第28話 変身
大量の乳製品をセレナの鞄に入れさせてもらう。
セレナの鞄は魔道具で、容量以上に入るため大量の荷物を収納できる。
「また遊びにおいで」
「はい、ぜひまたお邪魔させてください。今日はありがとうございました」
巴とパムも頭を下げてホーマーにお礼をいう。
圭人たちはセレナの引くキャリッジに乗ってホーマーの牧場を去る。
「セレナさん、ホーマーさんを紹介していただいてありがとうございます」
「いえいえ。圭人さんと気が合いそうだと思いましたのよ」
「ええ、とても楽しめました。正直俺だけ楽しんでいたのかと心配ではあります」
圭人は自分が一番楽しんでいた自覚がある。
未知の生き物に触れ、未知の食材に触れるのはとても刺激的だった。
「パムも楽しかった。ナッツエレファント大きかったの」
「あたしも楽しかったわよ。サラマンダーは変な生き物だったわ」
パムと巴も楽しんでいたようだ。
「楽しめていたようで良かった。帰ったらジャムとキャラメルを作ろうか」
「うん!」
朝方から牧場見学をしたため、今は昼を少し過ぎた程度。金尾稲荷に帰ってから色々作るだけの時間は十分にある。
昼食はホーマーの試食でお腹が膨れているため、おやつに何か食べるのが良さそうだと圭人は考える。
「ではこのままジェイド神殿へ参りますわ」
「お願いします」
セレナが引くキャリッジは坂を降ってトラウトポートへ向かう。
銅鏡を抜け金尾稲荷へと帰還する。
「ん? お主ら帰ってきたところか?」
銅鏡の近くにいたのは琥珀。
巴と同じようなハチミツ色の金髪に狐の耳と尻尾。今は幼女の姿をしている。
「朝からトラウトポートに行って、今帰ってきました」
「どこに行っておったんじゃ?」
「今日は牧場見学です」
「ほう。面白そうじゃな」
「楽しかったですよ。お土産に乳製品を色々ともらったので、作った料理を持っていきますね」
「それは楽しみじゃ」
金尾稲荷の神である琥珀は笑顔で尻尾を振って上機嫌。
圭人たちは琥珀と別れてキッチンへと向かう。
「ジャムにキャラメルを作るとなると大量の砂糖がいるな。そんなに砂糖あったかな?」
金尾稲荷は大きな祭事が色々とあるため、保存のきくものは倉庫にしまってあるが、流石に業者が使うような量の砂糖はなさそう。
圭人はキッチンの近くにある倉庫に移動して、砂糖の在庫を見るが流石に大量の砂糖は存在しなかった。
「巴、砂糖を買ってこないとダメそうだ」
「あたしが買ってこようか?」
「うーん、そうだな……」
砂糖はかなりの量が必要で、女性の巴にお願いするのはどうなのかと圭人は迷う。それに買い出しに行くのなら砂糖の種類も色々と欲しい。
圭人が自分で買い出しに行くべきではないだろうか。
「パム、買いに行ってみたい」
パムの発言に圭人と巴が顔を見合わせる。
圭人としては買い物に連れていきたいが、獣人であるパムはあまりにも目立つ。
「圭人、琥珀様に相談してみましょ」
「琥珀様ならどうにかできるのかな?」
「あたしもわからない」
圭人は過度に期待しないようパムに伝えることにする。
「パム、琥珀様が無理って言った場合はごめんね」
「うん」
圭人としてはパムを悲しませたくはない。
どうにかならないかと祈りながら琥珀の元に向かう。
琥珀は先ほどと変わらず祭壇の前で何かをしている。
「琥珀様」
「圭人、もう料理ができたのか?」
「いえ、実は砂糖が足りずに買い物に行くのですが、パムやセレナさんを連れ出せませんか?」
「ふむ」
琥珀は手を顎に添えた。
「セレナは自力でどうにかなるじゃろ?」
「え? カピバラのまま連れ出すということですか?」
「いや?」
圭人と琥珀はお互いに首を傾げて見つめ合う。
「……もしや知らぬのか?」
「何をですか?」
「セレナが人の姿になれることじゃ」
「え?」
圭人はセレナを見る。
今は完全にカピバラの姿で、人になれるとは思えない。
