第25話 牧場の動物
圭人がホーマーから話を聞いていると、家畜らしき動物が見えてくる。
「あそこに集まっているのは牛だね。トラウトポート周辺の牧場で一番飼育されているよ」
圭人も牛ならわかる。
日本でよく見られる牛とは違い、随分と毛が長い。違いはその程度で、牛なのは変わらない。
「牛は地球にもいますが、乳牛は毛が短い種類が多いですね」
「この辺りは毛が長い品種が一般的だね」
牛の近くにはロバや馬など圭人が見たことのある家畜がいる。
「もう少し歩くと変わった家畜がいるよ」
ホーマーの案内で進んでいくと、木陰に巨体が見える。
木陰に隠れるようにいたのは象に見えたが、毛が生えているのでマンモスか?
「マンモス?」
「正確にはマンモスより象に近い種類の家畜だね。ナッツエレファントという品種になる」
「ナッツエレファント」
ナッツエレファントは見上げるような大きさで、三メートルから四メートルはありそうな体高。ナッツという小さそうな名前に似合わず、とても大きな体。
「大きいだろ?」
「はい。ナッツエレファントほどの大きさがある動物を家畜にできるんですか?」
「家畜として飼育する人は少ないよ。ミルクがとても美味しいのだが、私も家畜というよりはペットに近い扱いだ」
ナッツエレファントは犬猫とは比べられないほどの大きさ。
「ペットでもすごいですね」
「牧場でナッツエレファントを飼うのはモンスターの被害が減ると言う効果もあるがね。流石のモンスターも巨体を襲うのは躊躇うようだ」
圭人が以前に戦ったランバージャッククラブと比べても、ナッツエレファントの方がどう考えても強そう。
モンスターが襲うのを躊躇うのも理解できる。
「残念ながら大量の飼い葉を必要とするため、飼育するのが大変なんだ。なので家畜として飼育しているのは珍しい」
ホーマーはナッツエレファントに近づいて撫でる。
ナッツエレファントは大人しく撫でられている。
「大人しいので撫でてみるといい」
圭人が近づくとナッツエレファントの大きさがさらに際立つ。
ここまで大きな動物は動物園で遠くから見たことがある程度で、目の前に立ったことがない。
ナッツエレファントは胡桃のような色合いの毛に覆われている。
圭人は恐る恐るナッツエレファントの足を撫でてみると、ゴワゴワと硬い毛を感じる。長い鼻が近づいてきて、鼻も一瞬撫でる。
ナッツエレファントのような巨大な生物を触れられて感動する。
圭人に続いて巴とパムがナッツエレファントに触る。
ホーマーが餌になるという小型の瓜を渡してきたので、皆で与える。
「すごい」
「パムもナッツエレファントを初めて触る?」
「うん、初めて触る」
トラウトポートに住むパムでも触ったことがないナッツエレファントは相当珍しそうだ。
「さて次に行こうか」
ホーマーが移動を促す。
圭人はこれで終わりだと思っていたが、まだ別の家畜がいるようだ。
ホーマーの案内で牧場を歩く。
「広い牧場ですね」
「トラウトポート周辺の牧場では大きい方だよ。管理するのが大変さ」
ホーマーは大変と言いながらも朗らかに笑っている。
牧場の管理が嫌ではないのだろう。
水飲み場だろうか、大きな池がある場所まで辿り着く。
「良かった、まだ浮いているね」
圭人は何を言っているか理解できなかった。
浮くとはなんだ?
「水の中にサラマンダーがいるのがわかるかい?」
「サラマンダー?」
「ほらあそこだ」
ホーマーが池を指差す。
圭人が目を凝らすと、池の水面に目があることに気づいた。
圭人は目を見つけられたことで、サラマンダーの全体像が見え始める。一瞬ワニのような体にも思えたが、ワニというよりはトカゲ。さらによく見ると、トカゲというよりはイモリに近いように思える。イモリより横に太いので山椒魚か?
