第31話 冒険者ギルド
扉をくぐった先、冒険者ギルドの1階は大きなロビーになっていた。
一番空いている時間との事だったが、優に100人以上いると思われる冒険者でザワザワと騒がしい。
正面中央に巨大な3面掲示板があり、無数の紙が貼られている。
その奥は壁の端から端まで巨大なカウンターになっており、途中それを三分割するように二階へと続く階段が二か所にあった。
また、入った左手は売店のようで、様々な雑貨や薬品類のようなものが売っており、右手側は飲食スペースなのか結構な数のテーブルと椅子が並べられ、席は1/3ほどが埋まっていた。
状況を確認するため、太一と文乃が軽く周りを見ているとファビオから声がかかる。
「詳しい説明は後だ。入り口に立ってると邪魔になるから、ひとまず登録に行くぞ」
「了解だ」
「分かったわ」
ファビオは二人を伴い、三分割された真ん中のカウンターの一番右の窓口へと向かう。
何かの資料を読んでいた、窓口嬢と思われる女性が向かってくるファビオに気付き声を掛けてきた。
「あらファビオさん、こんにちは。今日はお休みだったのでは?」
「あぁ、クロエちゃん。休みだったんだけど、黒猫のおやっさんに頼まれて新人を案内してきたとこ」
「そうなんですね。ご苦労様です。そちらのお二方が?」
「うん、そう。一昨日田舎から出てきたばっかだってさ。こっちの男がタイチ、でこっちの女性がアヤノだ。2人とも、ギルド登録ってことで良いんだよな?」
ファビオは、知り合いだろう職員に来訪の目的を伝え、太一と文乃を紹介していく。
「じゃあ俺はそこの酒場で時間潰してるから、後のことはこのクロエちゃんに聞きな」
そう言うと、ひらひらと手を振りながら入り口脇に設けられた酒場へと向かっていってしまった。
「あらためまして。冒険者ギルド総本部へようこそ、タイチさん、アヤノさん。私は主に新人冒険者の担当をしているクロエと言います。本日は新規の登録と言う事で間違いないですか?」
「はい、よろしく頼みます。あと、何となくしか冒険者の事を分かってないので、説明してもらえると助かります」
「かしこまりました! あ、そんな畏まる必要は無いですよ。多分年もそれほど変わらないでしょうし」
「そうか、分かった」
「はい。では、まず簡単に冒険者と冒険者ギルドについて説明しますね」
そう切り出して、クロエは冒険者ギルドについての説明を始めた。
「まず冒険者ですが、冒険者ギルドに登録された人は全て冒険者と呼ばれます。登録には小銀貨5枚を登録料としていただいており、登録いただいた方には身分証にもなるギルドカードをお渡ししています。こちら失くされますと、再発行には金貨1枚が必要となりますので、失くさないようにしてくださいね。もちろん他のギルドに登録することも出来ますが、その場合は兼業の冒険者ということになります。
冒険者はどこの国にも属さない自由な身分ですが、納税の義務は発生します。そのため、まずは最初に登録した街のギルドの所属となります。そして受けた依頼料の一部を税としてその街へ納税します。ですので、一定期間内に一定以上の依頼をこなさないと、脱税としてペナルティを受けるのでお気を付けください。
もちろん長期休暇などで依頼を受けない場合、現金での納税も可能ですよ。納税額は後程説明するランクにも関わるので、その時にまた説明しますね。ちなみに、登録して三か月以上経てば、他の街のギルドに自由に移ることが出来ます」
「次に、冒険者のランクについて説明します。冒険者にはSを筆頭にA、B、C、D、E、Fの全7段階のランクがあります。最初はよほどの例外が無い限り、一番下のFランクからスタートとなります。依頼をこなし、ギルドから一定の評価を得ることが出来ると、ランクが上がっていきます。評価は色々な指標がありますが、Dランクまでは依頼をこなした数がメインなので、あまり気にせずガンガン依頼をこなしちゃってください!
