第36話 グランドマスター ツェツェーリエ
「グランドマスターってのは予想の上でしたが……。まぁギリギリ範疇ですかね……」
「そうかそうか。どうやってここへ来たか、については企業ヒミツじゃな。ただ、お主らには、いくつか予想が出来るんじゃないかの??」
「っ!」
笑顔は変わらないものの、一瞬見せた全てを見透かすような目に、太一も文乃も息を飲む。
「かっかっか。そう警戒せんでも良い。詮索する気は無いからの。同じ加護持ち同士、これからもよろしくというだけじゃな。ちなみにこのアホウも、こんななりで加護持ちじゃ。加護持ちの先輩として、力になれることも多かろう。
ワシらが口外することは無いが、加護持ちは貴重じゃし、その力は隠そうとしてもどうしても目立つ。お主らも、まず間違いなく何らかのトラブルに巻き込まれるじゃろ。困ったことがあったら、遠慮なく訪ねてまいれ」
これまでとは打って変わって真剣な表情で語るツェツェーリエ。
一区切りつけると、元の悪戯っぽい表情に戻り続ける。
「その代わり、こちらからもお願いする事があると思うのじゃ。ギブアンドテイク、と言うやつじゃの。じゃから、できればお主らの加護で出来ることを聞いておきたいのじゃ。どうじゃ? 悪い取引ではなかろう?」
「ええ、元々隠すつもりはなかったですからね」
「ほほ、本当かね!!!」
太一が了承の意思を伝えるや否や、頭を押さえて蹲ったままだったヨナーシェスががばっと起き上がる。
「あらら、復活しちゃったよ……。えー、俺の加護スキルは、占術(善悪)ってヤツですね。対象の俺に対する感情を、可視化して見られるようです。基本的に視認する必要がありますが、一度視認した後は一定距離離れるまで継続します。その有効範囲とか同時判定できる人数は、熟練度次第ってことなので、増える可能性がありますね」
「ほほぅ、それはまた強力じゃな……。ワシらはどう見えたのかの? 怖い怖い」
わざとらしくぷるぷると震える振りをしてツェツェーリエが首をすくめる。
「お2人とも、好意的な色で見えてますよ。と言うか悪意が見えたら教えないですし」
「まぁ、それもそうじゃな。貴様も気を付けるのじゃぞ?」
感情を読める、と聞いて目が輝いているヨナーシェスにツェツェーリエが言う。
「もちろんです! そもそも加護を持った方に私が悪感情を持つなどあり得ませんし!!」
「まったく、困ったやつじゃ……。さて、もう一人の方はどうかの?」
「私のスキルはシンプルで、神の武芸(弓術)と言うものです。その名の通り、弓や弓に似た武器を使う時の精度や威力に大きな補正を得られるようです。あと、弓の上達速度も大幅に早くなるようですね。これまで弓を使ったことは無かったので、いつ発現したかは分からないです」
「ふむ、こちらも強力じゃの。シンプルな強化系は、鍛えるととんでもないことになるからの。早めに鍛えると良いぞ。バレないようにやるのが手間じゃが……」
「いいですね。戦闘系と非戦闘系でバランスが取れているので、良いパーティーになりますよ」
「だと良いんですがね……。まぁ何にせよ、色々試してみます」
「そうじゃな。徐々に慣れていけばええ。ヨナーシェスよ、これでひとまず話は終わりかの?」
「はい。加護持ちのルールについての説明は終わっていますし、大丈夫です」
「お主らも聞きたいことは無いかの?」
「ええ、現時点では特に。文乃さんは?」
「私も問題ないわ。あ、そうだ一つだけ。先ほど、困ったらいつでも訪ねてきて良い、というお話でしたが、どうやって連絡したら良いでしょうか? 窓口で呼び出したりすると、目立ちませんか?」
「そうじゃの。だったら総務の窓口……あぁクロエがおった窓口じゃな、そこで伝えればええ。クロエ含めて、総務の担当全員に伝えておくゆえ、スムーズに伝わるじゃろ。ああ、加護関係であることは言わぬようにな。単にワシかヨナーシェスに用向きがある旨だけ伝えるのじゃぞ」
「分かりました。ご配慮ありがとうございます」
「うむ。まぁしばらくは加護の力を色々試してみることじゃな。そしてくれぐれも、加護の力に飲み込まれんようにの」
「飲み込まれる?」
「おるのじゃよ、時々。まるで自分が神にでもなったつもりで増長し、問題を起こす輩がの。そういう勘違いした輩を“教育”するのも、ワシやヨナーシェスの仕事じゃ」
「「っ!」」
そう話すツェツェーリエの目が一瞬細められた途端、太一と文乃がソファから飛びずさり臨戦態勢を取る。
