第34話 サブマスター ヨナーシェス

「ベティーナさんから報告を受けましたが、タイチさんは加護について少々詳しくご存じ、という事で良いですか?」

 (直球で来たか……。まぁベティーナから報告が上がってる以上、誤魔化す必要もないか)

「ええ、ベティから色々と聞いています。それがどの程度詳しいと言えるかは存じ上げませんが……」

「分かりました。では、アヤノさんは加護についてどの程度ご存じですか?」

「私は物語で読んだ程度の知識しかありませんね。稀に神の加護と呼ばれる特別な力を授かる人がいること、その力は唯一無二のもので様々、そして非常に強力だと言うこと、くらいでしょうか。あぁ、ここレンベックを興した王様も加護を持っていたそうですね」


「ありがとうございます。仰る通りヘルムート王も加護を得ていたと伝わっていますね。わざわざお呼び出しした上、こんな話を切り出しているので、すでにお察しかもしれませんが……」

 そこで一度言葉を止め、じっと2人を見つめる。

「お二方にも神の加護が授けられていることが判明しました」

「「っ!!!」」

 ある程度想定はしていたものの、あらためて告げられた二人は息をのんだ。

 

「タイチさんはすでにご存じだと思いますが、アヤノさんは色々と疑問があると思いますので、なぜこんな形で加護の話をしているのかの説明をまずさせていただきます」

 そうしてヨナーシェスは、太一がベティーナから聞いた事と同じ内容を文乃に説明し始めた。

 時折質問を挟みつつ15分程度で説明が終わる。


「文乃さんごめんね。この縛りがあったから、ベティから聞いた話は出来なかったんだ」

「問題無いわ。事が事だもの、簡単に言いふらして良いわけないじゃない。むしろ聞いてたら怒ってたわ」

「ふっふっふ、お2人とも加護があると言われてもそこまで驚いていませんね。流石、すでにD級クラスの実力をお持ちのお2人だ。頼もしい限りです」

「あ~、いや、あまりに現実離れと言うか、リアリティの無い話なので実感が無いだけです」

「そうですね。急に物語の中の人と同じです、と言われてもスケールが大きすぎて……。もっとも、兄は少し思い当たる節があるようですが……?」

「ちょっと、文乃さん!」


「だって……。ここ最近、特にこのレンベックに来てからかしら? 何かを確認してたでしょ? まるで自分にしか見えていない何かを確認してた感じとでも言うのかしらね。で、ベティさんの所から帰って来てから、その頻度が上がったように思うのよ」

「ほほぅ、それは本当ですか、タイチさん?」

 文乃の言葉に、目を細めてヨナーシェスが質問する。

 

「まったく。ホントよく見てるね……。ええ。ここ1週間くらいですかね。急に気になるものが見えるようになりまして。最初は気のせいかと思ってたんですが、気になり始めた途端ますますはっきり見えるようになってきて、それが何なのか、自分なりに試してたんです。そんな時ベティから例の話を聞きまして。ひょっとしたら加護なんじゃないかと」

「なるほどなるほど。ギルドや教会で鑑定をしなくても、そうやってご自身で気づかれる方もいらっしゃいます。タイチさんのように、“見える系”のものは分かりやすいので、そういう方も多い傾向にありますね。アヤノさんの方はいかがですか?何か気になったことはありましたか?」


「私は特には……」

「そうですか。そうなるとおそらくアヤノさんの加護は、任意発動系か特定条件下の制限がついている感じですね」

「任意発動??」

「ああ、すみません。私は今でこそサブマスターなどというものをやっていますが、元々は加護の研究者だったんです。いや、研究を追求するあまり、サブマスターになってしまったと言うべきかもしれませんね」

「冒険者ギルドの上層部だったら、色々な加護の情報が入ってくるから、とか??」

「ええ、お恥ずかしい話……」

 苦笑いをして肯定したヨナーシェスが話を続ける。

 

「では、詳しく話すと明日になりますので、簡単に。研究の結果、加護は今の所その力が発揮される状況別に大きく2つに分類できることが分かっています。常時発動系と任意発動系ですね。その名の通り、意識せずとも常に発動するのが常時発動系で、その力を使いたいと思って発動させるのが任意発動系です。

