第32話 ギルド登録

 取り出した魔法具の準備をしながら、クロエがギルド登録とギルドカードに関する注意事項の説明を始める。


「こちらがギルド登録とギルドカードを発行するための魔法具になります。本人の魔力を読み取って、それをカードに登録することで、世界に一つしかないカードが発行されます。

また同時に、魔力の形からおおよその身体能力を数値で計測してくれます。この数値もカードに記載されますが、我々一部のギルドスタッフとご本人にしか見ることは出来ませんのでご安心ください。

なお、先ほどランクの説明をした際に、例外を除いてFランクと申し上げました。その例外が、こちらの能力値になります。長年傭兵をしていたとか、魔法の研究をしていたとか、冒険者になる前に研鑽を積んでいる方は、この能力値が通常の方よりかなり高くなっていることがあります。その場合、各ランクの平均的な数値を踏まえ、ギルド長とも相談した上で、飛び級でスタートすることが可能です。もちろんFランクからスタートしていただいても問題はございません」


「へぇ、飛び級なんてあるのか……。ちなみにどれくらいの割合で飛び級っているの??」

「波があるので何とも言えませんが……。Eからスタートの方で100人に1人くらいですかね。その上は、再登録の方以外は本当に稀です」

「なるほどねぇ。どこにでも優秀な奴ってのはいるもんだ。まぁ俺たちには関係なさそうだけど。おっと、話の腰を折ってゴメン。続きをお願い」


「分かりました。登録自体は簡単で、この透明な球の上に手を乗せてしばらく待つだけです。その後、カードが自動で発行されます」

「それは凄いわね……。何か自分で登録したりする必要は無いの?」

「ありませんね。飛び級になった場合も、他の魔法具で書き換えるので。名前や年齢も自動で出てくるので、大体皆さん驚かれますね」

「え? 名前も年齢も自動なの? とんでもないな……」

「はい。何でも魂に刻まれている魔力の形を読み取ってるとかで、偽名や年齢詐称も出来ないようです。それが身分証としても使える最大の理由ですね」

 

 それを聞いた太一が、そっと文乃に耳打ちをする。

(ちょっとマズイのかな? 多分苗字が出てくるから、兄妹じゃないことがバレる。あと年齢も、ひょっとしたら元の年齢のまま出るかも)

(でも、登録しないと言う選択肢はないでしょ? 苗字は……、そうね、義理の兄妹とでもしておきましょう。親が亡くなって引き取られたということで。年齢はどうしようもないわね。若く見られるで通すしかないんじゃない?)

(了解)

「どうされましたか?」

「いや、登録費用が足りるかどうか確認してただけ」

「分かりました。それでは、最初にその登録料をいただきます。お一人小銀貨5枚ずつですね」

「二人分まとめてでも良いかしら?」

「大丈夫ですよ。はい、確かに大銀貨1枚いただきました。では、どちらから登録されますか?」

「どうする?」

「……兄さんからどうぞ」

「ほいほい。えっと、ここに手を乗せれば良いんだっけ?」

「はい。手を乗せていただいたら、しばらくそのままでお待ちください」


 太一が言われた通り水晶球の上に手をのせると、水晶球の中が淡く光り始める。

 最初白だった色がゆっくりと赤に変わり、それがオレンジ、黄色、緑、水色、青へと虹色のようにゆっくり変化していく。

 最終的に紫からまた白へと戻ると、ふいに光が消えた。

 

 光が消えたのを見て、クロエが口を開く。

「はい、タイチさんの計測はこれで無事完了しました。間もなくカードが発行されますので少しお待ちくださいね」

 数分後、再び水晶球が淡く7色に光ると、今度は魔法具の下の方についているスリットが光り、そこから白色をしたカードが出てきた。


「こちらがタイチ様の冒険者カードになります。まずは表面から一緒に確認させてください。まずお名前が、タイチ・イトーさ、ま……?」

「はいはい、間違いなく。あれ? どうかした?? もしもーし」

 カードに記された名前を見てクロエがフリーズしている。


「はっ!? 失礼しました。苗字をお持ちの貴族の方とは知らず……」

「あーー、いや、別に貴族って訳ではなく、昔から続いている家だから、苗字が受け継がれているだけなんだわ。ウチの村だと何世帯か苗字持ちがいるから気にしないで」

「わ、分かりました……。続いて年齢は21歳の男性で、種族は人族ですね。ランクはひとまずFとなっています。賞罰もございません。ここまでお間違いないでしょうか?」

「うん、大丈夫」

「ありがとうございます。続いて裏面にまいります」

 

「こちらには現在、ご本人の方にのみ8つの能力が1桁~最大4桁の数値で表示されているはずです。私含めて、他人には見ることができません。こちらの数値はあくまで基礎的な能力の数値で、うまく使いこなせばその数値に見合った能力が発揮できる、という目安にすぎませんし、日々の鍛錬や経験によって上下します。

ですが、皆様を同じ方法で数値化できるため、ギルドでは過去の膨大な数の冒険者の数値と実力を蓄積し、実力を判断するための有効な指標としています。

そこで、能力値を私が確認させていただき、過去の数値と比較することで飛び級の審査が受けられます。もちろん公開は任意ですし、細かい数値での確認では無く、一定の範囲をランク分けした物のみを確認させていただくことになります。いかがでしょうか?飛び級の審査を受けられますか?」


