第29話 日本での買い物

 圭人がクルガルの言葉がわかる理由は分かった。

 しかし、わからないことがまだある。


「琥珀様、セレナとパムが日本語で話せるのはなぜですか?」

「それもまた妾の加護じゃな」

「俺と同じ理由なのですか」

「うむ。他の神から与えられている加護も関係あるじゃろが、日本関係の効果は妾が一番じゃろな」


 問題なく日本語を話せることがわかれば問題ない。

 圭人と琥珀はセレナとパムの偽装した身分を考える。

 巴の従姉妹という形が一番よく、少し離れた場所に住んでいることにした。近隣だと金尾稲荷の周辺は田舎であるため、目立つ見た目のセレナとパムではすぐに嘘が発覚してしまう。


「東京あたりから来たが無難じゃの」

「俺と巴が卒業した大学が東京なので、そちらに住んでいる親戚にしますか」

「良いと思うぞ」


 見つからないのが一番であるが、偽装した身分は考えた。


「セレナ、パム。着られそうな服を見つけてきたから試着してみて」


 話をしていると服を抱えた巴が戻ってきた。

 すぐに巴はセレナとパムを連れて他の部屋へと移動していく。


「巴が持っていた服、妾に着るようにと言っていた服じゃったな」

「やはり琥珀様も巴のコーディネートした服を着ているんですね。俺も巴が選んだ服を着てます」

「圭人もじゃったか」


 琥珀は前回狩衣のような衣装だったが、今回はチェックのワンピースにブレザーのような上着を着ている。巴が選んだだけあって、琥珀によく似合っている。

 圭人は黒いズボンに白いシャツ。その上に秋物の上着を羽織っている。今日の圭人はクルガルに行くかもしれないとおしゃれより、動きやすさを重視したコーディネート。


「しかし、時間がかかりそうなのじゃ」

「そうですね」


 巴は大量の服を持っていた、すぐには決まらないだろう。

 圭人と琥珀はのんびり待つことにする。


「お待たせ」


 巴が戻ってきた。

 一時間はかかっていないが、30分程度は立っているのではないだろうか。


 セレナはドレス姿から、スカートにも見える裾の大きな千鳥柄のパンツ。上半身は白いシャツにスカジャン。キャップを被って可愛らしい雰囲気とかっこいいが同居している。

 可愛らしい雰囲気のセレナにスカジャンは意外に思えるが、スカジャンに書かれている柄は可愛らしいデフォルメされたカピバラ。カピバラ姿を知っている圭人からするとセレナによく似合っている。


