第11話 薬草採取
パムがキャラメルを食べているセレナを見ている。
圭人がパムの様子を見てキャラメルを一つパムに差し出す。
「食べていいの?」
「食べていいよ。帰りの分はまだあるから安心して」
「うん!」
パムはキャラメルを食べると笑顔になる。
セレナが前に出る。
「そろそろ進みましょう。あまりゆっくりしていると夜になってしまいます」
「分かりました」
セレナを先頭に街道から外れた道なき道を進む。
街道の脇にはさまざまな草が大量に生えており、草の中にまばらに木が生えるのが圭人から見える。圭人は歩きにくくはないが、パムとセレナには少々草の背丈が高そうだ。パムの体はローブで守れているが、動きやすいようには見えない。
「パム、歩きにくくはないか?」
「少しだけ歩きにくい」
畑でもない草原はパムの胸ほどに草が達している。
圭人と巴が草を踏み固めているので歩くのが不可能とまではいかないが、パムの歩みが遅くなっている。
「セレナさん、俺がパムを抱えましょうか?」
「8歳のパムには少々歩くのが大変でしたか。申し訳ありませんがお願いしてもいいでしょうか?」
「分かりました」
圭人は盾や剣を持っているが、子供の頃から鍛えているだけあってまだ余裕がある。
「パム、抱き上げてもいい?」
「うん」
パムが圭人に向かって手を出す。
圭人はパムを肩に座れるように抱える。
「たかーい!」
パムは楽しげな高い声を出す。
190センチ近い圭人の身長より高い位置にパムはいるので、遠くをよく見渡せるのだろう。
「落ちないようにね」
「うん!」
パムは返事をした後、圭人の服をしっかり掴んだ。
「では、あたしはセレナさんを」
巴はそう言うや否や、素早い動作でセレナを抱える。
圭人は巴がセレナを抱える隙を狙っていたのだとわかる。おそらくパムも狙っていたのだろうが、圭人に抱えられたのでセレナを狙ったのだろう。
「え? 私は平気ですわ」
「薬草を探す間だけです」
セレナは巴の顔を見てため息をついた。
「仕方ありませんわね」
圭人が巴の顔を見たところセレナを抱えて巴の顔はご満悦。抱えられている状態を我慢してくれるあたりセレナは優しいと圭人は思う。
「木が生えている位置まで行ってくださいませ」
セレナが前足でどの木か指示してくれる。
圭人はパムを抱え、巴はセレナを抱えて木へと移動する。
ノーマンから聞いた通り危険はなく、多少歩きにくい程度で子供が受ける依頼と教わった意味がわかる。
圭人はパムを抱えながらも薬草を探そうとするが、草原は茂っており簡単には見つけられそうにない。匂いが強い薬草であったため、簡単に見つかると思っていたが、どうやらそう簡単には見つからないようだ。
薬草を探しながらも進むと木の近くまで行くと植生が少し変わる。
「松の木ですわね。近くに薬草があると思いますわ」
「薬草は松の近くにあるのですか?」
圭人は松の近くだけ背の高い草が生えていないことに疑問を覚える。
「いえ、周囲にも生えているとは思いますわ。ただ大量に様々な植物が生えていては目的の薬草を見つけられないでしょう?」
「なるほど。しかし、何故木の周りだけ草が少ないのです?」
「松の木になる種を狙って動物やモンスターが周囲を踏み固めるからですわ」
動物やモンスター。
圭人は周囲を警戒する。
「食料が豊富にある時期、わざわざ襲ってくることは滅多にありません。安心してくださいませ」
圭人はセレナの話に納得して警戒を緩める。そもそも種を狙うような相手は肉食ではないため、襲われるとしたら不意の遭遇の可能性が高い。
「薬草と松ぼっくりを探しますわ。パムを下ろしてくださいませ」
パムは圭人の肩から降りると圭人にお礼を言って周囲を探し始めた。
「巴、私も下ろしてくださいませ」
「分かったわ、セレナ」