「あら? 私、姿を変えられると言ってませんでしたか?」
セレナの様子からして、知っていて当然の常識のようだ。
圭人は地球とクルガルで常識の違いが出たのだと理解した。
「はい、セレナさんはカピバラの姿しか見たことがありません」
「そうでしたか。この姿はアンバー様を真似ているだけでしてよ」
アンバーというのは琥珀のこと。
琥珀は幼女の姿を取っているが、牛以上に大きな狐にもなれる。
「妾はクルガルに滞在している時は狐の姿じゃからの」
「アンバーテイルの魔法使いはアンバー様を真似て動物の姿でいるのですわ。姿を変えますわ」
セレナが目を瞑る。
カピバラの姿が人の姿へと変わっていく。
ミルクティーのような波だった長い髪を持ち、頭部には丸い耳がついている。まつ毛の長いアーモンドのような大きな瞳。小顔の可愛らしい女性。
かっこいい巴と系統は違うが、美人なのは間違いがない。
「セレナ、かわいい!」
「あら、ありがとうございます」
巴がセレナに抱きつく。
セレナの身長は巴より30センチ近く低そうに見える。
「ドレスもよく似合っている」
「ありがとうございます。特注ですのよ」
「体の大きさに合わせて変わるのね」
「私のように姿を変える場合、必要な服ですの」
淡い黄色のドレスとローブがセレナによく似合っている。
セレナが巴の腕の中から抜け出す。
「巴、あとは耳を変えれば問題ないでしょうか?」
「服が似合っているのだけれど、そのままだと目立つかな」
「服を変えるのは難しいですわ」
「んー……良さそうな服がないか見てくる」
巴がすぐに部屋を出て行こうとしたので、圭人は声をかける。
「巴、パムの服も探してみてくれないか」
パムは誤魔化せる範囲の服ではあるが、変えておいた方が無難。
「分かった」
セレナやパムには巴が来ている服は大きすぎるが、金尾家には色々なサイズの服が置いてある。道場の着替え用だったり、巴のモデル仕事でもらったものなど色々。
セレナとパムに似合う服があるかはわからないが、着る分には何かあるだろう。
「巴が服を探している間に、セレナとパムの耳をどうにかするのじゃ」
「琥珀様、どうにかできるんですか?」
「妾に任せておくのじゃ」
琥珀が軽く「ほい」と声をあげと、セレナとパムの耳が動物の耳から人間の耳に変わる。パムに関しては尻尾まで消えている。
「こんなものじゃろ」
「おーすごい」
「そうじゃろ、そうじゃろ」
琥珀が胸を張って得意げな表情を浮かべている。
圭人には琥珀がどう変えたのかも見当がつかないため、琥珀に拍手を送る。
「アンバー様、ありがとうございます」
「ありがとうございます」
セレナとパムが琥珀にお礼を言う。
「ところで琥珀様、今更ですが金尾稲荷から出ても良いのですか?」
「姿を変えたので何の問題はないと言いたいところじゃが、問題があるとすれば戸籍の問題じゃな」
「警察にパスポートを見せろと言われると困りますか」
「パスポートは日本人だと通せばよい」
「日本人で通すのは無理がありませんか?」
人の姿にはなったが、セレナとパムはどう頑張ってもアジア人には見えない。
旅行中の西洋人といった風貌。
「セレナとパムは巴の従姉妹とでもいえば良いじゃろ。日本語も普通に話せるから誤魔化せると思うのじゃ」
琥珀が日本語で話せると言ったことで、圭人は日本語で喋ってセレナとパムに伝わっていることに今更気づく。
「琥珀様、今更ですがなぜ、クルガルで日本語が通じているんですか?」
「正確にはクルガルの人は日本語を喋っておらん。圭人は妾の加護により、クルガルの言葉がそれっぽく翻訳されておるのじゃ」
「それっぽく」
「うむ。近い言葉がない場合もあるが、問題のない範囲にはなっているはずじゃ」
圭人は琥珀の言い方に不安になるが、言葉が通じているので問題ないと思うことにする。
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