第2話  新署管内での激闘

 宇都宮駅前に位置する新宇都宮署管内で、さらなる事件が発生した。今回は、駅近くの繁華街の一角で、昼間にも関わらず強盗殺人事件が起きた。被害者は、地元の名士であり、飲食店の経営者である「高橋義人」。現場には激しい血痕と共に、何者かによって残された「首魁」の文字が血で書かれていた。


 新署の捜査班が現場に駆けつけ、事件は急速に広がりを見せた。だが、日向が一番気にしたのは、この事件が新署管内で起こったという事実だった。宇都宮駅周辺は、新署の管轄区域であり、その捜査権限がまず最初に発動されるべき場所だ。だが、どうしても日向は新署が関与することに不信感を抱いていた。


「隼人さん、これはどう見ても新署が動くべき事件ですよね?」坂本が言った。


「もちろん。でも、なんかおかしいんだ」日向は渋い表情を浮かべながら、現場を見渡した。警察官たちが忙しく動き回る中、日向は一人、警察の外からその様子をじっと見ていた。


 事件の現場は、まさに市内の中心部であり、日常的に人々が行き交う場所だ。そのため、目撃者も多く、目撃情報が多岐にわたっていた。しかし、その中で一つだけ共通していたのは、強盗事件にも関わらず、犯人の目的が金銭的なものだけではないということだ。何か別の意図が隠されている。


「これも、あの『首魁』の手がかりになるのか?」日向は自問した。



 その後、日向は新宇都宮署で動きを探ることにした。新署刑事課のトラブルメーカー、黒沢亮介の影がちらつく中、日向は直接新署の捜査本部に足を運んだ。もちろん、無断で入るわけにもいかず、正式に許可を取った上での訪問だ。だが、事前に得た情報では、黒沢が自ら事件の捜査に乗り出しているという。


「日向刑事、お久しぶりです」黒沢が冷徹な目で日向を迎え入れた。彼の顔にはあまり表情はなく、いつものように冷徹だが、どこか挑発的な雰囲気も感じた。


「黒沢、何か進展はあったのか?」日向は早速本題に入った。


「進展?まあ、捜査は順調に進んでいます。被害者の高橋義人が、最近とある『裏社会』と関わりがあったことが分かりました」黒沢は淡々と話しながら、資料をテーブルに広げた。


日向はその言葉に耳を傾けながらも、黒沢の顔色を窺う。黒沢が言う「裏社会」とは、まさに彼が追っている犯罪組織のことだろう。そして、日向の予感通り、事件の背後には「首魁」と呼ばれる存在が深く絡んでいる可能性が高い。


「それで?」日向は無感情に答えた。


「それで、日向刑事。あなたにも協力をお願いしたい」黒沢が突然言った。その目は真剣だが、同時に微妙な意図を含んでいる。「この事件、単なる強盗殺人に見せかけているだけのようだ。実は、裏で手を引いているのはもっと大きな組織かもしれない」


 日向は黙って聞いていた。黒沢が協力を求めてくるのは予想通りだったが、その背後にある意味がすぐには見えなかった。


「お前の言う組織って、何だ?ヤクザのことか?」 日向が鋭く尋ねる。


「その通りだ。だが、ただのヤクザ組織ではない」黒沢は一息ついてから、さらに続けた。「どうやら、西側諸国のある企業や団体が関わっているらしい。お前の追っている犯罪組織も、どうやらそれと繋がっている」


 その瞬間、日向の胸に嫌な予感が走った。もし本当に黒沢が言う通りなら、この事件は自分が想像していた以上に深刻なものだ。ヤクザと西側諸国の企業、さらに裏で操る「首魁」。その全てが繋がり、日向の目の前に現れようとしている。


「黒沢、お前が何を狙っているのかは分かる」日向は冷静に言った。「だが、俺はこの事件を独自に追い続ける」


「いいだろう」黒沢は一瞬、にやりと笑った。「だが、これ以上深入りすると、君の身に危険が及ぶかもしれないことを忘れるな」


 その後、日向は新宇都宮署を後にしたが、黒沢の言葉が胸に重く響いた。何かが動き出している。それは単なる強盗事件ではない、もっと大きな力が働いている。日向はその事実を認識し、いよいよ事件が核心に迫ろうとしていることを感じ取った。



