第55話 初めての依頼

「あカミラさんおはよう。このあたりの依頼でさ、近場なのって残ってる??」

 太一は掲示板から剥がしてきたゴブリン等小物討伐系の用紙を何枚か、カミラへと手渡す。


「はい、確認します……。あ、残ってる駆除を受けていただけるんですか!?」

「うん、そのつもり。近かったら、だけど」

「あー、やっぱりお気づきですか?」

「まぁね。ぱっと見の報酬が安くないのに残ってるのは、それ以外に理由があって人気が無いってことになるわな」

「仰る通りです……。ここの所、そもそもゴブリンとかコボルトとか、小物の討伐依頼が急増してまして。毎日のように新しい討伐依頼が増えてます。依頼の数が増えると、受ける側も選べるようになりますから、自然と条件の良いのから無くなるんですよね。

そういった状況が続いているので、条件の悪いのは溜まっていくし報酬額自体もじわじわ上がってきています。依頼を出すほうも死活問題ですから、少しでも早く受けてもらえるように必死でして……。ちょっとした競争になってるんですよ。その結果、遠いものや他に比べて高い報酬が出せないものがどんどん残るようになってしまいました。

なので、少しでも受けていただけるなら助かります……。もうすぐ麦の収穫時期ですし、このままの状態が続くと食料の収穫量にも影響が出そうなんで、近々特別推奨依頼にする予定でした」

 

「特別推奨依頼?」

「はい。放置しておくと国内情勢へ深刻な影響を与える可能性のある依頼が滞った場合、国や領主様から特別推奨依頼に指定されるんです。特別推奨依頼に指定されると、達成時に国からプラスでボーナスが支給されるのと、ポイントもプラスされます。ちなみに、それでも依頼が達成されなかった場合や、すでに国家の危機に直面していると判断された場合は、強制依頼となります。強制依頼になった場合、条件に合致する冒険者は強制的にその依頼に参加しなければなりません」


「へぇ、そんな制度もあるのか」

「はい。急増している小物の駆除は、特別推奨依頼になることが決まっていて、後は細かい事務手続きだけなので、今回達成していただいた場合は、特別推奨依頼扱いとさせていただきますね」

「ありがたいけど、大丈夫? まだ公表されてる訳じゃないよね?」

「決定されている場合は問題無いです。受ける前に言うことはもちろん無いですが、受けていただける方にはお伝えしてます。むしろ逆に、決定しているのに黙っていて、数日後に特別推奨依頼になったりした方がトラブルになります」


「そっか」

 「はい。えっと近場ですと……、こちらのハイデン村ですかね。歩くと半日くらいかかりますが、馬車であれば2刻かからないくらいですし、毎日乗り合い馬車が出ていますので、そちらを使うのが便利かと」

「それだけ聞くと、忌避される理由は無さそうだけどなぁ?」

「他と比べて報酬が少ないのと、場所が“美味しくない”んです」


「場所が美味しくない??」

「はい。2つ美味しくない理由があるんです。一つ目は、このレベルの依頼を受ける冒険者にとって、馬車の費用が馬鹿にならない点です。駆け出しの冒険者が受けることが多いんですが、歩くには遠いしお金を出して行って失敗したら目も当てられない、という中途半端さなんですよね。 普段ならそれでも問題無いんですが、今は歩いていける距離だったり報酬がもっと良い依頼がすぐ出てくるので……。

おまけにハイデンの依頼はゴブリンじゃなくてコボルトなんですよね……。戦闘能力はあまり変わらないんですが、ゴブリンよりちょっと知恵が回るので、駆け出しだと失敗のリスクがゴブリンより高いんです。

二つ目は、ついでにやれる依頼が少ない点です。ハイデン村はレンベックの穀倉地帯の1つで、辺り一面麦畑です。なので、ついでに受けられる依頼が極端に少ないんですよ。この二つの理由から、美味しくない場所になっちゃってるんです」


「なるほどねぇ。まぁ俺らは経験を積むことも目的の一つだから、その辺の効率は今は気にしないから大丈夫。じゃあそのハイデン村の依頼の手続きをよろしく」

「ありがとうございます! えー、コボルト討伐で最低駆除数5、上限無し。完了報酬が500で、討伐加算は常設報酬の20を加えて30です。期限は残り5日間ですね。後、先ほど言った通り特別推奨依頼扱いなので、1匹につき10ディル上乗せされて討伐加算は40です。こちらの条件で問題ありませんか?」


「うん、問題無い」

「かしこまりました! ハイデン村までは毎日3本乗り合い馬車が出ていますので、そちらを使うのが便利ですよ! 距離的には日帰りだと思いますが、現地逗留する場合は食費実費負担で村長のお宅に泊まることも可能だそうです」

「軒を貸してもらえるのはありがたいなぁ。基本は日帰りで考えてるけど、いざと言う時に野宿しないで済むのはありがたい」

「それだけ困ってるのかもしれませんね。ハイデン村は、ほぼ麦の生産だけで成り立ってる村なので……」

「あー、そりゃ頑張らないとな」

 その後、依頼を受けるための手続きを進めていると、採取系の依頼を見ていた文乃が戻って来た。

 

「どう、兄さん?」

「近めの討伐依頼があったから、それを受けたよ。そっちはどう??」

「採取系だけど、ワイアット工房って錬金術の工房が良いかも。幅広めの採取依頼が継続的に出ているから、色々聞けそうじゃない?」

「ワイアットさんは冒険者もやってた錬金術師の方ですね。少し前に錬金術一本に絞って工房を構えられました。東商業区にあるので、訪ねてみてはいかがですか? 必要でしたら地図もお書きします」

「お、ありがたい。じゃあ地図よろしく」

「はい、少々お待ちくださいね。すぐ描いちゃうので」

 カミラはそう言って手元のメモ用紙にサラサラと地図を描き始める。

 

「どうする? ワイアット工房にこれから行ってみる? それともハイデン村?」

「んー、まだ昼前か……。カミラさん、そのハイデン村までの乗合馬車って、いつ頃出るの?」

「朝のは2の鐘の少し前なのでもう出てますね。次は3の鐘だと思います。で最後は5の鐘の少し前ですね。全部大門前の乗り場からです。向こうからの帰りの馬車も、同じくらいの時間か少し遅めくらいですね」


「ふむ。文乃さん、今日はさくっとハイデン村まで様子見に行ってみない? 1時間半くらいみたいだから日帰りできるし、最悪村長さんの家にタダで泊めてくれるってさ」

「なるほどね……。ちょっとヴィクトルさんのお店に寄ってからでいい? 射程の長い弓が欲しくて。まだ少し時間あるわよね?」

「確かに射程長いのがあると安心か。今回はジャン達もいないし。了解。じゃあ俺は念のためドミニクさんに泊まりになるかもしれないって伝えてくるわ。ついでに昼も適当に買っておくけど、良いかい?」

「悪いわね、お任せしちゃって。それじゃあ乗り場の辺りに集合ってことで」

「了解。カミラさん、色々ありがとねー。んじゃあちょっとハイデン村まで行ってくるわ」

「ありがとうございます。あ、こちらがワイアット工房の地図です。お気をつけて!」


 2人は地図を受け取るとギルドを後にし、文乃は弓を新調するためヴィクトルの店へ、太一は町の外へ出かける旨を伝えるため黒猫のスプーン亭へと向かった。

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