第38話 ジャンと”運河の星(ステラカナル)”

 ジャンの年齢はファビオと同じくらいかやや上、少し長めの金髪に瞳は濃いブルーだ。

 重戦士は頑丈な鎧や大きな盾で身を固め、自らに敵を引き付け仲間を守る役回りの戦士だ。

 さすがにオフなので鎧や盾は身に着けていないが、ガッチリとした体格なのが見て取れる。

 

「はーい、次はアタシ。スカウトのアンナよ。ファビオと同じD級ねー。二人ともさー、さくっとランク上げてウチのパーティーに入っちゃってよー!!」

 続いて名乗ったのは、三つ編みにした赤茶色の髪と、髪と同じ色のパッチリとした目が印象的なスカウトの女性だ。

 スカウトは、素早さや器用さを生かし偵察や見張りをしたり、戦闘では遠距離攻撃や牽制を得意とする職業だ。

 アンナもスカウトらしいスリムな体形で、体にフィットした動きやすい服装がそれをさらに際立たせていた。

 

「ナタリア。C級の魔法師。魔力が多いって聞いた。絶対魔法師になるべき。今度、一緒に魔法の練習する」

 最後に名乗ったのは、紺色の髪をボブカット風にした、眠たげな水色の瞳の魔法師の女性だった。

 魔法師は体内の魔力を消費して様々な現象を引き起こす魔法を使う職業で、体を動かす仕事にはあまり向いていないことが多い。

 小柄なナタリアもそうなのか、アンナとは正反対に体のラインが出ないローブのような服を着ている。

 

「ありがとう。俺は太一。まだ村から出てきたばかりだし、さっき冒険者登録したばかりだから、職業は決めていない。と言うか商売をやるつもりで、その種銭を稼いだり、知り合いを作るために冒険者をやるつもりだったんだけど、何やら過大な評価を受けちゃって困惑してるよ……」

「私は文乃。兄と同じで、まだ具体的な職業は決めていないけど、少し弓が出来るからまずは弓を使ってみようと思ってるわ。ただ、私も兄と一緒に商売をやるつもりだから、冒険者は副業感覚だったんだけどね」

 運河の星に続き、太一と文乃も自己紹介をする。

 そしてその冒険者に対する消極的な姿勢に、一斉に突っ込みが入るのだった。

 

「いやいや、それはさすがに勿体ないなぁ。最初からD級以上の能力値があるんだったら、一流の冒険者を目指そうよ」

「ちょっとそれ本気!? 絶対すぐにランク上げられるから、一緒にパーティー組もう! いや、むしろランク上げ全力で手伝うしー!!」

「ありえない。魔力が多い人材は超貴重。少なくとも一人は魔法師になるべき」

「おまえらなぁ……でも俺も同意見だ。それだけの資質があるなら、A級を目指したっておかしくないぜ」

 ファビオも加わった四者四様の突っ込みに、太一と文乃は思わず苦笑して顔を見合わせる。


「期待してもらえるのは嬉しいんだけど、まともに戦ったことも無いし、そもそも装備品すら持っていないからなぁ。まぁお金は稼がにゃならんから、しばらくは冒険者としてみんなにお世話になるんだけどね……」

「そうね。私達だけだとどんな依頼が良いかもわからないし、下手な行動して目立っちゃうのも困るから……。運河の星に手伝ってもらいながら、しばらくは冒険者体験かしらね」

「ああ、それは任せてよ。まずは近場で様子を見ながら基本を学ぶところからかな?」

「その前に最低限の装備は買わないと! 当面は日帰りの近場だから、旅用の物はまだ要らないけど、メイン武器とサブ武器、最低限の防具だけは中古で良いからすぐ買わないと駄目かなー」

「可及的速やかに、魔法適性も見るべき。少しでも魔法が使えるのとそうじゃないのでは大違い」

「まーたお前らはそんな一気に……。で、元々タイチ達は冒険者登録したらどうするつもりだったんだ?」

 

「まずは最低限の装備は買うつもりだったよ。で、初心者向けの依頼を色々やってみて、自分たちに合う稼ぎ方を見つける。さらにそれと並行して商売のネタ探しをする、って感じかな」

「なるほどな。一応考えてはいるのか。早速明日から動くのか?」

「ああ。朝一に冒険者ギルドへ行って依頼を見繕う。で、依頼内容から必要そうな装備品やらを見繕った上で、依頼に挑戦って感じかなぁ」

「うん、悪くないね。近場で済ませられる簡単な討伐依頼と採取依頼は常設依頼にあるから、まずはそれをこなせる装備品を買おうか」

「常設依頼?」

 聞きなれない単語が出て来て太一が首を傾げる。

 

「ギルドにある依頼は、常設の依頼と単発の依頼に大きく分かれているんだ。単発依頼は早い者勝ちで、誰かが受けると受けられないし、依頼が達成されるとその依頼はそれでお終いだね。定期的に同じ依頼を出す人がいるから、同じ依頼が出ているように見えても、依頼としては別モノなんだよ。

