第20話 金尾稲荷で調理
話しながらもランバージャッククラブの身を食べる。
部位ごとに食べていき、そろそろ味見の域を超えていると圭人は自覚する。
「俺は金尾稲荷で料理を作ってくるので、琥珀様はこちらで食べていてください。料理が完成したら呼びます」
「分かったのじゃ」
琥珀はランバージャッククラブを食べながら返事する。
ランバージャッククラブは今のままでも夢中になって食べるほど美味しい。しかし、圭人としては食材として調理してみたいという思いも強い。さらに美味しくするにはどうするか試したい。
「手と腹側の身を少しもらっていきます」
「いや、いっぱい持っていくべきじゃと思うぞ。どう考えてもなくならんのじゃ」
神殿の人たちも食べているが、まだ一杯目のランバージャッククラブは半分も無くなっていない。
「圭人、父さん、母さん、兄さんにも持っていかないと文句言われそう」
「確かに」
巴以外の金尾家はまだ食べていない。
金尾家にカニを嫌いな人はいない。むしろ皆がカニを好きなため、持っていかないと巴のいう通り後で文句を言われるだろう。
圭人と巴はランバージャッククラブの身を大量にもつ。
「圭人お兄ちゃん、パムも行きたい」
「私も行ってみたいですわ」
パムとセレナは地球に興味があるようだ。
「琥珀様、二人を連れて行ってもいいですか?」
「いいぞー」
琥珀の返事は軽い。
圭人は問題ないのならとセレナとパムを連れていくことにする。
「それじゃ、行こうか」
「楽しみ」
「楽しみですわ」
神殿の厨房から礼拝堂へと移動する。
本来ジェイドを祀っている祭壇には、今も金尾稲荷に続く穴が空いている。
「あれが地球への入り口?」
「そうだよ」
「興味深いですわ」
セレナは地球へとつながる穴を正面から見たり、後ろに回り込んで見ている。
圭人では穴が空いているとしかわからないが、セレナには何かわかるのだろうか。
「セレナ、いくよ」
「待ってください巴」
「また今度、じっくり見ればいいでしょ」
巴はセレナを抱き上げ、祭壇に登って穴を潜る。
圭人は巴に続くようにパムを抱き上げて穴を潜る。
「セレナ、見るならこちら側がいいと思う。本体は銅鏡なのよ」
「興味深いですわ」
セレナは銅鏡を眺めて動かなくなってしまった。
「あたしも使い方よくわからないから、銅鏡に直接触らないようにね」
巴も連れていくのを諦めた。
「わかりましたわ」
圭人と巴はランバージャッククラブを厨房に運び込むことにする。
「パムはどうする?」
「一緒に見てまわりたい」
「なら一緒に行こうか」
パムの興味は銅鏡にはないようだ。
セレナを置いて圭人、巴、セレナは祭壇がある部屋を離れる。
巴はランバージャッククラブを両親に渡してくると途中で別れる。パムは圭人と一緒に金尾稲荷のキッチンへと向かう。
料理店の調理場と大差のないキッチンにランバージャッククラブを置く。
「パム、今から料理するけどどうする?」
「見てていい?」
「もちろん」
圭人はパムが調理を見やすいようにキッチンの片隅にあった台を取り出す。
圭人が昔使っていた懐かしい台を用意しながら、自身の小さい頃を思い出す。
金尾稲荷の道場に出入りする弟子たちの中には、本職は料理人の人が混じっている。料理人たちは行事があるとキッチンで腕を振るった。
圭人は料理人たちが腕を振るう様を横から眺め、次第に料理を教わるようになり、気づいたら料理人になっていた。
「見える?」
「うん!」
圭人はパムが手元を見られるか確認した後、ランバージャッククラブを手に取る。
ジェイドによって殻を剥がされ身だけになった状態。
「昨日買ったバターはまだある。まずはカニクリームコロッケから作ろう」
圭人が作るカニクリームコロッケはクロケットに近い。
普段はカニたっぷりのカニクリームコロッケを作るのは特別な日くらい。しかし、今日はカニの身がたっぷりとある。
ランバージャッククラブの身を刻んでいく。
食感と味を損なわせないように、あまり細かくは刻まない。
