第31話 下ごしらえ
琥珀と別れた圭人たちは金尾家のキッチンに移動した。
まずは皆で手洗いうがいをして、手を拭く。
「最初は買ってきたものを片付けようか」
キッチンの机に買ってきた物を出していく。
魔道具の鞄から出てくるのは、大量の砂糖にホットケーキミックスと卵、そして夕食に使えそうな食材たち。
一部の食材は冷蔵庫にしまっていく。
ホーマーからもらってきた大量の乳製品も冷蔵庫に入っており、業務用の大きな冷蔵庫でなければ食材が溢れるほどの量が仕舞われている。
荷物を片付け終わったところで、料理を開始する。
「圭人、何から作る?」
「まずはジャムを作るためにラズベリーとブルーベリーを洗おうか」
圭人はパムが作業しやすいように台を準備する。
昔、圭人も使っていた台を机の近くに置く。
「圭人お兄ちゃん、ありがとう」
「どういたしまして」
圭人はパムの頭を撫でる。
パムが作業を見られるようになったところで、圭人は大きなボールを複数用意する。四つのボールのうち二つにラズベリーとブルーベリーを別々のボールに入れ、さらに二つのボールに水を入れる。
「ラズベリーとブルーベリーを選別していくよ。パムも手伝ってくれる?」
「手伝う!」
「色がついていなかったり、大きな虫食いがある食べられそうにないベリーは残念だけど捨ててしまう」
圭人はゴミを捨てられるようにビニール袋を広げる。
「ベリーを摘んだ時に葉っぱだとか混じっていると思うから、それもゴミに捨てる」
圭人が目についた葉っぱを拾ってビニール袋に捨てる。
パムが圭人を見て頷く。
「ヘタや軸が残っている場合は取って捨てる」
圭人はヘタや軸が残ったラズベリーを見せてから、実際に取り除いてみせる。
「果実だけになったベリーはそれぞれ分けて水を張ったボールに入れる。分かったかな?」
「分かった!」
「それじゃ始めよう」
ラズベリーとブルーベリーの数が多いため、巴とセレナにも手伝ってもらい、四人で食べられるラズベリーとブルーベリーを選別していく。
単純作業ではあるが、真剣に作業していると口数が少なくなる。
ベリーの甘酸っぱい匂いに包まれながら四人は作業を続ける。
四人で作業したからか、ベリーの選別はすぐに終わる。
作業速度は圭人が一番早かったが、他の皆が遅かったわけではなく、圭人が作業に慣れていて早かっただけ。
圭人は水の中にあるベリーをかき混ぜてヘタや軸が残っていないか確認する。
水の中に浮いたラズベリーとブルーベリーは採れたてなこともあって、とても美味しそうに見える。
「最後に土埃などの手では取れないゴミを水で洗ってきれいにするよ」
圭人はパムに手伝ってもらいながら何度か水を入れ替え、ある程度ゴミが取れたらザルにあげて水を切る。
水を切った状態のラズベリーとブルーベリーをボールに戻し、重量を測る。
「今回ジャムに入れる砂糖の量はラズベリーとブルーベリーの半分」
圭人は別のボールに砂糖を山のように出していく。
「お砂糖いっぱい」
「砂糖を多く入れるほど長期間の保存に適しているけど、当然砂糖を入れるほど甘くなるから、作ってすぐに食べ切ってしまうのであれば砂糖の量を減らしてしまってもいいよ」
「お砂糖減らしても酸っぱくない?」
「むしろ酸っぱいラズベリーに関しては砂糖を増やすかも」
パムはラズベリーが酸っぱかったことを思い出したのか口をすぼめる。
圭人は口をすぼめたパムの頭を撫でる。
「ラズベリーのジャムも甘くするから安心して」
「甘くなるの?」
「もちろん」
パムにはラズベリーが酸っぱすぎたようだ。
圭人はラズベリーとブルーベリーの砂糖をそれぞれ測っていく。
「パム、お砂糖をラズベリーとブルーベリーにかけるの手伝ってくれる?」
「うん!」
パムと一緒に計量した半量の砂糖をラズベリーとブルーベリーにかけ、軽く混ぜ合わせる。