それに対して常設依頼は、その名の通りいつでも受けられる依頼だね。いや、そもそも受ける必要すら無くて、達成に必要な条件を満たせたら報告するだけで依頼達成になるんだ。代表的な常設依頼だと、薬草の採取とかキラーラビットの討伐とかかな。どちらも常に需要があるから、依頼も常設になってるんだ。安定して稼げるし、取り合いにもならないから初心者に人気だけど、その分報酬はちょっと安めなことが多いよ」


「なるほど。確かに最初は無駄にならないヤツが無難かぁ。ちなみに、討伐系と採取系以外だと、どんな系統があるんだ?」

「代表的なのだと、護衛系と輸送系、調査系、採取含めた入手系、ちょっと変わったとこだと製作系とかね。あ、かなり幅広い手伝い系ってのもあるよ。大体こんなとこだね」

「ありがとう。ほんと何でもある感じだなぁ……」

 

「護衛とか輸送は当面無理だし、やっぱり採取、討伐を中心に良さげな手伝い系があったら追加するのが無難だわな」

「野営しない前提だとそうなるだろうね。じゃあ、明日の朝に迎えに来るから、装備品を見に行って討伐と採取を試してみようか」

「すまんな。そっちの依頼は大丈夫なのか?」

「うん。一昨日まで割と期間が長めの護衛依頼を受けてたからね。もう少し休みだから大丈夫だよ」

「えっと、それはそれで申し訳ないわね……」

「いーのいーの。休みって言っても三日も休んだらどーせ飽きてきちゃうからさー」

 休日出勤をお願いする感覚から申し訳なさそうに言う文乃に対して、ひらひらと手を振りながらアンナが言うと、他のメンバーも同感とばかりに頷く。


「そうなのね。じゃあ悪いけどお願いするわ」

「よし。明日は朝から動くってことで決まりだ。そんじゃま、今夜はタイチとアヤノのこれからを祈念して、乾杯するか!」

「そだねー。色々聞きたい話もあるし。飲もう飲もう!!」

「朝早めに動くし、タイチたちは明日から慣れない冒険者稼業を始めるんだから、ほどほどの時間で切り上げるよ?」

「はいはーい。ナタリアはワインで、他はエールでいい? あ、アヤノもワインね。おやっさーん、エール4つとワイン2つちょーだーい!!」

 アンナが景気よく酒を頼む。程なくして出てきた酒を各々が持つと、ジャンが乾杯の音頭を取る。

「では。タイチ、アヤノとの出会いに感謝と、今後の活躍を願って、乾杯!!」

「「「「「かんぱーい」」」」」

 それぞれのグラスを軽くぶつけあうと、プチ宴会へと突入する。

 

 話題は専ら、太一と文乃のこれまでの生活|(もちろんカバーストーリーだが)と今後についてで、それを受けて先輩から度々アドバイスが飛んでくる形だ。

 そのまま二時間ほど談笑すると、ファビオ以外の面々が挨拶をして定宿へと引き上げていく。ファビオ以外は、別の同じ宿に泊まっているそうだ。


「それじゃ、また明日。これからよろしく頼むぜ」

「こっちこそ、手間取らせてすまんが、よろしく頼む」

 ファビオもあらためて太一と握手を交わすと、自分の部屋へ引き上げていった。

「さて。少し遅くなったけど、この後少し商売の話をしないかい?」

「ええ。そこまで飲んでないし、まだしばらく大丈夫よ。そうそう伊藤さん、一つ分かったことがあるの」

「何?」

「この世界の時間。昨日今日と決まった時間に鳴ってる鐘の音から確認したんだけど、1日はほぼちょうど22時間よ」

「そうなんだ。気にしてなかったけど、地球より少し短いんだな」


「ええ。それとさっきの雑談の中で何となく確認してたんだけど、1年は地球と同じ12の月に分かれてて、各月30日らしいわ」

「1年も若干短いのか。地球と同じ12か月ってのは分かりやすくて良いな。あ、そうなるとこっちの人の年齢は、地球基準だと1割くらい差っ引いてみないと駄目になるのか」

「そうね。成長速度とか環境も違うから一概には言えないけど、単純に“生まれてからの期間”とか“経過日数”で計る場合は、1割引で見た方が良いと思うわ。生活リズムもそれに合わせて行かないと駄目ね」


「24時間で無意識に計算すると、2時間足りないことになるからな。ありがとう。その辺は気が回ってなかったから、すごく助かったよ」

「他にも当たり前が当たり前じゃない事が沢山ありそうだから、追々確認していきましょ。じゃあ、部屋に戻って作戦会議の続きね」

「ああ。とりあえず現状整理と方針策定のために、簡単にSWOTでもやるか」

「ざっくり検討するならSWOTはいいわね。あまり時間はかからないし、そうしましょ」


 簡単に方針決めをしながら、太一と文乃も三階の客室へと移動していった。

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