第35話 二人の加護

(あーー、なるほど。そういうことだったのか。しかしこれはまた凄いな。確かに頭に思い浮かぶ、としか言いようが無いわな。)

 太一は、頭の中に“表示”されている内容を見て、苦笑しながらも納得する。

 そこにはこう書かれていた。

 

神の加護:アメノフトダマノミコト(発現済)

スキル1:占術(善悪)

  対象の自身に対する感情を、線の色と太さで表す。

  初回判定時は対象を視認する必要があるが、以降は一定距離に対象がいる限り視認する必要はない

  有効範囲、同時判定数は熟練度に依存。任意で視界への表示/非表示の切り替えが可能

スキル2:占術(天気)

  一定期間内の天気を正確に予知できる

  予知可能な期間、粒度は熟練度に依存

 

(ずっと目に見えていた線は、この占術(善悪)の線だったのか……。多分、青に近いほど善で赤に近いほど悪い感じだろうな。ほぼ想定通りだけど、太さも関係あったのか。商売する上でこんなスキルがあったら反則みたいなもんだろうに。

それと天気予報? 正確にってことだから予言みたいなもんか。てか二つもあるのかよ。どれくらいの期間が対象か分からんが、これも使い方次第で相当有用なスキルだな。

しかし占術ねぇ……。まぁフトダマって確か天岩戸で占いした神様だったはずだから、そうなるか。しっかしこれ、ヨナーシェスに言って大丈夫なヤツなのか? 相当エグい効果だぞ、これ。あと複数が当たり前かどうか分からん……。とりあえず一つだけ伝えて様子を見るか。言ったら顔引きつりそうだなぁ。水色だったから、まぁ大丈夫か)

 

(これは……そりゃあヨナーシェスさんの言った通り発動しない訳よね。それにしてもここまでハッキリ分かるというのは予想外ね。もはやSFだわ)

 一方の文乃も、頭の中に表示された内容に驚嘆しながらも呆れる。

 文乃の加護はこうだ。

 

神の加護:ヒコホホデミノミコト

スキル1:神の武芸(弓術)

  弓およびそれに類する武具を扱う際、精度、威力、発射数、上達速度に大幅なプラス補正を得る

スキル2:神の理(カウンター)

  自身に対して行われた、自身に害を及ぼす事象を反射する付与を自身に発現する

  成功率、反射時の補正効果、継続時間は熟練度に依存

 

 (ヒコホホデミノミコト……。山幸海幸の山幸彦の事よね。この前の有給で九州へ行ったときに参拝した鹿児島神宮が確か山幸彦と豊玉姫だったからかしら? 山幸彦は弓の名手で狩猟の神様だったはずだから、加護の内容自体は納得できるか……。

さっきの分類で分けるならスキル1は常時発動の特定条件、スキル2は任意発動ね。弓なんて使うこと無かったし、まさかカウンターの効果がある付与が出来るなんて思わないもの、気付かない訳だわ。

しかし2つ効果があるとはね……。伊藤さんのほうがどうか分からないけど、ひとまず一つだけ伝えて様子見ね。弓の扱いに長けるって話なら、割と分かりやすい効果だから特に問題も無いでしょ。どの程度の効果なのか試さざるを得ないのはちょっと悩ましいけど。ただこれだったら、正直聞かなくても効果も使い方も分かるのよねぇ……)

 

 太一と文乃が加護の内容を確認しているのを、ヨナーシェスが興味深そうに見ていた。

(ふっふっふ。まさか二人同時に加護持ちが現れるとは。予想外過ぎて笑いが止まらないですね。これでまた研究が一歩進みますねぇ。おっと、顔に出すと気持ち悪がられますからね、あくまで紳士的に……。それにしてもどんな効果があるのか、非常に楽しみですね)


 極力嬉しさを表情に出さないようにしているが、目元や口元が時折ヒクヒクしており非常に怪しい。

 幸い太一も文乃も、加護の確認に集中しているため気付いていないが、気付かれたらドン引きされること間違いなしだ。

 

