第46話 魔物の買取

 カミラに紹介された買取カウンターへ向かうと、一人の男が声をかけてきた。

「おぅ、向こうで話してたのが聞こえてきたぜ。派手にやったらしいじゃねぇか。ウサ公の買取でいいのか?」

 ニヤリと笑いながらそう言ってきたのは、スキンヘッドの強面の男だった。ギルド内に居なかったら盗賊のお頭と言われた方がすよほど納得できるだろう。

 太一よりも頭半分ほど身長が高く、全身が鍛えられた筋肉で覆われている。

 

 太一は、これまで会って来たギルド職員とのあまりのギャップに面食らいつつ、用件を告げる。

「派手にやった自覚は無いんですけどね……。あ、ウサ公ってキラーラビットのことですかね? はい、その買取をお願いします。数が多かったので内臓は抜いてあります。ここに出しちゃっていいんですか??」

「おう、とりあえず何匹か見せてくれや。それと、丁寧な言葉遣いも不要だ」

 言われるままに袋から3匹キラーラビットを取り出しカウンターに並べると、男はそれを手に取り色々な角度から確認し始める。

 

 一通り見終わると、目をすっと細め太一に問いかけてくる。

「これ全部、あんちゃんが仕留めたのか?」

「首落としちゃってるからはっきり覚えてないけど、こっちの袋は多分2匹が俺で、1匹が文乃さんだったかな。文乃さーん、どうだったっけ?」

「ええ、それで合ってるはずよ」

「おう、そっちの姉ちゃんもか。2人とも獲物は何だ? あんちゃんは剣っぽいが、姉ちゃんもか?」


「いえ、私は弓ね」

「弓? ホントかよ。見た感じこいつら変に暴れた跡や傷がねぇから、全部一撃で仕留められてやがる。剣なら首切っちまえばいいから分かるけどよ、弓ってことはヘッドショットでもしねぇ限り一撃は無理だ」

「マルセロさん、そのヘッドショットなのよ。あたしたちが全員見てたから間違いないよー」

 マルセロと呼ばれた男が首を傾げていると、後ろからアンナが声を掛けてくる。

 

「マジかよ。あんちゃんも大概だと思ったが、姉ちゃんもとんでもねぇな。まぁ俺らからしたら、質の良い獲物持ってきてくれるってだけでありがてぇがよ。ああ、自己紹介がまだだったな。俺はマルセロ、買取部門の主任をやってる」

「よろしく、マルセロさん。俺は太一、こっちは妹の文乃だ」

「よろしくね、マルセロさん」

 差し出された手を交互に握り返し握手を交わす。

「おっと、残りのも全部出してくれや。とっとと買取を済ませるぜ」

 マルセロに促され、残りのキラーラビットもドサドサとカウンターに広げていく。

 

「おうおう、壮観だねぇ。それにどれも良い品質だ」

「そうなんですか?」

 思わず問いかける太一に、マルセロが答える。

「おうよ。さっきも言った通り一撃で仕留めてるからな、そもそもの痛みが少ねぇ。内臓も傷つけず取り出してある。あと、弓で仕留めたやつ。これもすぐ首切ってんだろ?」

「はい」

「だから、血抜きもほとんど終わってんだよ。肉の味は、血抜きと内臓の処理でほぼ決まる。血抜きが下手だったり、内臓を傷つけたりすると、途端に味が落ちやがる。おめぇらが持って来た肉は、そのどっちも完璧に近いからな。相当いい品質なんだよ」


「なるほど。だからジャン達は早めに首を落とせって言ってたのか」

「おう。ジャン達の持ってくる素材も、質がたけぇのが多いからな。いい師匠に付いたじゃねぇか。あと、なんで毛皮を剥がさなかった?」

「いやぁ、下手に剥がすと肉も毛皮もダメになりそうだったんで……。素人は手を出さずプロに任せようかと」

「いい心がけだな。剥がして持ってくりゃ、確かに解体の手数料がかからねぇから儲けが増える。なんだが、手数料惜しさに出来もしねぇことをやる奴の多いこと多いこと。結局品質が下がって買取金額を下げてりゃ世話ねぇぜ。何より素材を無駄にしやがるのが許せねぇ。

