第26話 ベリー採取

 ホーマーが圭人たちのお礼に笑顔で頷く。


「私も楽しかったよ」


 続けてホーマーは池に流れ込んでいる小川を指差す。


「この川をたどるとベリーを見つけやすい。ベリーは自然に生えてきたものなので、好きにとって構わないよ」

「分かりました」

「私は家に戻って仕事しながら待っていよう」

「牧場を案内していただき、ありがとうございました」

「なんの、なんの。ではまた後で」


 ホーマーは来た道を戻っていく。

 圭人たちは池から小川をたどって少し傾斜のある牧場を歩く。

 放牧地の周囲には木がまばらに生えている。


「ラズベリーですね」


 少し歩いただけですぐにベリーを見つける。

 生えていたのは地球でも売っているラズベリー。


「いっぱいある!」


 パムが声をあげると駆け出し、低木になっているラズベリーを採取する。

 真っ赤なラズベリーが一本の木でかなりの数なっている。


「いっぱいありますね。ホーマーさんは取らないのでしょうか?」

「ここは牧場の奥ですから、もっと手前でベリーを取っているのではないでしょうか?」

「取っていないのであれば残りすぎではありませんか?」

「野生動物に取られていないのはナッツエレファントやサラマンダーがいるからでしょう。前回のようにモンスターがいる可能性は低いと思いますわ」

「なるほど」


 圭人もラズベリーを採取して食べてみる。


「ラズベリーにしては少しすっぱいかな」

「すっぱい」


 圭人に続いてパムが声をあげる。

 パムが圭人を真似して採取したラズベリーを食べてみたようだ。すっぱくて驚いたのか、パムの尻尾が膨らんでまっすぐになっている。


「これは加工した方が美味しそうだ」

「何を作るの?」


 パムが圭人を見上げて目を輝かせている。


「酸味の強いラズベリーはジャムにしたら美味しそうだね」


 ジャムなら人に配りやすい。

 それにラズベリーは日持ちしないため、冷凍しない限りはどちらにせよ加工しなければならない。


「ジャム!」


 パムの狐耳が尖り、顔に笑顔が広がる。

 圭人もパムにつられ笑顔になる。


「パムはジャムが好き?」

「うん!」


 パムが元気に頷く。


「皆でジャムを食べるために、いっぱい採取していこう」

「うん!」


 パムとセレナは下のラズベリーを採取して、圭人と巴は上の方になっているラズベリーを採取する。

 セレナは無詠唱の魔法でラズベリーを取っている。


「大半のラズベリーを取ったかな」


 ラズベリーが大量になっているとはいっても一本の低木であるため、四人で摘めばすぐに採取は終わる。

 虫食いや熟していないものを残して採取を終える。


「次のベリーを探しますわ」


 セレナを先頭に、再び小川をたどって次のベリーを探す。

 すぐにまたベリーがなっている低木を見つける。


「これはブルーベリーかな?」

「そのようですわ」


 青いブルーベリーの実が一本の木にたくさんなっている。

 こちらもまた採取されていないようだ。


「こちらもジャムに良さそうですね」

「では採取していきましょう」


 皆でブルーベリーを摘んでいく。


「美味しい」


 パムがブルーベリーを食べている。

 圭人も食べてみると、先ほどのラズベリーと違って酸味と甘味がちょうど良い。

 皆で摘んだブルーベリーを食べながら採取していく。


「結構集まった気がしますね」


 熟したブルーベリーの採取はすぐに終わった。

 全く手をつけられていない木だったからか、袋いっぱいのラズベリーとブルーベリーを手に入れられた。小さいジャムの瓶であればラズベリーとブルーベリーそれぞれ10以上は作れそうな量がある。