次に玉ねぎを取り出す。
圭人は玉ねぎが大半の動物には毒なことを思い出す。
「パムは玉ねぎ食べられる?」
「玉ねぎ? パム、食べられるよ」
圭人はクルガルの玉ねぎと、地球の玉ねぎが同じであるか心配で、詳しくパムに尋ねる。
匂いだとか、目にしみるかなど尋ねた結果、同じものだと判断する。
動物と獣人は違うのだろうと理解する。
圭人は玉ねぎを入れられそうだと、細かく刻んでいく。
パムが圭人の包丁さばきをじっと見ている。
「切るの早い」
「料理を覚え初めてから二十年近いからね」
圭人は刻んだ玉ねぎをフライパンで炒める。
玉ねぎがしんなりとしたところでフライパンを火から降ろす。
鍋を手に取って、昨日トラウトポートで買ったバターを取り出す。
大量に買ったため、まだ大量にある。
鍋を火にかけ、鍋が温まったところで、バターを投入する。
バターが溶け出して香ばしい匂いがキッチンに広がっていく。
「いい匂い」
「バターを熱するといい匂いがするよね」
「うん」
溶けたバターに小麦粉を入れホイッパーで混ぜる。
バターと小麦粉が混ざったところで牛乳を入れホイッパーで混ぜ続ける。今回は追加で生クリームを入れてホワイトソースを作る。ランバージャッククラブから水が出ると予想できるため、気持ち固めの仕上がりにする。
ナツメグ、胡椒、塩を少々追加。
元となるホワイトソースができたところで、先ほど炒めた玉ねぎとランバージャッククラブの身を投入する。ホワイトソースと同量はあるランバージャッククラブの身を混ぜ合わせていく。
「味見しよう。パムもどうぞ」
圭人はベシャメルソースをスプーンで掬い取り、小皿に移す。
パムは圭人から小皿を受け取ると、スプーンを口にはこぶ。
「美味しい!」
パムの目が輝き、笑顔になる。
圭人もパムに続いて試食する。
生クリームを追加して濃厚なホワイトソースにしているが、ランバージャッククラブは味で負けていない。
むしろ脂質の少ないカニの身にバターと生クリームが足されることで、油の旨みが足されている。そこにほのかな玉ねぎの甘みに、小麦粉のがつなぎとして一つの料理に形成する。
ランバージャッククラブの旨みだけではない、複数の旨味により味に奥行きができている。
「想像以上に美味しいな」
圭人はランバージャッククラブの身を混ぜ合わせずに、カニグラタンにしても美味しそうだと感じる。
作ったベシャメルソースを冷ますためにバットに入れると、ラップをかけて冷蔵庫に入れる。冷えて形成できるまでの間、他の料理を試作していくことにする。
カニグラタン、カニとトマトのサラダ、カニのサンドイッチ。
中華風にカニ玉。バターで身を焼いただけのものや、寿司を握ってみたりと圭人は色々と作っていく。
「圭人、作りすぎじゃない?」
「巴」
気づけば大量の料理ができている。
「……確かに作りすぎたかも」
「カニクリームコロッケは?」
「今から揚げる」
カニクリームコロッケはもう揚げるだけ。
圭人はこれで最後にしようと思いながら、バットに入ったベシャメルソースを冷蔵庫から取り出す。
ベシャメルソースは冷えたことで固くなって形成しやすくなっている。
圭人は樽型にベシャメルソースを形成していく。
形成したベシャメルソースに小麦粉をまぶし、溶き卵に潜らせ、パン粉に塗す。
温めておいた油に投入する。
揚げ物が上がる音を聞きながら、次々と形成したベシャメルソースを投入していく。
温度を確認しながらきつね色になるまで揚げる。
「そろそろいいかな」
きつね色になったカニクリームコロッケをバットに上げる。
「美味しそう」
「巴、揚げたてのほうが美味しいから、琥珀様とジェイド様を呼んできて」
「分かったわ」
圭人はカニクリームコロッケ全てを揚げると、皿に盛り付ける。
全ての料理をワゴンに乗せて、圭人とパムはキッチンから移動する。
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