2人とも額には脂汗が浮かび、その目はツェツェーリエを捉えて離さない。
「おっと、これはすまんことをした。思わず殺気が漏れてしもうたか。お主らは間違っても飲み込まれるようには見えんから、心配無用じゃな」
すまんすまんと言いながら謝るツェツェーリエからは、もう先ほどのような威圧感は微塵も感じられない。
それを見て、太一と文乃もようやく臨戦態勢を解く。
「はっはっは、ワシもまだまだ修行が足りぬの。しかしお主ら2人とも中々見どころがあるわい。僅かに漏れた殺気に反応しただけでなく、咄嗟に飛び退けるヤツはそうそうおらんからの。これからが楽しみじゃわい」
「試したんですね……。全く、おっかない人だなぁ」
「まぁ許せ。さて、そろそろ時間じゃの。ヨナーシェス、クロエを呼んでくるのじゃ」
「はいはい、お任せを」
程なくして入ってきたクロエは、ツェツェーリエがいたため驚きのあまり固まってしまった。
「グ、グランドマスターまでいらっしゃったとは……」
ぷるぷると震ええるクロエを見て、太一と文乃は苦笑いだ。
「ああ、ヨナーシェスさんと話してたら、突然飛び込んできたんだわ……」
「羽虫か何かのような言い草じゃのう」
「こんなおっかない羽虫、いてもらったらたまらんわなぁ」
「むむ、この美少女を捕まえておっかないとは、失礼な奴じゃ」
口を尖らせむくれるツェツェーリエと、ツェツェーリエに軽口を叩く太一を見て、目が零れ落ちるのでは? と思うほど目を見開くクロエ。
「まぁよい。2人とも何かあったら気軽に訪ねてまいれ。すまんのクロエ、時間を取ってしもうて。ワシらの話は終わったから、二人を案内してやってくれ」
「かか、かしこまりました!」
「タイチ、アヤノもまたの。いつでも訪ねてくるが良い」
「ええ。今日はありがとうございました。ヨナーシェスさんもありがとうございます」
「ギルマスは不在の事も多いですからね。その時は私のほうで対応しますから、ご遠慮なくお声掛けください」
「では、失礼します」
ツェツェーリエとヨナーシェスに一礼し、まだ緊張が解けていないクロエと共にファビオが待つ部屋へと戻る。
「話は終わったか? ……ん? どうしたクロエちゃん?」
「いや、お迎えに上がったらグランドマスターがいらっしゃいまして……」
「おいおい、マジか……」
「サブマスターと話してたら、急にツェツェーリエさんが乱入してきてさぁ。驚いたのなんのって」
「それは驚くだろうな……。でもちょっと羨ましいぜ」
「羨ましい?」
「ああ。ギルマスは、この国に3人しかいないS級の一人だ。今も現役だから、高難易度の依頼を自らこなすのに飛び回ってて、中々会うことができないんだよ」
「現役のS級だったのか……道理でおっかない訳だ」
ファビオからもたらされた情報に、やれやれと言った表情で顔を見合わせる太一と文乃。
その後、2,3業務的な話をクロエと交わすと、太一達は会議室を出て階段を下る。
「タイチさんもアヤノさんも、これからよろしくお願いしますね。ファビオさん、ジャンさんへの確認、お願いします」
「よろしく」
「よろしくね」
「ああ、任せろ」
カウンター前で別れの挨拶を交わすと、3人はギルドを後にする。
「俺はちょっとメンバーとさっきの話をしてくるから、ここで失礼する。帰り道は分かるな?」
「問題無い。俺たちは仮の宿のほうに残してる荷物を取りに行ってからドミニクさんの宿に戻るよ」
「了解だ。多分メンバーもリーダーも断らないどころか喜ぶだろうから、心配せず待っててくれ。じゃあ、また後でな!」
ギルド前で手を振ってファビオと別れると、2人は来た道を戻り始める。
「文乃さん、詳しくは戻ってからにしたいと思うけど1点だけ確認させて。
「……ええ。で、それを聞くってことは伊藤さんも複数だったのね?」
「ああ。よし、じゃあとっとと荷物を取りに行って、ご利益の話含めて今後の作戦会議をせにゃあ」
「そうね。ようやく準備が出来てきたから、ここからがスタートね。お金が尽きる前に、生活基盤を固めたいわ……」
「飯付きだから、暮らすだけなら残金でひと月くらいいけるけど、これ以上は手持ちの金を減らしたくないからなぁ。前払いした10日の内に、目途は立てないと」
今後の事を話しながら召喚者の家に戻って荷物を回収し、黒猫のスプーン亭に戻った頃には日が傾き始めていた。
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