おっと、すまねぇ。愚痴っちまったな。買取だが、肉が1匹あたり15ディル、毛皮が5ディルの合わせて20。んで、文句なしの高品質だから2割増しで1匹あたり24。それが11匹だから、全部で264ってとこだな」

「おぉ? 予想より良い値段が付いたな」

「まぁ品質がいいからな、これくらいは当然よ。ほら、確認してくれや」

「えーーっと……。うん、確かに」

 

「んじゃあ、これからも質のたけぇ素材を頼むぜ。昼からも出掛けんだろ?」

「あーー、ごめんマルセロさん。昼からはゴブリン狙いに切り替えるから、多分素材は持ってこれないやー」

「なんでぇ、そうなのか。まぁあんちゃんたちの腕前考えたら、ゴブリンでも温ぃからしゃあねぇか。んじゃぁよ、また今度オークでも狩ってきてくれや。頼んだぜ!!」

 アンナの言葉に一瞬残念そうにしたものの、マルセロは笑顔でバシバシと太一の背中を叩き、無茶なお願いをしてくる。


「いてっ! いつになるか分からないけど、善処するよ」

「ジャン達も、また頼むぜ! おーい、おめぇらこのウサ公を倉庫に入れといてくれー! 上等品の方だから、間違えんなよ!!」

 ジャン達にも挨拶をすると、マルセロはカウンターを後にし部下に指示を出していく。

「タイチ、僕らも行こうか。今からお店を探すのも面倒だし、お昼もこのままギルドで済まそう」

「了解。ギルドでの食事は初めてだな」

 ジャンを先頭に、一行はギルド内の飲食スペースへと向かって行った。

 

 そろそろお昼の時間のためか、客足が増え始めているようだ。

「クロエさん、ここのオススメは何かしら?」

 空いてる席に腰かけつつ、文乃がクロエにおすすめメニューを聞いている。どうやらクロエは、このまま昼食も一緒に摂るようだ。

「ランチは日替わりが2種類なので、どちらかを選ぶだけになっちゃいますね。ギルドのお勧めと言うか名物は、やっぱり魔物料理ですね。街でも食べられますが、ここのほうが種類が豊富です」

「なるほど、流石にお膝元ね。となると今日の日替わりが何かよね……」


「いらっしゃーい。あれ? クロエっち、珍しいやん誰かと来るんは。いっつも一人やのに」

 文乃とクロエが話をしていると、ウェイトレスなのだろうか、声をかけられる。

 飲食店なのだから別に当たり前だが、問題はそれが関西弁だったことだろう。

「関西弁??」

 突然の関西弁に、思わず太一がそう言いながら関西弁の主に目をやり、さらに驚く。

「猫耳??」

 関西弁の主は頭に猫のような耳が生え、お尻にもゆらゆらと動く尻尾が生えていた。

 

 関西弁の猫耳少女ウェイトレスという情報量の多さに太一と文乃がフリーズしていると、猫耳ウェイトレスが首を傾げる。

「カンサイ……なんやて? ちゅうか兄さん、獣人見んの初めてなんか?」

「ニナ、この二人は少し前に村から出て来て、昨日冒険者登録したばかりのタイチさんとアヤノさんよ。お2人とも、ニナは猫人族、猫の獣人なんです。村には獣人は居ませんでしたか?」

「ああ、話は聞いた事はあったけど、実際に会うのは初めてでちょっと驚いたよ。申し訳ないニナさん、なにぶん田舎の出でな。俺は太一、こっちは妹の文乃だ」

「こんにちは、ニナさん。文乃と言います」

「こりゃ何ともご丁寧に。見るんが初めてやったらしゃあないわ。ウェイトレスやっとるニナや。見ての通り猫人族や。タイチもアヤノもよろしゅうな」

 ニナはそう言うと、小さな八重歯を見せてニコリと笑った。

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