税率もこの冒険者ランクによって決められています。Fランクが10%で、そこからランクが上がるごとに5%ずつ上がっていき、Bランク以上は全て30%となります。また、冒険者は最大10人までのパーティーを登録可能です。
パーティー登録した場合、パーティー内で最もランクが高い人と最もランクが低い人の真ん中が最初のパーティーランクとなります。例えばA級とC級とE級がいた場合は、C級になります。綺麗に真ん中が無い場合は、上の級になります。例えばAとBしかいない時だったらA級、AとDの場合はB級と言う感じですね。税についてもパーティーで依頼を受けた場合は、パーティーランクで徴収されます」
「続いて依頼についてです。冒険者ランクと同じように、依頼にもランクが付けられています。あくまで目安なので、必ずそのランクで達成できるというものでは無いですが、何事も完璧は無理なので……。
そして重要なのは、依頼は受けることができるランクが決まっている点です。分のランクの上2つまでと下1つまでの依頼しか受けることができません。上限が決まっているのは、無茶をして取り返しのつかないことになるのを防止するため、下限が決まっているのは、後輩の仕事を奪わないためです。
また、パーティーで受けることが必須の依頼や、特定の技能が無いと受けられない依頼など、ランク以外にも条件がある可能性があるのでご注意ください。依頼には、それぞれポイントが設定されていて、達成するとそのポイントを獲得できます。
先ほどランクを上げるには依頼をこなせばよい、と言いましたが、より正確にはこのポイントを溜めることになります。一定のポイントをためると、一つ上のランクに昇格出来ます。ちなみに、FからEへ上がるためには200ポイントが必要になります」
「そしてこのランクポイントですが、有効期限が決まっています。具体的には獲得してから2年経過するとポイントは消失します。ランクが上がっても、ポイントが消失して必要なポイント数を下回ると、ランクが下がってしまうためご注意ください。
また、パーティーで依頼を受けた場合、報酬もポイントもパーティーに対して支払われます。パーティランクは、パーティで達成した依頼のポイントのみで計算され上がっていきます。個人ランクと違って、パーティーランクのポイントは消失しません。
その代わり、依頼を失敗したり一定期間依頼を受けないとポイントがマイナスされるのでご注意ください。クリアした個人へのポイントは、パーティー内で割り振っていただいて構いませんが、依頼に一切参加していない方へは割り振れません。
あと、依頼は掛け持ちで受けていただいても構いませんが、期限が設定されているものがあります。その場合、期限内に達成する事が出来ないと罰金やポイントがマイナスされてしまうので、依頼を受ける時には良く確認してくださいね。
他にも色々細かいルールや規則はありますが、必ず覚えておいていただきたいことは以上になります。細かい規則が知りたい場合は、二階の資料室に常設してあるギルド規則の冊子をお読みください」
「最後に、最も重要なお話です。それは、ギルドの理念についてですね。冒険者ギルドの理念は“自由と絆”です。基本的に自由を大切にしているので、お好きなように行動していただいて構いませんが、他人を裏切るような行為は厳しく取り締まります。これは相手が冒険者だろうが一般人だろうが関係ありません。
人と人との絆を何より大切にする。それが冒険者ギルド創始者であり、このレンベック建国者であるヘルムートの唯一にして最も重要な理念です。以上が口頭での説明になりますが、ご不明点等ございますか?」
ここまで、時折紙の資料を交えながらもクロエが一気に説明を行った。
「おおよそは理解できたかな。文乃も大丈夫?」
「ええ、私も問題無いわ」
「ほい。クロエさんありがと。と言うか、良くもまぁここまで滑らかに説明できるもんだ。感心するわ」
クロエの確認を肯定で返しながら、あまりに流暢な説明に少々唖然としながら、太一が感嘆の意思を伝える。
「まぁこれがお仕事ですし、毎日のように説明していますからね。慣れですよ、慣れ」
「いやいや、慣れたからって誰でも出来ることじゃないからね。ほんと大したもんだよ」
「あはは。お褒めいただきありがとうございます。では、以上の内容と理念はご理解いただいた上でギルド登録させていただく、という事でよろしいでしょうか?」
少し照れながら、クロエがギルド登録の最終意思確認を行う。
「うん、お願い」
「私も問題無いわ」
「かしこまりました。それではこれよりギルド登録とギルドカードの発行を行います」
そう言ってクロエはカウンターの下から透明な球のついた機械のようなものを取り出した。
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