「巨大な山椒魚?」
「見た目は山椒魚にそっくりだね。サラマンダーは草食で卵生なんだけど、子供を母乳で育てる変わった生き物だよ。一応モンスターに分類されるのだけれど、そこまで凶暴でないため家畜として飼育される」
「変わっていますね……」
山椒魚に似ているのであれば両生類に近いとそうだが草食。しかも卵生なのに母乳で育てるとは随分と変わった生態。さらにはモンスターにまで分類されている
「まだ変わった部分があってね」
「まだあるんですか?」
「うん、背中から子供に母乳をあげるんだ」
「背中から?」
「今もサラマンダーの子供が親の背中に捕まる形で張り付いているだろ?」
圭人がサラマンダーの背中を注視する。
ホーマーの言った通りサラマンダーの背中に、少し小型のサラマンダーが二匹張り付いている。別の個体だという認識はあったが子供だとは思っていなかった。
「大きいので子供だとは思っていませんでした」
「もうそろそろ乳離する成体に近い子供なので大きいよ。サラマンダーは子育てが終わると水の中で大半を過ごして、息継ぎ程度にしか水面に顔を出さなくなる」
ホーマーが最初にまだ浮いていると言ったのは、サラマンダーの子育てが終わり池の底に沈んでいないことへの言葉だったようだ。
「サラマンダーは息継ぎするんですね」
「サラマンダーの子供は母乳を飲みながら水面に鼻を出して呼吸するんだよ。面白いだろう?」
ホーマーの声が弾んでおり、サラマンダーを気に入っているのがわかる。
圭人もサラマンダーについて興味が湧いてきて、ホーマーに質問する。
「サラマンダーの背中からミルクをどうやって絞るんですか?」
「専用の魔道具があればミルクを絞れるよ。サラマンダーという名前と、希少性からドラゴンのミルクと仰々しく書かれている場合もある。大体はトカゲのミルクかな」
トカゲのミルク。
圭人は以前に訪れた乳製品を取り扱う店にあったトカゲのチーズを思い出す。
「もしかしてサラマンダーのミルクからチーズを作ると、トカゲのチーズになりますか?」
「トカゲのチーズがトラウトポートで売っていた物なら、サラマンダーのミルクからつくるチーズだね。希少なので値段がするけど他にはない味だと評判がいいよ」
「それは興味が湧きます」
圭人はサラマンダーのチーズがどのような味か気になる。
「家にチーズやミルクがあるから、食べていくといい」
「いいんですか?」
「もちろんだとも」
「ありがとうございます」
圭人は遠慮すべきところかもしれないと思いながら、料理人としての興味から食べさせてもらうことにする。
気に入った場合、定期購入したいがお金の問題がある。
お金に関しては追々考えてことにする。
「夏場だったらサラマンダーにも触れるのだが、今の時期は寒くて触るのはお勧めしないかな」
「見られただけでも十分です」
トラウトポートは日本と季節がそう変わらず、今は晩秋なのか寒い。
水の中に入れば風邪を引いてしまいそうだ。
「そうなると見学はこのくらいか。ああ、山羊を見ていないか。牛と一緒にいなかったから、どこかの木にでも登っているかな?」
「山羊も飼育いるんですか」
「ミルクを搾りやすいからね」
圭人は琥珀の友である猪族のジェイドが豚肉を食べた時も思ったが、羊のホーマーが山羊を飼育していることに違和感を感じる。
獣人と動物は別物であるとセレナに聞いてはいるが、どうしても見た目に引きずられてしまう。
「山羊がいそうな場所の候補はいくつかあるが……」
「地球にも山羊はいるので大丈夫ですよ」
「そうか。なら牧場の見学はこれで終わりだ。ベリーをとりに行ってくるといい」
「わざわざ案内していただき、ありがとうございます」
圭人がホーマーにお礼を言うと、巴とパムも続いてお礼を言う。
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