからこそできた芸当だ。妖精族のように先天的に肉体が細い種族は、剛剣術を扱うのは厳しい。



「そっかぁ……ざんねんだけど仕方ないね」


「どちらの方が強い、と言う訳ではなく、個人の適正に合った剣術を学ぶ必要がある。適正がないのに修行をしても効果がないし、欠点を補うよりも長所を伸ばした方が良いからな。

俺も柔剣術はあまり得意ではないが、剛剣術においては誰よりも上手い自信がある」


「じゃあリリは柔剣術を頑張って極めるよ。それでティグルの剛剣も受け流しちゃう!」


「その意気だ。それじゃあ早速手合わせといこうか?」




 何度か手合わせを行ったあと、いよいよ魔物との実戦に挑む。

 とはいえリリも魔物との戦闘経験はあるたしいので、実のところあまり心配はしていなかった。


 実際リリは危なげなく猪型の魔物を倒し、早速手に入れた魔物肉の調理タイムとなった訳だが。



「うえぇ……不味まずい……これ食べられないよぅ」



 俺の渾身の説得により、調理した魔物肉をおそるおそる齧ってみたリリからは大不評であった。



「塩と泥とピーマンを一緒に食べたみたいな変な味……しかも粘土みたいに硬くて噛みきれない! ごめんティグル、こんな不味い食べ物リリ初めて食べた……」


「むぅ。このピリッとした刺激がたまらないんだが」


「やっぱりそれ毒の成分だと思うよ!? ティグルはどうして平気な顔で食べてるの!?」


「魔物肉の毒は煮込むと薄れるんだ。致死量に注意しながら食べれば平気だぞ」


「ごめんティグル、リリはその世界ちょっとわからない……」





 という訳でリリは自分用の食事を調達することになった。木の実なんかを探して食べるらしい。

 まあ味の好みは人それぞれ。無理強いはできないか。

 それに妖精族はいくら肉を食べても筋肉が増えない。栄養補給さえできれば、俺のように体づくりのために肉食にこだわる必要は、そもそもないのかもしれない。

 ……今度、学校の図書室で妖精の生態について調べてみよう。



「――ティグルー!! ちょっとこっち来てー!!」



 と、肉をかじりながら考えていると叫び声が聞こえてきた。

 視線を上げると、燐光を振り撒きながら飛んでくるリリの姿が。



「どうしたんだ? リリ」


「ご飯探してたら、すっっごいもの見つけたの! こっち来てみて!」



 リリに誘われるがままに、山の更に奥の方へと突き進む。

 そして目の前に現れたのは――



「湖……いや温泉?」


「すっごいでしょ、こんな山にお風呂があるんだよ! きっと精霊さんのお陰だね!」



 湯気を立てるそれは、紛れもない天然の温泉だった。

 だが温泉特有の鉱石の臭いがしない。そしてリリの言う通り、微かに火属性の魔力が漂っている。

 おそらく火の精霊がこの辺りを住処にしていて、ただの湖が熱されて温泉になったのだろう。



「王都からそれほど離れてもいないのに、精霊がいるとは珍しいものだな」


「この山に来た時からリリ、なんか変な感じはしてたんだー! 妖精と精霊は親戚みたいなものだからね、気配には敏感なんだよ」



 なるほど。どちらも自然現象として発生する、という共通項があるな。詳しい発生の仕組みは知らないが、リリが言うならきっと親戚のような関係なのだろう。


……そして驚く俺に、リリは更にとんでもない提案をしてきた。




「ねえティグル、一緒にお風呂はいろうよ!」


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