第32話 キャラメルとジャム作り

 圭人は製氷機から氷を取り出しボールに入れる。

 氷の入ったボールに小さなボールを重ねると、金属製のボールはすぐに冷たくなる。ボールを鍋の近くに置いて、鍋から溶けたキャラメルをスプーンで取り出し、冷えたボールの中に流し入れる。

 ナッツエレファントの生クリームから作ったキャラメルは冷えて固まっていく。

 キャラメルが固まったところでボールから取り出し、四等分に切り分ける。


「味見しよう」

「パムも?」

「もちろん」


 パムだけではなく巴とセレナにも冷ましたキャラメルを差し出す。


「美味しい!」


 パムが満面の笑みを浮かべる。


「ナッツミルクが濃くなったようで美味しいですわ」


 セレナがカピバラの時と似たようにクルクルと回り始める。

 パムも釣られて一緒に踊り始めた。

 圭人は近くにあったら危なそうなものを遠ざけておく。


「ナッツ入りのキャラメルともまた違う味がして美味しい」


 巴は笑顔で頬を抑えながら、セレナとパムを見ている。

 巴の場合は美味しいよりもセレナとパムが可愛いと思っていそうだ。


 巴はともかく、パム、セレナの評価は高い。

 三人の様子を見ていた圭人も試食してみる。


 ナッツエレファントのキャラメルは、調理中と同じように赤みの強いオレンジ色で、磨かれた宝石のような艶がある。高級感のある色合いで、目で見るだけでも楽しめる。

 圭人は見た目を観察したあと、キャラメルを口の中に入れる。


 口に入れただけでミルクの香りと、香ばしいナッツの匂いが一気に広がる。

 すぐに体温で溶け始めたキャラメルは、甘さと共にミルキーな味と濃厚なナッツの味がする。

 セレナが言ったようにナッツミルクが濃くなったような味。

 同時に巴が言ったようにナッツ入りのキャラメルとも違う味がする。


 圭人は胡桃やアーモンドなどを入れたキャラメルを作ったことがあるが、今食べているナッツエレファントの生クリームとバターで作ったキャラメルは別物。

 近いと思えるのはモンブランに使うような栗のペースト。もしくはナッツのペーストに生クリームを加えたような味がする。


 ナッツエレファントのキャラメルは今のままでも十分に美味しいが、アレンジしても映えそうな味をしている。簡単に思いつくものだと、ラムなどリキュールを入れて大人向けのキャラメルを作っても美味しそうに思える。

 あとはチョコレートの中にキャラメルを入れても面白いかもしれない。チョコレートにも負けないキャラメルの味がありそうだ。

 圭人はアレンジを色々と思いつき考え込んでしまう。


「圭人お兄ちゃん?」


 パムの呼びかけで圭人は考え込んでいたことに気づく。

 いつの間にかセレナとパムの踊りは終わっており、セレナが顔を両手で隠している。感情が振り切れるとセレナは踊りだし、落ち着くと恥ずかしそうにするのは人の姿でも変わらないようだ。

