第4話 恐ろしい4人制麻雀
その日、日向隼人が立ち寄ったのは、宇都宮市内の一角にある古びた雀荘だった。外観は年季の入った木造建築で、看板もかすれてほとんど読めない。だが、この店には一つ、普通の雀荘とは違う「噂」があった。
それは、ある「恐ろしい麻雀」が行われる場所だということ。
噂の麻雀には4人が集まるとされ、参加者は誰もが身元不詳の人物ばかりだ。勝者には莫大な金が渡されるが、敗者には恐ろしい「代償」が待っていると言われていた。その「代償」とは、単に金銭的なものにとどまらず、命すら奪われることがあるという。もちろん、これらはすべて都市伝説に過ぎないとされてきた。しかし、日向はその噂を聞いてから、どうしても一度その真相を確かめたくなっていた。
夜の帳が下りたころ、日向はその雀荘「
「おや、見覚えがない顔だね」田村は日向を一瞥し、煙草をふかしながら言った。「君も、あの麻雀に興味があるのか?」
日向は軽く頷いた。「ああ、少しな」
田村は目を細めて、しばらく日向を観察した後、言った。「ならば、いい機会だ。今夜、参加者が集まっている。だが、覚悟はいいか?」
「何を覚悟する?」日向は冷ややかに答えた。
田村はにやりと笑うと、手招きで日向を奥の部屋へと招いた。「その麻雀、ただのゲームじゃないからな。勝者は金を手に入れるが、敗者には恐ろしい代償が待っている」
日向は無言で頷き、店主に従って奥の部屋へと向かう。その部屋には、すでに3人の男が座っていた。全員、顔に刻まれた深い皺と鋭い眼光を持つ、いわゆる「クセのある」男たちだった。どこか浮世離れした空気が漂い、まるで普通の麻雀ではないことを直感的に感じ取る。
「君が新しいプレイヤーか」最初に声をかけてきたのは、痩せこけた男で、目つきが鋭かった。「俺は佐藤、元々は企業の役員だったが、今はちょっとしたギャンブルで生きてる。お前は?」
「日向隼人」日向は短く答えた。「何か特別なルールでもあるのか?」
「ルールは単純だ」別の男が煙草を吹かしながら言った。「4人で麻雀をするだけだ。ただし、負けた者には痛い代償が待っている。お前の命、もしくは金、どちらかが失われる。それがこの麻雀のルールだ」
その言葉に、日向は少し驚いたが、すぐに表情を変えて言った。「命を失う? そんなバカな」
「信じるか信じないかは自由だが、実際にそういう事例が何度もあった」佐藤が冷ややかに言った。「そして、今回はさらに面白いことがある。今回は君たち全員が何らかの「負債」を背負っている。だから、みんな死にたくないと思っているだろう?」
その言葉に、日向は何かに引き寄せられるような気がした。直感的に、これは単なるギャンブルではないと感じ取った。そして、彼の目の前に座っている男たちが、どこか違う空気を放っていることにも気づいた。これは、金銭的な問題だけでは済まない、もっと深い「何か」が絡んでいる。
ゲームが始まると、すぐにその異常さが明らかになった。卓を囲んで、4人は黙々と牌をつかみ、手を進めていく。だが、この麻雀には、普通の麻雀と一つ決定的に異なる点があった。それは、勝者が得られるものが金ではないということだ。
佐藤がにやりと笑いながら言う。「俺たちにはそれぞれ、代償を払う義務がある。今回は君が来たから、少しルールを変更してやろうか」
「ルール変更?」日向は眉をひそめる。
「そう。代償を支払うためには、君が勝たなければならない」佐藤は静かに牌を切りながら言った。「もし君が敗者になった場合、君の命を差し出してもらう。それが今回のルールだ」
その瞬間、日向は背筋を冷たく感じた。これが、噂の「恐ろしい麻雀」だったのか。金や物ではなく、命を賭ける――それがこのゲームの本質だと気づく。
だが、日向は冷静だった。どんな状況であれ、彼の直感は常に鋭く、そして冷徹だった。「命をかけるというのは、どういう意味だ?」
「簡単だ」隣の男が言った。「最下位になった者は、絶対に逃げられない。逃げようとすれば、あらゆる手段で追い詰める。それは、私たちが保証する」
麻雀は次第に白熱していった。チョンボやツモに歓声が上がり、暗い部屋の中でその音だけが響き渡る。日向は冷静に牌を切りながら、少しずつゲームの流れを読み取っていった。しかし、目の前の男たちが放つ異常なオーラが、心の中に不安を感じさせた。
そして、最初の対局が終わると、最初に敗者が決まった。その男は、目を見開き、震えながら最後の一手を切った瞬間――顔を蒼白にして息を切らし、そのまま倒れ込んだ。
「さあ、代償だ」佐藤が立ち上がり、冷徹に言った。「お前の番だ」
その瞬間、日向は一つだけ決意を固めた。この麻雀を制するためには、単なる技術や運だけではなく、冷徹な判断力と瞬時の決断が必要だ。勝者になれば、命は守られる。そして、何よりも――このゲームの背後にある「真実」を解明しなければならない。
だが、ゲームはまだ始まったばかりだ。
東武戦線異状なし 鷹山トシキ @1982
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