「そうだなぁ。飛び級はどちらでもいいんだけど、自分の数値の善し悪しが全く分からないから、見てもらっても良い?」

「かしこまりました。それでは、先ほどカードが出てきたスリットにカードを差し込み、水晶に手を置いてください」

 言われた通り、太一がカードを差し込み水晶に手をのせる。するとクロエがその上にさらに手を重ねる。


「?」

「では、手はそのままでこう唱えてください。

 “パフォーム デバイスエンパワーメント サマリーモード”」

「えーっと、“パフォーム デバイスエンパワーメント サマリーモード”」

 太一が呟くと水晶とカードが一瞬光り消えると、クロエが手を離す。

「ありがとうございます。これで、私にもタイチさんのおおよその能力値を確認出来るようになりました」

 

「それでは失礼して拝見しますね」

「どうぞどうぞ。見たら感想をお願いね」

「ふふ、かしこまりまし……っ!!」

 笑顔でカードの裏を確認し始めた途端、またしてもクロエの顔が引きつりフリーズしたため、心配になった太一が声をかける。


「あーー、大丈夫? そんなダメな数字だった??」

「し、しつれいしましたっっ。いえ、むしろ逆と言うか……」

 クロエは引きつった顔のまま答えると、深呼吸をする。

「すーはー……えー、今は決して低くないとだけ申し上げておきます。先にアヤノさんの登録も済ませて、詳しいお話はその後にでも……」

「えーー、気になるじゃない」

 唇を尖らせる太一を文乃が窘める。


「ほらほら文句言わないの。何か理由があるんでしょ?」

「え、ええ。」

「じゃあ私の方もお願いね。ささっと済ませてお話ししましょう?」

「かしこまりました。それではタイチさんと同じようにこちらに手を乗せてください」

 そしてそのまま作業すること数分、文乃のギルドカードも出来上がった頃、ファビオが戻って来た。

「どうだ? 登録は終わったか?」

「おかえり、ファビオ。俺のほうは終わって、文乃もほぼ終わったとこだ」

「そうか。そりゃ丁度いいタイミングだったな」

 戻って来たファビオをちらっと見てクロエがアヤノに耳打ちをする。


(アヤノさん、このまま確認を続けても良いですか? 年齢とかをファビオさんに知られるのが嫌なら、別室でも……)

(あら、お気遣いありがとう。でも別に隠すようなことでもないし大丈夫よ?)

(かしこまりました)

 問題無いとの文乃からの返答に、あらためてクロエは確認作業を始める。


「はい、それではアヤノさんもカード表面の確認をお願いします。えーお名前が、アヤノ・シノノメ……さ、まっ!?」

「あー、理由は兄と一緒よ。家が古いから姓があるだけで、別に貴族じゃないわ」

「か、かしこまりました。えー、年齢はタイチさんと同じ21歳。女性で人族、ランクは初期のFで賞罰無し。間違いありませんか?」

「ええ、大丈夫よ」

 

 すると、2人の会話を聞いていたファビオが首を傾げる。

「あれ? タイチとアヤノって兄妹って言ってなかったか? 年齢一緒って事は双子か?」

「いや、俺たちは義理の兄妹で血が繋がってる訳じゃないんだ。どっちも小さい頃に両親を亡くして、村長に引き取られたんだよ。だから姓も違う。もっとも村長に引き取られてから、ずっとただのタイチとアヤノで育ってきたから、今さっき言われるまで姓のことなんて忘れてたけどな」


 そう答えた太一に、ファビオはバツの悪そうな顔で謝罪する。

「あー、すまん。そんな事情があったとは知らず、余計な事を聞いたな」

「別に何も問題無いさ。不自由なく暮らせたし、今もこの街に来てワクワクしてる」

「そうか。ならよかったが……。クロエちゃんも話を止めてすまん。続けてくれ。」

「はい。ではアヤノさんも飛び級の審査を受けられますか?」

「ええ、お願いするわ」

 太一に続いて、文乃もクロエに能力確認の許可手続きを行う。

「っっ!!!」

 そして、文乃のカードの裏側を見たクロエが三度目のフリーズを起こし、呆れた太一が定まっていない視線の前で軽く手を振る。


「……なんだかなぁ。クロエさーん、もしもーし」

「っ! し、失礼しました!!」

「ぶっっ! そんな顔のクロエちゃん初めて見た……。大丈夫か?」

 驚愕して固まったクロエを見て思わず噴き出したファビオだが、クロエに睨まれ取って付けたように心配する言葉を付け加える。

 

 クロエはこほん、と一つ咳払いをして話を続ける。

「だ、大丈夫です! それではお手間ですが、ここからは別室でお話しさせていただいても良いですか?」

「ああ、よろしく。あー、ファビオはどうする?」

「クロエさん、これからする話ってファビオが聞いても良い話?」

「基本的には当事者のみとするお話ですが……。いや、お二人ってファビオさんと同じ宿に泊まられてるんですよね?」

「うん。今日からだけどね」

「そうですか……。であれば、冒険者の先輩としてアドバイスするためにも、ファビオさんも聞いていただいても良いですか?」

「ん?俺もか? まぁ、おやっさんからも頼まれてるから別に良いが……」

「お二人もそれで良いですか?」

「もちろん」

「問題無いわ」

「それではこちらへお越しください」

 クロエに促され、3人はカウンター脇にある階段で2階へ上がり、一つの部屋へと入っていった。

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