第8話 ギルド

 圭人は手早く昼食を作って手早く済ませる。

 ギルドの依頼がどの程度時間がかかるかわからないため、手の込んだ料理より速度を優先した。


「武具を持ち出す許可はもらえた?」

「ええ、好きなの使っていいって」

「それじゃ盾と剣を持っていこうかな」


 圭人は金尾稲荷の古武術道場で幼少期から武術を習っている。もっとも、幼少期から鍛えているが武術の才能はないと思っている。そんな圭人が唯一まともに使えるのが盾。

 盾限定ではあるが圭人は道場の師範代になっている。師範代とはいえ現代で盾術覚えたいという人が現れることが滅多にないため、圭人が師範代として仕事をすることはほぼない。


「倉庫にある予備から選びましょう」

「ああ」


 金尾稲荷の倉庫には祭りに使う道具や、神事に使う道具が仕舞われている。倉庫の一角には予備の神具が置かれており、その中から圭人と巴は自分に合う武具を選び出していく。


「防具まで実用品だったとは……」

「防具を着て神事で演舞したことあるじゃない」

「本格的だとは思っていたけど、本物だとは思わないて……」


 圭人は武器同様に防具も模造品だと思い込んでいた。

 倉庫には日本の甲冑以外にも西洋風の鉄で作った甲冑まである。山のようにある武具の多さから、金尾家の誰かが趣味で集めたものだと圭人は思っていた。


「以前に圭人が着た防具がどこかにあるんだけど、どこだろ?」


 整理はされているのだが、量が多すぎる。


「探そうか……」


 山のようにある武具の中から二人は体格に合うものを探し出す。

 圭人が倉庫にある防具から選んだのは西洋風の革鎧に大きなタワーシールド。金属の甲冑であるプレートアーマーなどもあるのだが、今回はそこまで危険な場所に行くつもりはないと革鎧に決まった。

 武器には片手で触れるショートソード。


「圭人、動きにくくはない?」

「問題ない」


 圭人はタワーシールドを振り回して動きに余裕があることを巴に見せる。


「巴は?」

「あたしも大丈夫」


 巴もまた西洋風の革鎧。巴は自分の甲冑を持っているが、今回は必要ないと軽い防具にした。

 武器は薙刀を持っている。

 巴が軽く薙刀を振ると様になる。


「さすが令和の巴御前と言われるだけあって似合っている」

「圭人に言われると照れる」


 巴は薙刀が得意な上に名前が巴なため、令和の巴御前と呼ばれている。

 令和の巴御前と呼ばれ始めた最初のきっかけは、中学生の頃に薙刀の大会に出たのが発端。巴は大会に出た時テレビから取材を受け、ソーシャルメディアを中心に容姿端麗な西洋風の顔立ちでだと有名になっていった。

 以降、巴はソーシャルメディアで活動している。

 最も、巴が今もモデルやソーシャルメディアで活動を続けているのは薙刀の普及のため。そのため現在も年に何度か日本各地に遠征して、薙刀を教えに行ったりしている。


「さ、行きましょう」


 照れた様子の巴が圭人を連れてクルガルへ向かう。




 トラウトポートへ戻ってきた圭人と巴は早速ギルドへ向かう。

 ナイジェルからトラウトポートにはギルドが二つあると教わった。一つは港や海での仕事を中心に取り扱っている港側のギルド、もう一つは街中での雑用や街道周辺の外向きの仕事を取り扱っている城門側のギルド。

