第34話 ホットケーキにホイップクリーム
パムが圭人、セレナ、巴に自分の作ったホットケーキを分けてくれる。
一口に切ったホットケーキをフォークに刺し、三人に差し出す。圭人たちは順番にパムからホットケーキをもらう。
そして最後の一切れをパムが美味しそうに完食する。
「パム、皆の分を焼こうか」
「うん!」
圭人は元気に返事をしたパムと一緒にホットケーキを焼く。
袋全てのホットケーキを焼いて、リビングへと運ぶ。
「琥珀様、お待たせしました」
「おお! できたか!」
リビングでは琥珀が待っていた。
「今日はパムとホットケーキを焼きました」
「パムと?」
「はい。ほとんどをパムが作っていますよ」
琥珀がパムを撫でる。
「パムが作ったのか、すごいのう」
琥珀とパムの年齢差はすごいのだが、身長の差がそこまでないからか不思議な光景。琥珀の方が大きい分、姉が妹を撫でているようにも見える。
パムは褒められた上に、撫でられて照れた様子。
撫でられているパムに優しい視線を送っているのはジェイド。
「ジェイド様もいらっしゃっていたのですか」
「お邪魔している」
ジェイドは圭人が買い物から帰ってきた時にはいなかったので、料理している間にやってきたようだ。
「料理の匂いを嗅ぎつけてきたようなのじゃ」
「勘が働いた」
クルガルの神であるジェイドはリビングテーブルの椅子に座っている。
ジェイドは猪の顔で、2メートル30センチの身長に、筋肉で盛り上がった体。
普通の椅子が小さく見えてしまう。
「圭人、ジェイドの分はあるかの?」
「ええ、足りなければ追加で焼きますので安心してください」
ホットケーキミックスは余分にもう一袋買ってある。それでも足りないようなら、小麦粉からホットケーキを作ればいい。
ホイップクリームも山のようにあり、足りないことはないだろう。
……多分。
「よし、それでは食べるのじゃ!」
圭人は山になっているホットケーキを一枚皿に取り分ける。
「お好みでホイップクリーム、ラズベリー、ブルーベリー、ジャムを乗せてください」
「楽しそうじゃのう」
琥珀は取り分けられたホットケーキを見る。
焦げた様子もなくきつね色のきれいな色目のついたホットケーキはとても美味しそう。
「上手に焼けておるのじゃ」
琥珀はパムを再び褒めたあと、一口だけホットケーキだけで食べてみる。
しっとりふわふわで上手に焼けている。
「パム、美味しいぞ」
「ありがとう!」
パムは元気にお礼を言いつつも少し照れているのか頬を赤く染めている。
「琥珀様、ホイップクリームをいっぱい付けるととっても美味しいよ」
「ほほう。試してみるかのう」
琥珀はパムのホットケーキにたっぷりの少し赤いホイップクリームを乗せる。
彩にラズベリーとブルーベリー、そしてジャムを乗せて飾り付けていくと立派なケーキが出来上がった。
「妾のセンスもなかなかじゃな」
琥珀はナイフとフォークを使い、クリームたっぷりのホットケーキを一口に切り取る。口に近づけるとまだ暖かいホットケーキでホイップクリームが溶け、たらりとクリームが落ちていく。
急がないとクリームが減ってしまう、琥珀は慌ててホットケーキを口の中に入れる。
一口に切ったつもりが、口の中がいっぱいになってしまう。
口の中だけではなく、口の周りにもクリームが付いているのを琥珀は感じる。クリームを乗せすぎたせいか、一口を見誤ってしまった。
しかし、口の中がいっぱいであろうと、口の周りにクリームが付いていようと、ホットケーキが美味しいのはわかる。
ホットケーキは先ほどと変わらずしっとりふわふわで上手に焼けている。
ナッツのような味がするのはホットケーキに隠し味を入れたのかと最初は思ったが、先ほど食べた時ホットケーキからナッツの味はしなかった。
大量にのせたホイップクリームからナッツのような味がしている気がする。
味を確認していると口の中からなくなってしまった。