 圭人とセレナは短い付き合いだが、恒例になりつつあるセレナの行動に慣れてきた。


「パム、キャラメル想像以上に美味しいね」

「とっても美味しかった」


 パムは髪の毛が大きく動くほど深く頷く。


「よし。キャラメルの硬さも良さそうだし、冷ましてしまおうか」


 想像を超える美味しさであったが、圭人は硬さもしっかりと確認していた。

 圭人は乳脂肪分の問題で硬さの調整が必要になるかと思っていたが、予想に反して硬さと味が一度で成功した。

 キャラメルが冷めて固まる前に、バットにクッキングシートを敷いて、鍋からキャラメルを移していく。

 あとは冷やして固まるのを待つだけ。


「ナッツエレファント以外のキャラメルも作ろうか」

「うん!」


 他のミルクでもキャラメルを作る。

 ミルクと砂糖が揮発して、キッチンに甘い香りが広がる。

 圭人は三種類ほどキャラメルを量産したところで、砂糖をまぶしておいたラズベリーとブルーベリーから水分が随分と出ていることに気づく。


「ベリーからいい感じに水分が出ている。ジャムを作る前に瓶を煮沸消毒しておこう」


 圭人は瓶を沸騰したお湯に入れ殺菌する。


「瓶の準備ができたところで、ラズベリージャムから始めよう」


 水分の出ているラズベリーをボールから大きめの鍋に移していく。

 今回は香辛料を追加しない普通のラズベリージャムを作る。


「ジャムは煮込んでいくだけでそう難しくはないよ」

「そうなの?」

「うん、灰汁が浮いてきた場合は取り除くくらいかな」


 圭人はコンロの火をつけて砂糖が焦げないように混ぜ続ける。

 野生のラズベリーのためか灰汁が浮いてきたので取り除く。

 パムにもやらせてあげたいが、ラズベリーの量が多過ぎて混ぜるのが難しそうだ。


 徐々に水分が増えてきたところで残っていた砂糖を追加する。

 ラズベリーが煮たってくると酸味のある爽やかな香りが漂う。

 皆で味見する前に酸味が強すぎないか圭人一人で味見すると、やはり酸っぱすぎるようなので砂糖と水飴を追加しておく。

 全体にとろみがついてきたところで、火を止め、浮いている灰汁を再び取る。


「味見をどうぞ」


 圭人はジャムが熱いので注意するように言ってから、スプーンにラズベリージャムの形が残っている果肉を拾って皆に渡す。


「甘い!」


 パムはラズベリージャムを齧るように少し食べ、甘いと言ったあとは取り分けたジャム全てを食べている。

 ラズベリーが酸っぱかったため、最初は慎重に食べたのだろう。

 パムは口をすぼませることなく口角を上げながら口を動かしている。


 圭人も完成したジャムを味見する。

 ジャムだけ食べてもラズベリーの程よい酸味が効いていて美味しい。

 管理されていない野生のラズベリーゆえに酸味が強かったが、酸味が強いからこそジャムにするには適している。


 ラズベリーの種が気になる場合は裏漉しして種を取り除くこともあるが、今回はあえてそのままにする。

 温度が下がってジャムが固まらないうちに瓶へと移していく。

 すべてのジャムを瓶に入れたところで、蓋をして逆さまで熱をとる。熱が取れ冷めたらジャムは完成。


「次はブルーベリージャムを作ろう」


 ブルーベリージャムもラズベリージャムと基本的には似たような工程で調理していく。


「パム、レモンをしぼってみる?」

「やる!」


 ラズベリージャムとの違いはレモンを入れること。

 しぼり機に半分に切ったレモンを置いて、レモンの果汁をしぼる。


「圭人お兄ちゃん、レモン入れたら酸っぱくないの?」

「酸っぱくなるけど砂糖をいっぱい入れるから心配しないで」


 パムはレモンの果汁をじっと見ている。


「パム、ジャムはゼリーみたいになったり、とろみが付いていたりするでしょう?」

「うん」

「ゼリーみたいになるのは砂糖をいっぱい入れると起きるんだけど、ベリーはゼリーになりにくいんだ。ゼリーにするために砂糖をどんどん入れてしまうと、甘いだけのジャムになってしまう」

「甘いだけ」

「そう。そこにレモンを追加するとゼリーになりやすくなるんだ」


 ジャムを作る上でペクチンと呼ばれる成分がジャムをゼリー状に固めてくれる。砂糖を追加していくとペクチンは固まりやすいのだが、ペクチン自体を追加しても凝固しやすい。

 ペクチンが多い食材の中にレモンがあり、ジャム作りにはよく使われる。


「それに少し酸っぱい、ラズベリージャムはちょうど良かったと思わない?」

「美味しかった」


 パムが笑顔で頷く。


 ジャムにする場合、実はそのまま食べて美味しいような果実はジャムにするには甘すぎる。砂糖を追加して甘すぎる場合、レモンを入れて酸味を調整しつつ、ペクチンも同時に追加することでジャムにする。

 ペクチンを追加することで保存性も上がり、長期間の保存に耐えられるようになる。


「先ほどと同じように水分を出したブルーベリーにレモン果汁を追加して煮込んでいくよ」


 レモン果汁を追加した以外はラズベリージャムを作った時と同じ。

 焦げないようにブルーベリーを回し続け、とろみがついてきたところで味見。


「味見をどうぞ」

「甘くて美味しい!」


 パムの美味しいをもらえたところでブルーベリージャムは完成。

 瓶に詰め、蓋を閉めひっくり返して終わり。

 大量のジャムが入った瓶と、大量のキャラメルが机の上に並ぶ。

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