悲しみの「女優復帰宣言」

 今日は、妹の看病を撮ったドキュメンタリー映画の試写会に行きましました。思い出すだけでも目が涙でうるうるして、後半は辛くて観てはいられなかったです。映画の終わりに、「それでも私はまだまだ活躍します」という、映画を見た人のほとんどが謎、意味不明に思ったでしょう文字が現れました。でも、わたしには痛いほど意味、言い換えると彼女が抱いた思いがわかります。


 あの、忘れたくても忘れられない日からもう一年たってしまいました。あの時、人工呼吸器が外されるところは正視できませんでした。そして、バン車で担架に乗せられた彼女と一緒にメモリアルホールに向かいました。着いた後、彼女とはしばらく別れました。その後私は泣き顔で母とともに事務室でスケジュールの打ち合わせをしました。


 次の日、メモリアルホールの一室で彼女と再開しました。ベッドの上で横になっていた彼女は学業と女優の仕事で忙しかった毎日と闘病生活を終えて一人でゆっくり疲れ切った体を休めているようにも見えました。わたしは泣きながらあゆみの顔を撫でて、そして手をそっと握った。「処置、痛かったかもしれないけどよくがんばったね」とささやきながら。顔も指もひんやりしてゴムみたいに固くはなっちゃったけど、それでも愛しい。これもかけがえのない妹だから。そしてちゃんと処置していただいたスタッフさん本当にありがとうございます。


 次の朝、起きた時、眼の前がかすんで見えました。そしてわたしは式のためにメモリアルホールに行きました。あゆみはホールの奥に置かれて窒素ガスが封入されたアクリルケースの中で白いドレス姿で気持ちよさそうに眠っていました。外を見ると開場を待つファンの皆様の長い行列が出来ていて、気がついたらアクリルケースの周りは花束とメッセージカードで埋め尽くされていました。式ではその一部が読み上げられて、わたしも、

「これまで妹のあゆみを愛していただきました皆様、本当にありがとうございました」

とマイクを前にして言いました。


 そして、式が終わった後、あゆみは一旦私と一緒に家に帰りました。毎日、出勤前と帰宅時には必ず声をかけて、ケース越しに頭の上をなでたりしました。悲しいけど、触れ合えることに感謝しながら。


 数日後にあゆみは思い出が詰まったスタジオに向かいました。これからの「第二の新たなる使命ミッション」のために。まだ現役で「活躍」したいという彼女の意思を尊重して。その時、わたしはこの別れがこれ以上なくさびしかったです。それでも、スタジオの小道具室に行けばまた会えると思い、割り切ってこらえて見届けました。


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