第45話 討伐報告

 大門に戻ってくると、予定よりかなり早い戻りにシュミットが驚き声を掛けてきた。

「おいおい、随分早かったじゃないか。怪我でもしたか?」

「いえ、むしろ逆と言うか……」

「逆?」

 苦笑しながら答えるジャンにシュミットの顔がさらに怪訝な顔になる。

「ええ、これどう思います?」

 ジャンは担いでいた袋から、首が落とされ内臓が処理されたキラーラビットを取り出し、シュミットへ見せた。

 

「キラーラビットか。綺麗に首が落とされてるな。ファビオか?」

「いや、コイツはタイチですね。で、こっちがアヤノです」

 そう言ってもう1匹、頭を矢が貫通しているキラーラビットを見せる。


「マジかよ……。最初のヤツ、あれは一発で首を落としてるだろ? で、コイツも同じく一発で頭を貫いてる。昨日今日冒険者になったヤツの腕じゃないぞ。……おい、もしかしてその袋全部か?」

「ええ、僕も予想外でしたよ。10匹以上あります。これ以上は運べなくなるので、一旦戻って来たんですよ」

「はぁ? この時間でか? ……なるほどなぁ、あのバア様が気にする訳だ。じゃあこれからギルドか?」

「はい。この時間なら人も少ないので目立たないでしょうし。午後からはゴブリンあたりを狙ってみます」

「了解だ。タイチもアヤノもやるじゃないか。これからが楽しみだ。よし、手続きはOKだ」

「ありがとうございます」

 入場の手続きを簡単に終えると、太一達一行はギルドへと向かって行く。

「ふふふ、頼もしい奴等が来てくれたもんだな」

 その背中を見送るシュミットの顔は、とても嬉しそうだった。

 

 大門を後にした一行は真っすぐにギルドへと向かった。

 ギルドへ入ると、右側にあるカウンターへ足を向ける。


「右側のカウンターが、依頼の受付・報告をするカウンターだよ。普通の依頼は最初に受付をするんだけど、今日のは常設依頼だからね。左端にある専用カウンターに持って行けばOKだよ」

「なるほど。この討伐部位? の歯を渡せば良いんだっけ?」

「うん。本体は逆側にある買取カウンターに、この後持って行くよ」

 段取りを教えてもらいながら依頼カウンターの左端へ向かうと、隣の中央カウンターから声が掛かる。


「タイチさんアヤノさん、お疲れ様です! 運河の星の皆様もこんにちは」

「あぁ、クロエさん。お疲れ様」

「常設依頼の達成報告ですか?」

「うん。ジャン達に引率してもらって、キラーラビットを倒しに行ってきたよ」

「そうだったんですね! 早速の討伐ありがとうございます。私も見てていいですか?」

「ん? 別に構わないけど、仕事大丈夫?」

「この時間は暇ですからね。大丈夫です!」

「ちょっとクロエ、邪魔しないでくれる?」

「あはは、カミラごめーん」

「もう、あなたって娘は……」

 クロエと話をしていると、依頼カウンターからも声がかかる。

 カミラと呼ばれた女性は、会話を聞く限りクロエとは親しそうな感じだ。

 

「依頼を担当しているカミラです。常設依頼の報告と聞こえてきましたが?」

「うん、キラーラビットを狩って来たんだけど、討伐部位を渡せば良いんだっけ? 初めてだから勝手が分からなくて悪いね……」

「いえいえ。誰でも最初はそうですよ。ではキラーラビットなので前歯が討伐部位になります」

 カミラはそう言って大きなトレーのようなものをカウンターの上に出す。


「はいはい。えっと、ここに直接出しちゃっていいの?」

「はい、お願いします」

「じゃあ、これで」

 太一は言われた通り、分けて持って来たキラーラビットの前歯をゴロゴロとトレーの上に出していく。

 最初は笑顔で見ていたカミラだったが、5つ過ぎたあたりで真顔になり、10過ぎるとフリーズしていた。

 合計11個の前歯で、トレーは一杯になっていた。


「うん、11個あるな。これで全部かな。って、おーいカミラさーん?」

「えーっと、タイチさん。これ全部タイチさんが?」

 固まるカミラに代わってクロエから質問が飛んでくる。

「いや、俺と文乃さんの二人分だよ」

「運河の星の皆さんも加勢して、ですよね?」

「いや。クロエちゃん、俺たちは最初の一匹を手伝っただけだよ。それはそこには入れていない」

「そ、そうですか……。あと、間違ってなければ今朝から連れて行くってお話でしたよね?」

「うん。朝一で装備を買って、それからだね」

「装備を買ってからって……。半日くらいしか経ってないんですが……」

「そうだね。僕らも驚いてるよ」

 カミラのようにフリーズはしないまでも驚愕するクロエに、苦笑しながらジャンが答えていると、フリーズから回復したカミラが仕事を思い出す。

 

「し、失礼しました。えー、確かにキラーラビットの前歯11匹分を確認しました。討伐報酬は1匹5ディルなので、55ディルになります。ご確認お願いします」

 太一は渡されたコインを確認すると、皮袋へとしまう。


「たしかに55ディルだね。ところで固まってたけど大丈夫??」

「失礼しました。今回が初の討伐だと伺っていたので……。おそらく、初討伐の最高記録だと思います」

「あら、そうなんだ??」

「はい。調べてみないと言い切れないですが、これまでのF級初討伐最高記録は“1日”で8匹だったはずです。11匹な上、まだお昼前ですから……。まず間違いなく記録を大幅に更新すると思います」

「それって、誰が記録を作ったのか公開される??」

「いえ、記録は公開されますが、本人が希望しない限り誰が達成したのかは非公開ですね」


「良かった。あんまり目立ちたくないから、もちろん非公開でお願い」

「え? いいんですか? 記録を達成したら、名前を売るために皆さん公開を希望されますが……?」

「うん。俺たちは最終的に商売をやりたいから、変に冒険者として名前が売れると困るんだわ。それに、運河の星の皆と運良く懇意にさせてもらってるから、これ以上の後ろ盾も要らないしね」

「はぁ……、かしこまりました。それではご要望通りお名前は非公開とさせていただきますね。それではこちらの窓口での手続きは以上となります。素材の買取をご希望であれば、引き続き反対側の買取カウンターまでお願いします」

「はいはい。ありがとう」

 名前を売ろうとしない太一達を不思議に思いながらも、カミラは討伐手続きを終わらせ、買取カウンターを案内し、太一達も案内されたカウンターへと向かう。

 

 その後ろではクロエが、困惑したままのカミラにそっと耳打ちをする。

 (ちょっと変わってるけど、間違いなくすぐランクを上げてくるはずだから、注意して見守ってあげて。何十年ぶりかの“ギルマス案件”よ)

「えっ!?」

 さらに驚くカミラにパチリとウィンクすると、クロエも太一達の後を追っていった。

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