いつの間にか巴とセレナの間で敬称がなくなり呼び捨てになっている。圭人はその事実に気付きながらも気にしないことにした。
「巴、俺たちも探そう」
「ええ」
圭人はノーマンに教えられた薬草を探すため、草を千切っては匂いを嗅いで目的の薬草を見つけようとする。草の匂いを嗅ぎ分けながらも、周囲の警戒はおそろかにしないよう気を付ける。
似たような草を千切り続けると圭人は匂いを嗅いで止まる。
「あった」
圭人はミントのような匂いがする草を見つける。
「大半の薬草は少しだけ残しておくと、何度か採取できます。ただ、この辺りの薬草はそこまでの価値がないため、残さずともいいと思いますわ」
セレナが圭人の元に来て薬草について説明してくれた。
圭人は巴やパムに薬草を見せた後、今回は薬草をどの程度残せばいいか知ろうと少しだけ葉を残して採取する。
「セレナさん、薬草を残すのはこの程度でいいですか?」
「ええ。植物によりますが全体の二割も残せば十分ですの。ものによっては根が残っていれば生えてくる薬草もありますわ」
巴やパムが残った薬草の量を確認している。
「セレナさん、薬草って料理に使っても問題ありませんか?」
「それもまた薬草によるとしか言えませんわね。今日採取する予定の薬草は食べても問題ありませんわ」
「生で食べても?」
「ええ、私もたまに食べますわ」
圭人は今採取した薬草を目視で汚れがないか確認したあと、少しだけ千切って口の中に入れる。
ミントのような清涼感と共に甘さが広がる。
葉っぱを食べているだけなのに、キシリトールガムを食べているような気分になる。
「このまま食べても美味しいですね」
「他の薬草と混ぜて眠気覚ましに使われたりしますの」
「なるほど。教えていただきありがとうございます」
「いえ、お役に立てたなら嬉しいですわ」
セレナは圭人の隣にいたパムへと近づいていった。
パムは真剣な表情で薬草を探している。
「大きい」
圭人が再び薬草を探していると巴が声を出す。何が大きいのだろうと圭人が巴の元に行くと、手に持っているのは大きな松ぼっくり。
「本当だ、大きな松ぼっくりだね」
「もっと小さいものかと思っていたわ」
「この大きさなら、もしかしたら種が食べられるかも」
「種が食べられるの?」
「うん。松の実って普通に売っているよ。松の実を使った料理だとジェノベーゼソースが有名かな? 松の実や胡桃を使うことが多い。あとは中国料理や韓国料理でも使ったりするね」
「気づいていないだけで食べたことがありそう」
日本でよく植えられる松は過食部となる種が小さすぎるため。食用にはあまり向いていない。世界や日本の一部には松の実が食べられる品種が植えられており、松の実として流通している。
「でも松ぼっくりが完全に開いた状態で、種がないからこれは食べられないかな」
「むう、松ぼっくりも食べれればいいのに」
「緑色の松ぼっくりなら食べられるけどね」
「え、食べられるの?」
「ジャムにして食べるらしい」
松ぼっくりのジャムはロシアで作られるジャム。
「今回の松ぼっくりは、お土産でいいんじゃない?」
「そうね」
巴が鞄に松ぼっくりをしまいこむ。
圭人と巴の話が終わったところでセレナが近づいてくる。
「松ぼっくりが食べられるとは私も知りませんでしたが、松の実は食べられますわ。ギルドで買取しているのが松の実ですの」
近く一緒に薬草を探していたため、圭人と巴の話が聞こえたようだ。
「ところでジェノベーゼソースや中国料理と韓国料理とはなんですの? 私は聞いたことがありませんわ」
圭人と巴は顔を見合わせる。
圭人はまた地球の話をしてしまったと後悔する。しかし、今回はまだ誤魔化せる範囲だとは思うが、どうするべきかと迷う。
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