 5分ほど確認作業をしていた2人だったが、ほぼ同時に確認が終わったようで用意されていたお茶に手を伸ばした。

 ゆっくりお茶を飲みひと心地付いたところで、太一が話を切り出す。


「俺のほうの確認は終わったけど、文乃さんも大丈夫?」

「ええ、確認できたわ」

「ほ、ほほぅ。そ、それでどんな効果でしたか?」

 ついに我慢しきれなくなったのか、少し腰を浮かせて前のめりになるヨナーシェス。

 それを見た太一は、悪戯っぽい笑みを浮かべながら答える。


「あー、それなんですがね……。想像していた以上に説明も効果も分かりやすくてですね……。正直、あまり公表する必要性を感じないと言いますか……」

「えっっ!?」

 太一の台詞を聞き絶句するヨナーシェス。


「文乃さんはどう?」

 ヨナーシェスに見えないようウィンクしながら文乃にたずねる太一。

 文乃は一瞬呆れ顔をしたが、すぐに真顔に戻りヨナーシェスに止めを刺しに行く。

「私のほうも、非常に分かりやすい効果でした。ここまで分かりやすいのは予想外でしたが、結果としては兄と同様に秘匿したほうが良いと考えています」

「そそそ、そんな……」

 文乃の答えを聞くと、もはや体裁を取り繕うことも無く膝をつき落胆するヨナーシェス。


「せ、せめてスキルの名前だけでも教えてくれないか? そ、そうだ!!サブマスター特権でDランクスタートを約束するぞ!!!」

「いえ、いきなりD級だと悪目立ちしてしまうので……」

「ぐぬぬ、じゃ、じゃあ依頼達成報酬を2倍にしよう!どうだ? 悪い話じゃないだろ??」

「それは魅力的なお誘いですが……。そんな事をして大丈夫なんですか? 予算だって決まってるでしょうし……」

 余りのなりふり構わぬ攻勢に、若干引きながら太一が質問する。

 

「なに、予算なんぞ適当に理由をつけてでっちあげるか、弱みを握ってる連中をちょっと脅せばいくらでも出てくるから問題無い!」

「うわぁ……」

 その答えがさらに酷いものだったので、ドン引きする太一と文乃。


「まだ足りないか……よし、じゃあ税金も半分にし「貴様は何を血迷っておるのじゃっ!!」へぶっ!!」

 さらに条件をBETしようとしたヨナーシェスの言葉は、突然何者かの台詞で遮られる。

 ばかりか、その台詞を発した者の手にした杖で頭を強打され、床に叩き伏せられてしまった。

 

「まったく、貴様はバカなのか?サブマスターの権限を何だと思っておるのじゃ……」

「うぐぐぐ……」

 尤もな指摘を叩きつけられたヨナーシェスだったが、頭を押さえて悶絶したままで聞こえているか怪しい。

 そんなヨナーシェスを一瞥して、次は太一に問いかける。


「お主もお主じゃぞ、まったく。別に完全に隠す気も無いのじゃろ?」

「いやぁ、ちょっと面白そうだったもので、つい……。あははは」

「このアホウは、加護のこととなると人が変わるからの。いや、こっちが素じゃから、加護以外のことだと人が変わってるのかの??」

「あのー、ところでどちら様でしょうかね? サブマスを殴りつけてるので、なんとなく予想はつきますが……。と言うか、そもそもどうやっていらっしゃったので??」


 ようやくもっともな質問をする太一。

 どう見ても、突然現れて殴りつけている。その後それが当然のようにここに居るため流していたが、状況的にはおかしい事しかないのだ。

 また、状況のおかしさに加え、現れたのがどう見ても“少女”で“耳が長く”、“言葉遣いが嘘くさい”事が、おかしさに拍車をかけている。

 

「おぉ、これはスマンの。お主らとは初対面じゃった。わしはこのギルドのギルドマスターをしておるツェツェーリエじゃ。ああ、冒険者ギルドのグランドマスターも兼務しておるの。お主の予想通りじゃったか?」


 ツェツェーリエは自己紹介をしながら、ニヤリと太一に笑いかけた。

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