琥珀はもう一度味を確認するため、ナイフとフォークでホットケーキを切る。
たっぷりのホイップクリームが乗ったホットケーキを口の中に入れる。
先ほどは味を確認している間になくなってしまったが、やはりホイップクリームからナッツのような味がしている。
「う、うまいのじゃ!」
「琥珀様、口の周りについていますよ」
琥珀は巴に口の周りを拭かれる。
口元を拭かれていることなど気にしないで琥珀は圭人に尋ねる。
「このホイップクリームはなんじゃ!?」
「ナッツエレファントの生クリームから作ったホイップクリームです」
「ナッツエレファントのホイップクリームがこんなに美味しいとは知らなかったのじゃ」
ナッツエレファントは温厚な性格であるが、子供がいる状態では気性が荒く、ミルクを絞るのがとても大変だと琥珀は聞いたことがある。
「琥珀様もナッツエレファントのホイップクリームを食べたことがないんですか?」
「傷みの早いホイップクリームは食べた記憶がないのう」
琥珀がジェイドに尋ねると、同じようにホイップクリームは食べた記憶がないという。
「生クリームを食べた記憶はないが、保存の効くチーズは食べたことがあるぞ」
「チーズも少しもらってきましたよ」
「ほう。そちらも楽しみじゃ」
琥珀は圭人の話を聞きながらも、ホットケーキを食べる手が止まらない。
甘酸っぱいベリーが大量のホイップクリームを酸味で和らげ、どれだけでも食べられてしまう。
ナッツエレファントのホイップクリームがこんなに美味しいのであれば、飼育している牧場まで行って食べておくべきだったかと琥珀は後悔する。おそらく生クリームは傷みの早さから生産者くらいしか食べられていない食材。
今は後悔よりも美味しいホットケーキとホイップクリームを頬張る。
「おかわり!」
「どうぞ」
琥珀が圭人に皿を差し出すと、すぐにホットケーキが追加される。
ナッツエレファントのホイップクリームを乗せて、再び頬張る。
二枚目のホットケーキをぺろりと食べてしまう。
「おかわりなのじゃ!」
「え、三枚目ですか?」
「まだいけるのじゃ」
「ホットケーキが足りなさそうですね……追加で焼いてきます。焼いている間はキャラメルを食べていてください」
圭人が差し出してきたのは宝石のような赤いキャラメル。
「飴のように見えるのじゃ。キャラメルなのか?」
「ナッツエレファントの生クリームとバターで作ったキャラメルです」
「なんと!」
琥珀は早速キャラメルを口の中に入れる。
濃厚なナッツの味にミルキーな味。
ホイップクリームより濃いミルクの味に琥珀の頬が緩む。
琥珀は再びナッツエレファントの牧場に行かなかったことを後悔する。
圭人はパムと一緒に追加でホットケーキとホイップクリームを作り、リビングに戻ってくる。
追加分のホットケーキとホイップクリームもすごい勢いで消費されていく。
脂質の取り過ぎで気持ち悪くならないかと心配になる程。
圭人が追加でホットケーキを作っている間に、巴の両親と兄がリビングに増えた。三人は今まで道場で体を動かしていたからか、追加で焼いてきたホットケーキをすごい勢いで食べ始めた。
三人が道場からリビングに来たということは、夕方まである午後の部が終わったということ。買い物であったり料理をしている間に夕方を回ってしまったようだ。
おやつというより晩ごはんになってしまった。
「晩ごはんどうしようか」
「軽いものでいいんじゃない?」
圭人の呟きに反応したのは巴。
軽いものでいいと言いながら、まだホットケーキを食べている。
「まだ食べられる?」
「たぶん……少しなら?」
さすがに巴も食べられるか疑問のようで、迷った返事を圭人にする。
「とりあえず、食べてから考えるか」
「そうしましょ」
圭人も美味しいホットケーキを頬張る。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます