第54話 様々な依頼

「んー、こっちの方がかなり数も多いし、古い紙も多いなぁ……。どれどれ。うわぁ、黄金龍の心臓とか、そりゃ無理でしょ……。古いのは難易度も高そうだけど、どこにあるか不明瞭だったり、そもそも何かも良く分からないヤツが多いね」

「でも、報酬は別に安いって感じもしないわよね? Fランクからいける薬草採取でも30だし。まぁ薬草を摘む難易度が分からないから、コスパは分からないんだけど」

「コスパが悪いからなのか、需要があり過ぎて残ってるだけなのか……」

「そうね。単に需要に追い付いて無いだけだったら良いんだけど」


「うん。数が多いなら、あまり依頼でリスクを取りたくない俺たちにしてみたら美味しいからね。これも後で確認してみるけど、たくさん依頼が出てるランク低めのヤツは、一度一通り受けてみても良いかもしれないね。ただ、取ってくる奴のサンプルは欲しいなぁ。あと何処に生えてるかとかの性質、この近辺の大まかな植生あたりは知っときたい」

「資料室とか図書館みたいな所があるかも確認ね。あ……、依頼によってはその辺りは解決するかも……」


「どういうこと?」

「良く見るとこれ、ギルド納品と依頼者納品に分かれてるでしょ? 依頼者納品のヤツって、それを直接希望している人が分かる訳だから、聞いたらある程度分かるんじゃないかしら? その道のプロなんだし」

「確かに。餅は餅屋だわな。詳しいことは知らずに使ってるだけの人もいるかもしれないけど、普通は下調べするだろうし、自分で取れるか一度は試す人も多いはずだよね。依頼するとお金かかる訳だからさ」

「ええ。大規模なとこだったらダメかもしれないけど、個人でやってるようなお店とか研究者なら、色々聞けそうじゃない?」


「一人で色々出してる依頼者納品のヤツに絞ってみるか、最初は」

「全くランダムでやるより良いと思うわ。むしろ受けずに、先に依頼者に会いに行ったほうが良いんじゃない? 受けてみて、何も知らない人だったら大変よ? それを調べるのが仕事だろ、くらい言いそうだもの。依頼失敗ってペナルティになるんでしょ?」

「そうだった。未達成はペナルティって言ってたわ。うん、文乃さんの言う通り、目星付けたら探して会いに行こう」

「了解。じゃあピックアップは後に回すとして、最後の特殊系を見てみましょうか」

 

「ここも中々にカオスだなぁ。新旧入り乱れてる。ペットの散歩に用水路の掃除、屋台の手伝い。この辺はまぁアルバイトみたいなもんだな。二人きりで話し相手になってください。女性限定……これは完全にアカンやつだろ!」

「沼毒蛙の生態調査に砂漠での無期限遺跡調査、この辺はハードル高いから納得の塩漬けねぇ」

「ん、これ面白そうだな。新商品開発および売上アップのサポート。成果報酬だって」

「へぇ、それだけ全く異質ね、近代的と言うか」

「うん。ちょっと代理店マンとしては興味あるな。あと、この街で商売する上での課題とかも分かるかもしれないし」


「商売を始める前に、リスクが分かるのは大きいわね。どうする? 成果報酬だから、失敗しても失敗扱いにはならないし、受けてみる?」

「いや、今手を出すと収拾がつかなくなるから、名前だけメモっておいて落ち着いたら見に行くわ」

「分かったわ。えーっと依頼を出してるのはボルダック商会、と……あれ? どっかで聞いたことある気がするわね」

「…………某有名ダンジョンRPGに出てくる店の名前がボルタック商店だから、それじゃない?」


「あぁ、きっとそれね。ぼったくり商店とか言われてネタになってたから覚えてたのか。ということはこのお店、召喚者絡みかしら??」

「確率半々ってとこだなぁ……。完全一致じゃなくて酷似だし、こっちの語感的にボルダックなら全然ありそうだし。まぁ召喚者絡みの可能性があることは頭に入れておこう」

「了解よ。じゃあ私はさっき話してた依頼者納品の採取依頼を調べておくから、戦闘系で近場が残ってるかどうか確認をお願いね。あと、調達系が人気の無い理由も。他の依頼は探さなくていいのよね?」

「うん、戦闘系の近そうなのがあったら受けて、採取系は確認後。それ以外はひとまず次の機会ってことで。じゃあ早速聞いてくるよ」

「お願いね。私も調べておくわ」

 

 掲示板での調べ物を終えた太一は、今度はクロエの所へと向かい、調達系の依頼が溢れている理由を確認する。

 すると返ってきた答えは意外なものだった。


「は? 単に地味だから人気が無いだけ?? なるほど、そうきたかぁ……」

「食うに困って冒険者になる人もいるので、そういった方は忌避感なく受けられるんですけど……。何と言いますか、冒険譚を読んで冒険者に憧れてなる人も多いんですよ。そういう方にとっては依頼イコール討伐みたいなところがあって。ちくちく草なんて毟ってられるか! と言って憚らないと言うか、採取系の依頼を下に見ると言いますか……」

 いつも立て板に水で朗々と説明するクロエにしては珍しく歯切れが悪いことに太一は苦笑するしかない。


「……なんだかなぁ。全く血の気の多いことで。あー、でも特別大変だからって訳じゃないのが分かって良かった。ありがとう」

「いえいえ。ただ、そのためいつも薬やポーション、魔法具の材料は不足気味なんです。討伐に行くついでで良いので、タイチさんたちも調達系を受けて貰えるとありがたいです」

「うん。別に俺たちは、最初から討伐に拘りなんて無いからさ。ついでじゃなくて、採取メインで受けることも考えてたくらいだよ」

「そうなんですね!! それはありがたいです。あーーー、でも……」

 太一の返答を聞いて、顔がパっと一瞬明るくなるが、またすぐに元に戻ってしまう。


「でも?」

「いえ、タイチさんたちの戦闘能力が高いことを知っている身としては、討伐メインで行ってもらうのも吝かではないなぁ、と……」

「えーー、むしろ戦闘無しの方が良い、くらいまであったのに……。まぁ様子見ながらボチボチやってくよ」

「はい。どちらに転んでも多分ありがたいことになるので、よろしくお願いします」

「そうそう、採取の依頼なんだけど、どんなものを取ってくるのかの現物って見れる? 分かりやすい絵が描いてある本でも良いけど」


「そうですね、依頼と達成が常にある薬草とかなら、大体いつもギルドに現物がありますね。絵が描いてある資料は、あまり無いですね。資料室に多少あるくらいです。どの辺りで採れたのかも同じく少し資料室にある程度ですね」

「……なるほどね。まぁボチボチと調べながらやってみるわ。ありがと」

「いえ、どういたしまして。空いた時間があったらお願いしますね!」

 クロエに笑顔で見送られ、太一は次に依頼カウンターへと向かった。

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