第48話 午後のお勤め開始

 昼食後、一行は遺跡群について話をしていた。


「遺跡群だとちょっと遠い。手前にいないと夕方に戻れなくなるかも。馬車使う?」

「そうだね……。余裕を持って移動するなら馬車を使った方がいいね」

「馬車ね。どこかで借りるのか?」

「いや、俺たちのがあるから、そいつを使えばいい。4人で使っても余裕のあるヤツだから、2人増えても問題無いだろ」

「じゃー、アタシは宿まで取りに行ってくるよー」


「マイ馬車があるのね……。流石C級、何から何までスマンな」

「いやいや、これくらい何でも無いよ。それにこの程度の貸しは、すぐに何倍にもなって返ってくると確信してるからね」

「あー、信用が重いなぁ……。やるだけやってみるけどね」

 足の手配までお願い出来る至れり尽くせりぶりに申し訳なくなった太一が謝ると、問題無いとばかりの笑顔がジャンから返ってきたので、太一は苦笑するしかない。


「アンナが馬車を取りに行ってるうちに、僕らは大門へ移動しておこうか」

「了解。あ、クロエさんも色々ありがとね。無茶振りに付き合ってくるよ」

「いえいえ。気を付けて行ってきてくださいね」

 クロエに挨拶をしてギルドを後にすると、再び一行は大門へと移動を始めた。

 

 大門でシュミットと雑談をしながら待っていると、程なくして御者台に座ってアンナがやってきた。

「やほー、おまたせー」

 乗っている馬車は、二頭立ての立派な幌馬車で、所々金属で補強されているのが窺える。


「おー、立派な馬車だな」

「遠征することも多いからね。なるべく移動で疲れないように、ちょっと奮発したよ」

「よしよし、いい子ね。この子たち、名前はあるの?」

「白い子がマックで茶色い子がブライアンだよー」

「マックにブライアン、今日はよろしくね」

 意外と動物好きなのか、文乃が2頭の名前を聞いて嬉しそうに声をかけながら首筋をポンポンと撫でている。

 撫でられた馬たちも、ゆっくり口をモグモグさせながら目を細めてリラックスモードだ。

 

「さて、そろそろ行こうか。積み込む荷物も装備品くらいだし、みんな乗っちゃって」

「ねぇジャン、私もアンナと一緒に御者台に座ってもいい?」

「ああ、かまわないよ。アンナ、大丈夫だよね?」

「うん、大丈夫ー。2人ともアヤノのことは気に入ったみたいだしねー」

 やはりアヤノは動物好きのようで、許可をもらうといそいそと御者台に乗り込んだ。


「それじゃあシュミットさん、行ってきますね」

「おう、気をつけてな。遺跡群なら日没までには戻るんだろ?」

「はい、そのつもりです。では!」

 シュミットと出発の挨拶を交わすと、アンナが馬車を出発させた。

 

 街を出ると、進路を東に取り街道を進んでいく。

 時折商人と思われる馬車とすれ違うものの、何事も無く1時間ほど進んだあたりで細い脇道へ入り小休止し、そのまま北上していく。

 岩草原の中を通る脇道を走る事30分ほどで、徐々に景色が変わって来たことに太一が気付く。


「ん? デカい岩が増えてきたな。いや、岩じゃなくて崩れた壁とか柱か、これ?」

「うん、正解。そろそろ遺跡群の入り口だね。もうちょっと行くと共同の簡易厩舎があるから、馬車はそこに置いて歩くよ」

「馬車とか馬を置いて行って大丈夫なのか?無人だろ?」

「簡易結界を組み合わせた防犯用の魔法具があるから、まず大丈夫かな。理想は見張りを残しておくことだけど、半日ならまぁ問題無いよ」

 そんな話をしているうちに、ジャンの言った簡易厩舎へ到着する。

 

 厩舎と言っても、少し開けたところに馬を繋ぐ柱の立った屋根のある馬小屋が1つと、馬車をしまうための倉庫のような建物が2つ建っているだけだ。

 ジャン達は、まず馬車本体を倉庫の方に入れ、入り口を魔法具で施錠する。

 その後、水と干し草をそれぞれ桶に入れて2頭の馬を馬小屋へ繋ぐと、短い杭のようなものを4本、馬たちを囲う様に地面に配置していく。


「これが?」

「うん、簡易結界の魔法具だよ。解除するまでは、中へ入ることは出来なくなる。ある程度強い魔力とか物理的な衝撃だと結界ごと壊されちゃうけど、よっぽど上位の魔物でも出ない限り大丈夫。それに、壊された際にその魔力の波長を記憶するから、仮に人が壊した場合誰が壊したかすぐに分かるようになってるんだ」

「便利な機能が付いてるなぁ」

 ジャンの説明にまるで監視カメラとかドライブレコーダーのようだ、と太一は心の中で付け加える。


「さて、準備も出来たし、簡単にここの説明をしながら進もうか。しばらくはゴブリンも出て来ないと思うし。念のためアンナは先頭で警戒をお願い」

 一行は、偵察係であるアンナを先頭に、遺跡群を奥に向けて進み始める。

 

「ここは、レンベックの建国より前にあった国の遺跡だと言われている。相当広くて、少なくとも地上部分だけでレンベックの街の10倍以上の広さがあることが分かってる」

「少なくともってことは、まだ発掘途中なのか?」

「うん。地上部分はほぼ探索されて全容が分かってるんだけど、地下にもかなりの範囲で広がっているんだ。そっちも昔から探索されてるんだけど、地上と比べて構造が複雑で罠や仕掛けが多い上、魔物も強くてね。全容解明にはまだまだ時間がかかると思う。地下のほうが地上より何倍も広いと言うのが共通の見解になってるよ」


「罠に仕掛けか……。ロクな目に遭わなさそうだな」

「まぁね。高価な魔法具が発見されるから、一攫千金を狙う冒険者も多かったんだけど命を落とすことも多くてね。ここ何年かは、ちょっと下火になってるかな。南のほうで新しい遺跡が見つかったこともあるし。おかげで空いてるし、地上にいる限りそこまで強い魔物も出ないから、訓練には丁度良いんだよね」

「地下には強い魔物がいるんでしょ? 地下からその強い魔物が出て来ることは無いの?」

「不思議と出て来ることは無いみたいだね。極稀に、“はぐれ”って呼ばれるヤツが出てくることがあるみたいだけど」

「なるほどなぁ」

「ジャン!」

 太一達がジャンから説明を受けていると、先頭で警戒していたアンナが小さく鋭い声でジャンを呼ぶ。

 そして矢継ぎ早にハンドサインが飛んでくる。

 

『敵発見。距離20。ゴブリンで数は5』

 ハンドサインを見た一行は一斉に戦闘態勢に入る。

 物陰から先に目を凝らすと、青緑色の肌をした人間の子供位の身長の魔物が、崩れた柱の前で何事か話をしているようだった。

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