タイチさんの場合、急に見えるようになってそれが続いているとのことなので、まず間違いなく常時発動系です。対してアヤノさんは、そうした実感が無いとの事なので、少なくとも普通の常時発動系では無いと思われます。アヤノさんの場合は、まだ発現していないだけという可能性もありましたが、能力測定の結果すでに発現状態となっていますので……」


「すでに発現しているかどうかまで分かるんだ……」

「ええ。加護の場合、発現しているかどうかの差はかなり大きいですから……。で、もう一つの可能性が特定条件下制限が付いていることです。こちらもその名の通りで、常時・任意問わず、何らかの前提条件を満たしていないと力が発揮されないものを言います。過去の例ですと、夜にだけ発動するとか、寝ている時のみに発動するとかです」

「なるほど、そういうパターンもあるのね……。それって、どのタイプか自分で分かるものなんですか?」


「ええ、分かると思います。常時発動と書いてある訳では無いですが、どうやって使うかは思い浮かぶはずなので」

「なるほど……」

「その辺りは、また時間をかけて試してみることをお勧めします。さて、ここまでがサブマスターとしての義務としてのお話でした」

「ここまでってことは、個人的なお願いがあると??」

「ええ。個人的にはここからが本命です」

 くっくっくと笑いながら、実に楽しそうにヨナーシェスが続ける。

 

「先ほども申し上げた通り、私は加護の研究者でもあります。研究対象となる加護の数は多ければ多いほど良い。そこで、お2人の加護についても、研究させてもらえないか? というのが私のお願いになります。もちろんタダとは言いません。代わりに加護に関する様々な情報提供やアドバイスをさせていただきます。

元々加護の内容は秘匿されがちなので、世の中には具体的な情報がほとんど無いのです。その点私には、かなりの量の情報、それも実際に確認した正確な情報がある。きっとお役に立てると思いますよ」

「なるほど。確かに加護持ちだからってうまく使いこなせるとは限らんわな。文乃さん、どう思う? 正確な情報は貴重だとは思うけど」

「そうね……。研究対象になったとして、私達が加護を持ってることとか能力の詳細なんかは、秘匿されたままですよね?」


「もちろん。大前提として非公開、同じように協力してくれてる人へも匿名だったり詳細は伏せてお話しします。具体的に話したい時や、顔合わせをお願いしたいときは、必ず事前に了解を得ます」

「分かりました。でも返事をする前に少し待ってもらえますか? 実際に加護に触ってみて、その結果を踏まえて決めさせてください」

「ええ、もちろん構いません。そもそも加護の名前以外は、公開の義務はございませんので」


「兄さん、私の方はそんな感じよ」

「おっけー。じゃ、俺も同じ条件でいいかな。えーーっと、カードの裏に何の加護か書かれてるんでしたっけ?」

「はい。ご本人にのみ見えるはずです」

「さて、どんな神様の加護なのか……」

 

 2人とも興味津々でギルドカードを裏返し、上から下へと目線を走らせる。

「んんっ??」

「えっ、これって??」

 そして下の方で視線が止まり、そして驚きと同時に怪訝な表情を二人が共に浮かべる。


「どうされましたか?」

「いや、ほんとに加護が書かれてたのでビックリして……」

「そうでしたか。して、どのような神の加護でしたか?」

「えーっと、俺はアメノフトダマ、かな」

「私のほうはヒコホホデミ、ですね」

「ほほぅ。どちらも聞いたことのない神様の名前ですね。お二人はご存じで?」


「いや、生憎とその辺りには疎くて……。さっぱりですね」

「私もですね」

「ふむ。まぁ世界各国の様々な神様の加護があると言われていますし、私が知っている加護も同じ名前のものは二つと無いので、当然ですね。ではこちらの名前はギルド側で控えさせていただきます」

 そう言ってヨナーシェスは手元の書類に何かを書きつける。


「では、その文字を触ってみてください。そうすると使い方や効果が頭の中に浮かぶはずです」

 ヨナーシェスの言葉に太一と文乃は目を見合わせて頷くと、それぞれの神の名前に手を触れた。

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