 パムはワンピースのような服から、白いパンツに千鳥柄のケープコートを羽織っている。モノトーンで服が揃えられたことで、黄色いモンブランのような金髪がよくはえている。

 妖精のような雰囲気を感じる可愛らしさ。


 セレナとパムは現代日本の服に着替えたことで、外に出ても浮くような服装ではなくなった。

 しかし、可愛すぎるという理由で目立つかもしれないと圭人は考える。


「二人ともよく似合っている」

「ありがとう!」

「ありがとうございます」


 圭人は金尾稲荷がある地域は田舎であるため、多少目立っても問題は起きないだろう、と思うことにする。


「巴、千鳥柄で揃えたのか?」

「うん。体型に合う服が少なかったから選択肢があまりなかったのもあるけれど」

「むしろ似合う服があった方が驚きかも」

「パンツは丁度良いサイズがあったの。上着はオーバーサイズでも着られる服を選んでる」


 上着は少し大きくても肩が落ちる程度で着られないことはないと、圭人は納得する。


「では琥珀様、いってきます」

「気をつけるのじゃ」

「はい」


 金尾稲荷から金尾家が住む家を通り、玄関へと移動する。

 外に出る時に現代の靴がないことに気づく。

 流石に靴まではサイズが用意されていない。


「今回はクルガルの靴にしておきましょ。靴だけならそこまで違和感ないから」


 巴が諦めた。


「分かりましたわ」

「というか、セレナって靴履いてたのね」

「普段は履いていませんわ。鞄の中に入れてありますの」

「カピバラの時は履いてなかったのね」


 靴を履いたら金尾家から外に出る。


「窓から外は見ていましたが、実際に出れるとおもていませんでしたの。楽しみですわ」

「うん! 楽しみ!」


 パムが飛び跳ねて喜んでいる。

 今はない尻尾の代わりにケープコートがふわりと舞う。


「圭人の車で行きましょ」


 圭人たちは玄関から、家の裏に止めてある車の元に向かう。

 昨日は職場から金尾稲荷に直行したので、圭人の白いSUVが駐車されている。

 圭人は荷物を乗せることが多いため、大きめの車を選んだ。圭人は高校、大学と料理人として働いていたため、幸いなことにお金に余裕がある。

 圭人が車の鍵を開け、ドアを開ける。


「セレナさん、パムどうぞ」


 圭人は二人を後部座席に乗せ、巴は助手席、圭人は運転席に座る。

 圭人がハンドルを握り車が発進する。


「早いですわ」


 セレナの引くキャリッジも早かったが、車はそれ以上に早い。

 もっとも、圭人はそこまで車を飛ばすつもりもないのだが。

 田舎の道を走り、幹線道路に出て近くのスーパーに向かう。


「すごい」


 圭人が信号待ちで後ろを確認すると、パムが窓から外を見ている。反対側の席に座っているセレナも確認すると、同じように外を眺めている。

 圭人は助手席に座る巴と顔を見合わせて笑う。


 金尾稲荷から比較的近いスーパーの駐車場に車を停める。

 割と大きなスーパーで品揃えがいい。


「さ、行こうか」

「楽しみですの」


 セレナとパムにドアの開け方を教えると、二人は楽しそうに車のドアを開ける。

 圭人が開けてもいいが、体験した方が楽しいだろうと考えた。

 車から降りてスーパーに向かう。


 スーパーの店員からチラチラと見られるが、声をかけてくることはない。

 比較的近くにあるスーパーのため、圭人と巴の知り合いが勤めているのだが、セレナとパムの外国人風の顔と髪に気後れしているのだろう。

 そのうち興味が勝って声をかけてきそうだ。


「声をかけられる前に砂糖を買おう」

「そうね」


 圭人はカゴとカートを取る。

 パムとセレナがカートに興味をひいたようなので、二人にカートを引かせて、砂糖が売っている棚に向かう。

 上白糖を多めにして、他の砂糖も色々とカゴに入れる。

 ジャムのために大きな水飴も追加。


「こんなものかな」

「すごい量の砂糖ね」

「ジャムとキャラメルどっちも砂糖の塊だからな」


 お菓子を自作すると砂糖の量に驚く。

 砂糖の量に怯んで少なくしすぎると甘くないお菓子が出来上がる。もし砂糖を少なくしたいのであれば、ハチミツや人工甘味料などを使い、甘さを調整すべき。


「砂糖の次はジャムのためにレモン」


 売り場を移動してレモンをカゴの中に入れる。


「後はジャムをつけて食べる……昼食というよりおやつがいるかな?」

「おやつ……」


 巴がお腹をさする。


「昼ごはん食べていないから結構食べられそう」


 圭人は何を作るべきかと悩みながら、巴、セレナ、パムが喜びそうな食べ物を考える。

 ジャムに合う食べ物……・


「圭人お兄ちゃん、パムも何か作ってみたい」

「パムが?」

「うん」


 子供でも簡単に作れるもの。

 ジャムやキャラメルも圭人と一緒であれば作れはするだろうが、どうせならもう少し華やかにしたい。


「ホットケーキでも焼こうか。パムでも焼けると思う」


 圭人も料理を教わり始めた頃にホットケーキは練習で焼いている。

 膨らんでいく様が楽しかったのを覚えている。

 それにホットケーキならジャムを乗せたり、生クリームを泡立ててジャムと飾りつければ映える。


「ホットケーキ、いいわね」


 巴も賛成してくれたため、カゴの中にホットケーキミックスを入れる。

 今回はパムが一人でも作れるように、市販のホットケーキミックスを使う。

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