「ジャムを作るときは、こうしてベリーの中から水分を取り出すんだよ」
パムが圭人の言葉を聞いて頷いている。
砂糖をかけることによって、果実の中から砂糖の浸透圧で水分を放出させる。
水分を放出させずに砂糖と果実だけで火にかけると、水分がないために砂糖が焦げてしまいジャムの味が悪くなる。
「ベリーは砂糖にまぶした状態で一時間くらい置いておく」
水分を出す時間は果実や人によって違う。砂糖をまぶして1日おくような場合もある。
また今回は水分を出すために時間を置くか、砂糖で水分を出さずにとろ火で果実を潰しながら水分を出したり、フードプロセッサーやすりおろし金で水分を直接取り出す方法もある。
ラズベリーの場合はフードプロセッサーでピューレ状にしてジャムにする方法もあるが、今回はフードプロセッサーを使わず、果肉が残ったジャムを作る。
「ベリーから水分が出るのを待っている間にキャラメルを作ろうか」
「キャラメル!」
圭人がキャラメルというとパムが反応する。
圭人と仲良くなったきっかけがキャラメルだったからか、パムはキャラメルが好きになったようだ。
圭人はホーマーからもらったバターと生クリームを冷蔵庫から取り出す。
魔道具の鞄には大量のものが入るため、かなりの量を渡されている。キャラメルを作る以外にも、色々と作れそうだ。今から料理を試作するのが楽しみで仕方がない。
しかし、今は注文されたキャラメル作りを優先する。
「通常のキャラメルはバター1に対して砂糖2、生クリーム3の割合が多いんだ。だけど俺が作るキャラメルは砂糖と生クリームを増量して、柔らかい食感を作り出している」
バター、生クリーム、砂糖。そして水飴を用意する。
圭人が最初に作るのはナッツエレファントの生クリームとバターを使ったキャラメル。初めての材料でキャラメルを作るため、いつも通りのキャラメルになるかは未知数。
「初めての食材なので失敗するかも」
「圭人お兄ちゃんでも失敗するの?」
「もちろん。失敗を繰り返して美味しい料理を作っているんだよ」
失敗しても圭人は料理を長く続けているため、リカバリーする能力でどうにか食べられるものにはなる。
今回もキャラメルが硬くなり過ぎた場合は生クリームを追加、逆に柔らかすぎる場合は水分を飛ばすことで対応する。ナッツエレファントの生クリームと、日本の生クリームとは乳脂肪分が違うため、失敗する可能性が高い。
砂糖と水飴、そしてナッツエレファントのうっすらと赤いバターと生クリームを計量する。
計量したすべての材料を鍋に移し、火にかける。
材料が煮たってくるとバターが溶け、ミルクの匂い、ナッツのような香ばしい匂い、砂糖の甘い匂いがキッチンに広がる。とても食欲をそそる甘くて美味しそうな匂い。
「いい香り!」
美味しそうな香りにパムが喜ぶ。
圭人は一瞬パムに笑いかける。
笑いかけていても圭人の手元は常に動き続け、鍋が焦げ付かないように混ぜ続けている。
圭人にはナッツエレファントのバターと生クリームが焦げやすいようには感じないが、未知の食材ゆえに、急にどのような反応が起きるかわからない。調理中は舌以外の五感を使い、食材の変化を感じ取る。
キャラメルの温度をあげ過ぎないように、火の調整を続ける。
元が少し赤いナッツエレファントの生クリームを加熱していくと色が変改していく。普通のキャラメルは黄色と赤が混じったような色合いだが、ナッツエレファントのキャラメルは赤が強い。
ナッツエレファントのチーズほど赤い発色にはならないが、赤みの強いオレンジのような色になる。
圭人は手の感覚からキャラメルの硬さが良さそうだと判断する。
一度火を止め、鍋をコンロから外す。
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