「あまり取りすぎても消費できませんか」

「皆でジャムを分ける分には、十分な量を採取したと思います」

「では戻りましょう」


 小川を降り、来た道を通ってホーマーの家へと戻る。

 圭人たちが歩く横では家畜たちがのんびりと草を食んでいる。


「今回は平和だ」

「前回の草原も平和な予定でしたわ……。今回はホーマーの牧場ですので問題は起きそうにありませんわね。いいことですわ」

「武器を使わなくていいならその方がいいですね」

「ええ」


 ホーマーは魔法学園の元研究者で魔法使い。圭人には魔法使いがどの程度強いのかはわからないが、セレナの様子を見るに、魔法使いはモンスターを相手にしても余裕で対処できそうに思える。

 魔法使いのホーマーが管理している牧場が安全でないはずがない。

 今回は前回のようにモンスターが現れることはなさそうだ。


 圭人は結構な距離を歩いているのでパムが疲れていないか心配になる。


「パム、疲れてない?」

「うん、疲れてないよ」


 パムは楽しいのか尻尾を降りながら笑顔。

 圭人は疲れているなら抱えようかと思っていたが、今のところはその必要もなさそうだ。

 のんびりとホーマーの家へと戻る。




「ホーマー、戻りましたわ」

「ベリーは取れたか?」

「ええ、いっぱい取れましたわ。あまり取りすぎても処理が大変ですから程々で戻ってきましたの」

「そんなにあったか。ワシらもあそこまでベリーを取りに足を伸ばさないからな、あるのは知っていたがそこまで残っていたか」


 パムがホーマーに摘んだラズベリーとブルーベリーを見せると、ホーマーがいっぱいあったなとパムの頭を撫でる。


「玄関ではなく、中で話そうじゃないか」


 ホーマーに大きな机のある部屋へと案内される。

 机の脇には暖炉があり、すでに火が起こされているようで部屋が暖かい。


「好きな席に座っていてくれ。飲み物を出そう」


 圭人たちが椅子に座ると、ホーマーが机の上にコップを並べ始める。


「まずは牛のミルクからどうぞ」


 ホーマーが少なめの量を注いでくれる。


「ありがとうございます」


 圭人はホーマーにお礼を言って牛のミルクを飲む。

 日本で飲むミルクより薄味で少し癖がある。味の違いは牛の種類ではなく、育て方ではないかと圭人は想像する。

 日本で育てられる乳牛は栄養が豊富な穀物で育てられるため、濃厚な味わいになりやすい。ホーマーの牧場は牧草で育てられているため、脂分が少なく薄味で、草の風味が漂うミルクになっている。

 圭人は以前に牧草で育った乳牛のミルクを飲んだことがあるが、似たような味がした。


「次に行こう」


 山羊ときて馬。

 山羊はチーズが日本でも一般的に流通しているが、馬のミルクは見る機会がない。馬乳酒が有名であるが、飲んだことがある人は少ないだろう。

 圭人も初めて飲んだ。


「次はナッツエレファント」


 ナッツエレファントのミルクは色が少し赤みがかっている。

 圭人がナッツエレファントのミルクを一口飲むと、濃いミルクの味とともに、胡桃のような風味が口の中に広がる。


「ホーマーさん、ミルクに何も入れずにこの味ですか」

「ナッツのような風味が口に広がるだろう?」

「はい。俺には胡桃の味が感じられました」

「ナッツエレファントが食べるものによって多少変わるが、ナッツのような味がするのは共通。なのでナッツエレファントって名付けられたわけだよ」


 圭人はナッツエレファントのナッツを小さいという意味にとらえたが、実際はミルクの味にナッツの意味があったようだ。


「ナッツミルクと言われたりして、チーズにすると高級チーズになる」

「ナッツの風味がするチーズは好まれますが、ナッツの風味があるミルクから作ったチーズはとても美味しそうです」

「とてもお酒に合うチーズで美味しいよ。ワシが自分でミルクやチーズを食べるため、ナッツエレファントを飼っているまである」


 圭人も牧場を手に入れた場合、ナッツエレファントを飼いたいと思うほどにはミルクが美味しい。

 マンモスのような巨大な生物を飼育するのは大変だとは思うが、ミルクの味が苦労するに見合う美味しさがあるように思える。


「こんなに美味しいミルク初めて飲んだかも」

「パムも」

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