第26話 脱出1日目の反省会
「とまぁ、そんな感じで、服も手に入れて思わぬ情報も手に入った感じ」
夕暮れ前に拠点に戻って来た太一は、今日の出来事を加護の件のみ伏せて文乃に説明していた。
「なるほどねぇ。貴重な体験ね、色々と。あ、こっちの串もいけるわね」
「まぁねぇ。結局行動範囲は狭いままだったけど、最低ノルマだった服もお墨付きのものが手に入ったし、情報も色々仕入れられたから良かったよ。あ、こっちはオークだって」
「……オークって、あのオーク??」
「あのってのが何を指すか分からないけど、モンスターっぽかったよ。年中発情期で鬱陶しいけど美味しいとか言ってたから」
「……あのオークで間違いなさそうね。やっぱりいるのね、オーク……。ああごめんなさい、話が逸れたわね。えっと、まずここがレンベックだと分かったのは大きいわね。これで地図も活かせるし」
「知識の軸が召喚者っていう俺たちにとって、一番知ってるのがレンベックだからな。最初の拠点にするにはベストだ」
「他にも色々あるし、あらためてまとめましょうか」
「そうだね。現状をまとめて明日からの行動を決めよう」
そう言うと、ノートPCを開きエディタを立ち上げる。画面には召喚初日に書いたまとめが表示された。
「これにも追記しておくか」
「そうね、分かったことも増えてるもの。コピペして追記する形にするわ」
【現状(レンベック1日目)★……追記】
・地球では無い異世界(以下エリシオルと呼称)に召喚されている
・召喚者と呼ばれる者が召喚代行術式を行ったことを受け、召喚代行者なる存在の手により召喚が行われた
・召喚者は既に死亡
・召喚者は実力あった魔法使いと思われる
※少なくとも付与系の魔法の実力は高い★
・地球への帰還は不可能ではなさそうだが、おそらく非現実的
・見た目は我々とあまり差異のない人型種族(以下異世界人と呼称)が存在し文化を形成している
・召喚された際に元世界の神の加護、肉体強化レベル4、召喚先環境適応レベル4という特典?が付与されているらしい
※ただしイレギュラー要素により肉体強化、召喚先適応は半分になっているとの事
→地球基準で少なくとも2倍以上の身体能力になっていることを確認★
※見た目が大学生くらいの頃に戻っているので年齢も半分になっていると思われる
・地球にはない不思議な力(以下魔法と仮称)がある
※少なくとも召喚魔法は実在
→装備品に効果を与える付与魔法の存在を確認★
→汚れ防止、自動修復、体温調整の3種の存在を確認★
→その3種が施されたローブの価値は金貨10枚以上★
・魔法をベースとした地球にはない文明体系が存在
※例1:一見岩にしか見えない照明
※例2:何らかの認証方法を用いた自動扉
※例3:水洗トイレのようなもの(残念ながらウォシュレット無し)
※例4:魔法の鍵★
※例5:魔石(魔力が蓄えられる)★
・どこかは不明だが建物の中にいた
・主な部屋、設備は以下
・召喚された部屋:床に魔法陣があるのみ
・召喚者の居住スペース:ベッド、棚、机、イス、水瓶、奥にトイレあり
・大扉:レリーフが施された大きな扉。開かない
・魔法陣のある部屋:召喚に使われた魔法陣より小さな魔法陣だけがある部屋
→転送の魔法陣。キーとなる指輪が無いと使用できない★
→使用には大量の魔力が必要。一度の使用で魔力切れを起こす★
→魔石を使っての利用が前提★
・気温は暑くも寒くも無い(24℃程度)
・直接外へ出られる出口は無いものと考える
・現地人とのコミュニケーションはある程度取れると思われる
→コミュニケーションは良好★
同様にエリシオルの文字もある程度読めるものと思われる(読めないものも存在)
※前述の召喚先適応の効果の可能性大
・スマホやPCは起動するが、スタンドアロンでの稼働のみ可能
・手持ちの食料は3日が限界。水分に関しては2日程度
→水に関してはほぼ無制限に利用可能★
・被服の文明レベルは中世ヨーロッパ程度と推察
→中世後期~近世前期程度か★
★以下新規項目
・転送先について
→レンベックの街にある1軒家の地下
→地下室への入り口は隠し扉
→中に人がいないと開けられない仕様
→2階建ての2SLDKトイレ付
→玄関は外から施錠可能
→召喚者はおそらく実力のある魔法使い
→魔法具を作る仕事をしていたと思われる
→おそらく住宅街にある
→周りも似たような建物が集中
・レンベック
→石造りで出来た建物が多い
→街は商業区や冒険者エリアなど機能ごとに区分けされている
→商業区は中々の活気
→治安については昼間については大きな危険は無さそう
→転送先の家にあった服装で、現地人との大きなギャップは無く溶け込めた
(ローブが魔法の品なので、そこだけ要注意)
・貨幣
→手持ちのコインが使用可能
→単価はディル
→銅貨が最小で1枚1ディル
→銅貨10→小銀貨10→大銀貨→金貨
→日常使いは銅貨と小銀貨
→最安の串焼きが3ディル、エールも3ディル、りんご1個1ディル
→ジャンル別の相対価値が不明だが、おおよそ1ディル=100円程度だと大きな違和感は無い
・衣食住
→衣料品は相対的に高価と思われる
