第39話 SWOT分析、からの3C分析
【前書き】
やっとマーケティング回っぽいマーケティング回に辿り着いた……。
これがやりたくて書き始めたのに、随分時間がかかってしまいましたw
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太一の部屋へと戻って来た2人は、早速SWOTの準備を始める。
「さて、SWOTとは言ったものの、外的要因部分は分からないことだらけだからOとTは仮置きだなぁ」
「確かにそうね。だったら3Cのほうが良いんじゃない? どのみち市場調査・分析はしなくちゃならないんだし、3Cをやってみて何の情報が足りてないか把握するのが良い気がするわ」
「それが良いかぁ。効率よく情報を集めるための準備として3Cからやってみるか」
2人が行おうとしていたSWOTとは、現状把握をするための代表的なフレームワークである。Strength(強み)・Weakness(弱み)・Opportunity(機会)・Threat(脅威)という4つの軸から、自社が置かれている状況を整理・分析する。
内的要因である強み・弱みと、外的要因である機会・脅威を組み合わせることで、具体的なアクションまで落とし込みやすいのが特徴だ。
しかし、この世界どころかこの街の事もあまり分かっていないため、外的要因部分をプロットできないという課題にぶち当たる。
対して文乃が提案した3Cも、状況を整理するためのフレームワークだ。
こちらはCustomer(市場・顧客)・Competitor(競合)・Company(自社)という3つの観点から自社の置かれている環境を分析する。
一見すると良く似た手法だが、単純に調査軸が3Cの方が少ないため、まずは3Cで市場環境を調べてから、SWOTで戦略を考えるという流れを取る事も多い。
「さて、まずはCustomerだ。とりあえずの市場としては、レンベックの街になるか」
「そうね。街の外のことは分からないし、レンベック以外はリスクが高すぎるわ」
「じゃあレンベックで商売するとして、この街の市場規模ってどうだと思う?」
「物語に出てくる有名な王国の首都? 王都? だし、街単体だったらこの世界でも大きい方なんじゃないかしら? 人口とか物価が分からないから、定量的なことは分からないけど」
「同感。この街に繋がってたのは運が良かったよ。じゃあマーケットの特徴は?」
「何と言っても冒険者ギルドの本拠地があることよね。それゆえ冒険者の数も多い。クロエさんも言ってたし」
「冒険者がこの街の主役の一人であることは間違いないわな。でまぁ王都だし商業自体も発達してるだろうね」
「でしょうね。マーケットの状況はどうかしら?」
「冒険者向けの店は当然多いわな。むしろ街の成り立ち的にも冒険者向けの店が先に増えて、その店や家族を狙った店が出来て、さらにそれを狙って……って繰り返しで大きくなったんじゃないかな。冒険者の家族とか引退した冒険者が多そうなのも特徴かね」
「後は、宿泊施設が多かったところを見ると、街の外から来る人もそこそこいるでしょうね。護衛依頼があるくらいだから、気軽に旅行できるような治安じゃないでしょうけど、他の街の商人とか行商人がそこそこ来てそうね」
「王国で封建制度っぽいってことは王族やら貴族やらがいて、一般人以外のマーケットもあるだろうけど、接点無いからひとまず無視だな。あと、具体的にどんな産業が発達してるかとか、名産が何かとかも全く分からん」
「現時点で分かること、予想できることはこのくらいかしら? ニーズやらは調べてみないと何とも言えないし、やっぱり調査不足ね……」
「そうだなぁ。まぁひとまず仮のターゲットとしては現役冒険者って感じで良い?」
「そうね。数も多いし、明日からは私達も冒険者稼業だから、市場調査が並行して出来て効率良いわ」
「オッケー。次はCompetitorだけど……。これも市場が分からんことにはなぁ」
「うん、冒険者向けのお店が競合になるのは当然だけど、そんなの言うまでも無い事だし……」
「そうなんだよなぁ。そうなると必要な調査項目は、 一つ目、想定ターゲットである冒険者の行動パターンとニーズ(顕在・潜在)。二つ目、冒険者の懐具合。
で三つ目が、市場や競合を知るために、冒険者向けの店および街にある店や産業全体の種類とか分布の調査、ってとこか。うーん、分かってはいたけど、調べること多いなぁ」
「仕方ないわよ。世界レベルで初めましてなんだもの。ここに来て数日で、やることが見えてきただけでも良いんじゃない?」
「まぁね。よし、じゃあ最後のCompanyだ。まだ組織になってないから、俺たちのビジョンからだな。前に立てた長期目標である“地球に帰る方法を見つける”は大前提として、中期目標の“安全かつ安定的に生活できる基盤を作ること”をビジョンにするのがしっくりくるな」
「そうね。ホントは社会的な意義とかもあると良いんでしょうけど、当面は独善的になるわね」
「偉そうなこと言っても商売は商売、所詮は金儲けだもの。独善性を表に出すと嫌われて売れなくなるから綺麗事で誤魔化すけど、商売人なんて本来独善的だよ。ましてや社会貢献なんて、持てる者にのみ許される特権さ」