 圭人と巴は城門側のギルドへとやってきた。


「港のギルドより小さいって教わったけど、普通の民家よりは全然大きいな。三階建てかな?」


 圭人たちが城門側のギルドに来たのは、こちらの方が空いているとナイジェルと聞いたから。


「圭人、行きましょう」

「うん」


 圭人と巴はギルドの中へと足を踏み入れる。

 ギルドの中は石の床に木の受付。窓から差し込む光と天井からの灯りで室内は明るい。

 圭人は受付に近づく。


「どうされました?」


 受付はシェパードのような犬の顔をしている。シャツにネクタイ、その上にベストを着ておりシェパードの顔も相まってお洒落でかっこいい。

 圭人は受付の人を落ち着いた声と服装から男性だと判断する。


「ギルドを初めて利用するのですが、使い方を聞いてもいいでしょうか?」

「初めてですか……?」


 受付の男性は圭人を頭の上から足元まで見る。

 圭人と巴が防具をしっかりつけた状態であるため、初めてというのを不審に思われたのだろう。


「ええ、初めてなのです」


 圭人は異世界から来たと正直に言うわけにもいかず、笑顔で誤魔化す。


「そうですか……分かりました。私はノーマン・シェパードと申します。ノーマンとお呼びください」


 やはりシェパードなのだろうか? 圭人はそんなことを考えながら名前を名乗る。


「木曽 圭人です。圭人と呼んでください」

「金尾 巴です。巴と呼んでください」

「圭人さん、巴さん、よろしくお願いします。まずは依頼を受けるのか、依頼を出すのかをお聞きしても?」

「今回は依頼を受けに来ました」

「承知しました。依頼を受けるとなりますと、お二人はギルドへの登録はされていますか?」

「いえ、していません」

「ではまずギルド登録してしまいましょう」


 ノーマンが紙を取り出して圭人と巴の前に出す。

 圭人はなぜか文字は読めるが、書けるのだろうかと心配しながらもペンを握る。名前の欄に木曽 圭人となぜか知らない文字で書き込めた。不思議に思いながらも次の欄に移る。

 名前の次に特技ときて出身地とあり圭人は固まる。

 圭人は巴の様子を見ると、同じように困っている。何か言われるかもと思いながら、金尾村と書いてノーマンに不審に思われないよう巴に見せる。

 圭人の紙を見た巴も金尾村と書いている。


「書き終わりました」

「頂きます」


 圭人と巴はノーマンに書いた紙を渡す。

 ノーマンが紙を確認している。


「問題ありませんね」


 ノーマンから金尾村については何も言われなかった。

 圭人と巴は小さく息を吐く。


 ノーマンは紙を手に受付にある機材で何かしている。

 圭人はノーマンが使っている機材を見て、教科書やドラマなどでしか見たことがないタイプライターに似ていると思う。

 機材からカードが飛び出す。


「こちらをどうぞ。お二人のギルドカードです」

「ありがとうございます」


 圭人と巴はお礼を言ってノーマンからギルドカードを受け取る。

 ギルドカードは免許書程度の大きさで、書かれていることは名前と番号。それと反対側の面にひし形が七つ並んでいる。


「無くされた場合再発行できますが時間はかかります。番号や作った場所がわかれば多少再発行が速くなりますが、無くさないのが一番です」

「分かりました」


 圭人はカードケースに入れておけばそうそう無くさないだろうと、いつも持っているカードケースにギルドカードを入れる。

 免許書と同じような大きさだと考えた通り、カードケースにギルドカードはきれいに収まる。


「さて、ギルドで依頼を受ける場合ですが、大きく三つの方法があります。ギルドの掲示板に貼られた依頼、常時受け付けている依頼、ギルド職員を通した指名依頼の三つです」


 ノーマンがギルドの壁を指差す。

 壁には紙が貼り付けられている。


「掲示板の依頼は割りのいいものであったり、急ぎの依頼が多くなっています。朝方には大半の依頼がなくなってしまうので、今の時間は残っている依頼が少なめです」


 ノーマンがバインダーを取り出して開く。


「こちらの紙に書かれているのが常時受け付けている依頼です。依頼はこれだけではなく多くの依頼があるため、ギルド職員に相談して決めるのをお勧めします」


 一つのバインダーだけでも紙の枚数が数十枚はありそうだ。


「最後にギルド職員が指名することですが、依頼達成が可能な方だと判断した場合にしか指名は致しません。また都合が合わないなどの場合、依頼を断ることも可能です」

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