→古着上下1着で100ディル
→食品は相対的に安いと思われる
→ウサギ串焼きが3ディル、エールも3ディル、りんご1個1ディル
→モンスターが食品として普通に流通している
→オーク肉の串焼きを確認
→オーク串5ディルに対して鳥串10ディルなので、庶民はモンスターの肉を常食している可能性が高い
→凝った料理は無さそう
→甘味は高額で種類も少ない
→調味料は塩メインで、香草や香辛料がアクセントに使われている
・冒険者ギルド
→あるらしい
→ランク分けされている
→ギルドカードは超ハイテク仕様
→登録すると自分の能力値も分かる
・知り合い
→3名と親しくなる
→エミリア
・串焼き屋の女主人
・20代後半(多分)、独身
・世話好きでお人好し
・気風の良いさばさばした性格
→ラルフ
・酒屋の主人(卸メイン)
・40代(多分)、独身
・エミリアの店のお隣さんで仲が良い
・こちらも世話好きでお人好し
→ベティーナ
・古着屋の主人。元貴族
・32歳、独身
・おそらくトランスジェンダー
(この世界にその概念は無く、長年呪いだと苦悩していた)
・衣服に関する超一流の目利き
・検討事項
→この拠点をどうするか
→収入をどうするか
→街の調査をどうするか
→ローブは滅多に見ない高級な魔法具なので、普段使いしない方が良い
→指輪や魔石もあまり人目に見せない方が良いと思われる
→召喚者は一流の魔法使いである可能性が高く、この家にも人が来る可能性が高い
→早めに拠点を移動する必要あり
「アップデート具合が半端じゃないわね……」
「わずか半日で情報量が多すぎるな……」
書き出した内容を眺めながら、2人で嘆息する。
「ただおかげで、短期目標クリアの目途は立って来たわね」
「うん。普通にしてれば差し迫る脅威は無さそうだし、職も最悪あの3人に頼めば生きてくくらいは難無く出来そうだ」
「そうなると、当面はこの街を拠点にするってことで良いのね?」
「これからよっぽどの事があれば別だけどね」
「じゃあ次は、直近の課題をどうするか決めましょうか。服が手に入ったから、明日は私も街に出たいんだけど、一人がここに残るって相当不便よね」
「そうなんだよなぁ。危険もなく馴染めることが分かったし、あのじーさんが思ったより凄い人っぽい。そのうちじーさんの知り合いと鉢合わせる可能性が高いから、ここからは早めに出る方向で良いと思うよ。少なくとも地下室に戻る必要性は薄まったから、今晩1日地下で寝て、起きたら荷物を上に全部運び出そうか」
「それが良さそうね。じゃあ明日は二人で出かけるってことで」
「ああ。で、まずは宿を探そう。荷物も出来るだけ持って行きたいけど量があるから、何度かに分けて運ぶしかないな」
「持ってく物の取捨選択が必要ね。まぁ完全に戻って来れなくなる訳じゃないから、価値のある物からって感じね」
「そうだな。金銭的な価値もだけど、例えばあの水瓶みたいな替えが利かないヤツは価値が高いし、読める本なんかは、金銭的価値が高くても必要性は薄いから、置いてく判断だろうね」
「じゃあ明日はまず宿屋を見つけて、そのあと引越しね。その後はどうする? 街ブラ??」
「街ブラも魅力的だけど、宿を見つけた後はまず冒険者ギルドで登録したいかな。自分のステータスが分かると何かと便利そうだし。身分証にもなるから、ホントは最初に行っても良いんだけど、あまり金目の物を持って行きたくないんだよね。あと、多分朝一の冒険者ギルドって混んでそうだからさぁ……」
「まぁ何となくガラが悪いイメージはあるわね。お約束の展開があるかもしれないし、確かに金目の物は持ってない方が良さそうね。分かったわ。じゃあ宿屋探してから冒険者ギルド登録して引越しね。宿屋も朝はバタついてそうだから、遅めの午前かしらね?」
「正確な時間は分からないけど、早めに起きて地下から荷物出したり、持ってく物を選別しながら外の様子確認すればいっか。よし、そうと決まればさっさと寝るかい?あ、地下だと明るさが全く分からないから、俺は上で寝ようと思ってるけど大丈夫?」
「ええ、問題無いわ。私も少し荷物整理したら寝るわね」
「はいはい。俺も、上の作業部屋の仕分けでもしてから寝る。何かあったら蓋開けて呼んで頂戴」
「あまり遅くならないようにね。それじゃあ、また明日」
「ああ、文乃さんも程々にね。おやすみ」
そう言って太一はキャンプ道具のLEDランタンを持って2階へ上がった。
寝室へ向かうとベッドに転がり天井を見つめる。
「さて、ギルドで二人同時に神の加護が発覚した場合にどうなるかが、明日の最大のポイントだな……。ベティの話だと、加護持ち以外は知らないことっぽいから、空いてる時間ならよっぽど大丈夫だと思うが……。それに、女神さんが言ってたってだけで、加護があると決まった訳じゃないしな。ま、今から考えても無駄だな。とっとと寝て明日に備えるか」
ランタンを消してシーツに潜り込むと、程なくして寝息が聞こえてきた。
こうして、太一と文乃がレンベックで迎えた1日目の夜が更けていった。
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