「身も蓋も無いわね……。まぁその通りなんだけど。じゃあビジョンと言うか目的はそれで良いわね。次は強みと弱み?」
「強みか……。まずは地球の知識・経験があることだわな。まぁ地球の常識がこっちの非常識ってこともあるから、逆に弱みにもなるけど。周りと差別化していくには地球の知識と経験をフル活用するのは必須だろうね」
「まずはそこよね。次はやっぱり神の加護かしら? 私の加護はさておき、伊藤さんの加護は大きな武器よね」
「実際どこまで使えるか分からないけど、悪意を持つ人間が分かるのは大きいだろうね。騙されたりする確率をだいぶ減らせそうな気がするし、売ってる商品の良し悪しも多少分かりそうだ」
「天気予知も、使い方次第で大儲けできそうね。長期の気候が分かるなら、農作物の収穫量をかなり正確に読めるわよね? 不作になりそうな作物を先に買っておくだけで、ノーリスクで利ザヤが稼げるわ」
「やりすぎると危ない橋渡ることになるから、当面はやれても目立たないようにやる感じかなぁ。あ、文乃さんのスキルも有用だと思うよ。カウンターの方は店先でのトラブルを無傷で乗り切れる可能性が上がるし、弓の方は冒険者稼業、中でも討伐系に対して文字通り強力な武器になるでしょ。
2人とも多少は武道の嗜みが多少あるとはいえ、命のやり取りを前提にした戦闘行為なんてしたことが無いからさ、確実に戦闘を優位に進められるスキルはものすごく貴重だよ」
「私のスキルも、どの程度実戦で使えるか要調査ね」
「あと、その辺とも関わってくるけど、身体能力、特に魔力が高いのも強みよね。魔力を有効活用する方法とか探したいわね」
「体力勝負もある程度できるってのもありがたいな。この加護と身体能力のおかげで、ギルド上層部と運河の星という有力冒険者の両方とのパイプが出来たのも強みだな」
「そうね。冷静に考えるとギルドマスターに直接話が出来るって割ととんでもないわね……。ファビオたちも、冒険者稼業のことだったら大体分かってるだろうし、本来手探りでやらなくちゃいけないことをやらなくて済むわね」
「うん。ネットもメールも無い世界だ、リアルな人脈は最終的に一番の宝になると思うよ。あ、宝で思い出した。例の召喚者の遺産、この先素性が分かってくると大きな強みになる気がしない?」
「あのローブもとんでもない貴重品だったんでしょ?完成品の杖とかアクセサリなんかも貴重品である可能性が高そうね。素材っぽい諸々も、実は貴重品だったっていうのはありそうな話ね」
「水が出る石とかも含めて、市場調査して早めにアタリをつけたいところだな。さて、強みはこんなとこかな?」
「思いつく強みはそれくらいかしら」
「じゃあ逆に弱みだけど、一番大きいのはこの世界に関する圧倒的な知識不足、これに尽きるわね」
「疑う余地も無いわなぁ。ホントはPEST分析もやりたかったけど、何一つ分からないんだもの……。まぁ逆にその辺を知れば知るほど強みが活かせるからね、頑張って調べていこう」
「そうね。後は……、身分と言うか素性の怪しさも課題よね。冒険者登録できたから大分マシになったけど、存在しない村の出身だし、知らないことだらけだし、そのくせ妙に身体的スペックは高いしで、客観的に見たら怪しいと言うか不思議よね」
「その辺は、早めに知識ギャップを埋めるのはもちろん、冒険者ランクを上げて何とかしてくしかないな。幸い冒険者の街だからさ、一角の冒険者になれば何とかなるんじゃない?」
「変に目立たないように、かつ早めにランク上げしないとね……。他には何かある?」
「弱みじゃないかもしれないけど、資本が少ないのは弱点じゃないかなぁ。冒険者一本でやるなら大丈夫そうだけど、商売をするには心許ない気がする」
「あー、確かに……。しばらく生きるには困らないお金だけど、何か仕入れたらあっという間に底を尽きそうね……」
「うん。だから俺たちのやる商売は、こっちにない知識をフル活用した、元手があまり要らないか原価割れするリスクが小さい商売から始めるのがベストだね」
「加えて、冒険者と兼業できるスタイルね。時間とか手間とか場所とかは良く考えないとね」
「両立していかないと立ち行かなくなるからね。しばらくは兼業と言うか、冒険者の稼ぎだけで貯蓄できるレベルまで行くのが目安か……」
「よしっ、分かる範囲での整理と当面の方針は決まったな」
「これでしばらくは迷わずやれそうね」
「ま、どうせ異世界に来たんだ、地球じゃやれなかったことをやれてると思って、明日からの冒険者稼業を楽しむかね」
「そうね。どうせなら楽しまないと損よね。じゃあ、明日から頑張りましょ」
「ああ。それじゃあまた明日。ふぁぁぁっ、ひと段落したら眠くなってきた。ぼちぼち寝るか」
「明日はきっと朝から動きっぱなしになるでしょうし、私も部屋に戻って寝るわ。
あらためて明日からよろしくね。おやすみなさい」
「うん、おやすみ」
こうして現状の整理と当面の方針決めを終わらせた二人は、翌日からの冒険者稼業開始に向け、お互い眠りにつくのだった。
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