 その晩、日向は再び「首魁」の存在に近づく手掛かりを得るため、地元のヤクザ情報に詳しい元情報屋、長谷川を訪ねることにした。長谷川はかつて裏社会に関わり、今では表向きは小さな居酒屋を経営している男だ。日向と長谷川の関係は、過去に何度も事件で顔を合わせたことがあるが、決して信頼できる関係ではなかった。


「日向、またお前か」長谷川は無愛想に言った。「でも、今回はなかなか面白いことを聞いたぜ」

「『首魁』のことを知っているか?」

 日向は直接的に尋ねた。

「ふん、それが言いたかったのか」長谷川はカウンター越しに日向を見ながら言った。「あいつの正体は、もうすぐお前も知ることになるだろう。だが、気をつけろ。あの男は、どんな手を使っても自分を守る。自分の命も、他人の命も平気で捨てる」

「その『首魁』が、どうして宇都宮のヤクザ組織を支配しているんだ?」日向は鋭く問いかけた。

 長谷川は少し沈黙し、そして低い声で言った。「あいつはな、単なるヤクザの頭じゃない。もっと大きな勢力が背後にいる。西側の金と力が絡んでるんだ」


 その言葉が日向の中で重く響いた。西側諸国の金と力。それは、これまで自分が追い求めていた「首魁」の正体を突き止める鍵になるのだろうか? そして、宇都宮の街で今、何が動こうとしているのか?


 日向は、再び静かな夜に包まれた宇都宮駅前を見つめ、次の一手を考えていた。


 第2章 - 駆け引きと闇の中で


夜の宇都宮駅前は、昼間の喧騒が嘘のように静まり返っていた。駅周辺の高層ビルやネオンの灯りが淡い光を放ち、街の風景がまるで映画のワンシーンのように幻想的だ。しかし、その美しい景色の裏には、どこか不穏な気配が漂っていた。


日向は長谷川の言葉を胸に、しばらく黙って外を見つめていた。西側諸国の金と力、そしてそれが絡む「首魁」。その正体が徐々に明らかになりつつあるが、まだ全容は掴めていない。それでも、日向は直感的に感じていた。この事件は単なる強盗殺人ではない。裏には、もっと大きな力が存在し、宇都宮という街に深い爪痕を残そうとしているのだ。



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第3章 - 新宇都宮署の動き


翌日、日向は再び新宇都宮署に足を運んだ。黒沢は朝からすでに捜査に取り掛かっているらしく、刑事課の会議室に集まったメンバーの顔ぶれは普段通りだった。しかし、日向が入室すると、空気が一瞬凍りついた。黒沢がすぐに目を向けてきたのだ。だが、日向はそれに構わず、会議室の隅に立ち、冷静に状況を観察していた。


「日向、どうした?この事件に関して何か新しい情報は?」黒沢が問いかける。


日向は簡潔に答える。「いや、まだだ。ただ、気になることがある」


「気になること?」黒沢が眉をひそめた。「それは何だ?」


「『首魁』の正体、そしてその周辺に絡む『西側諸国』の影響だ」日向は短く言った。


その言葉に、会議室内の空気が再び重くなった。数人の刑事たちが顔を見合わせる中、黒沢が無表情で口を開いた。


「それについては、もうすぐわかるだろう。お前が知る必要はない」


「俺が捜査に協力するつもりだと言いたいのか?」日向が冷たく応じる。


「そうだ」黒沢は少し笑みを浮かべた。「だが、独自に動いてもお前の身に危険が及ぶことは覚悟しておけ」



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第4章 - 闇の繋がり


日向は、黒沢からの協力を断ったものの、捜査の進展を追い続ける決意を固めた。何としても「首魁」とその背後にいる勢力を突き止めなければならない。それが自分の使命だと強く感じていた。


その日の夜、再び長谷川の元へ足を運んだ。長谷川は、表向きは小さな居酒屋を営んでいるが、裏社会の情報に精通している。日向が言葉少なにカウンター越しに見つめると、長谷川は少し間をおいてから口を開いた。


「お前、あの『首魁』が絡んでいる『西側の金』って、正確に何を指しているか、まだ理解していないだろ?」


日向は頷いた。「ああ、だがそれを突き止めることが、俺の仕事だ」


「それは簡単なことじゃないぞ」長谷川は苦笑いしながら言った。「『首魁』が仕切っているのは、ただのヤクザじゃない。もっと大きな組織がバックにいる。それも、世界的な企業だ」


日向の心に、再び強い予感が走った。「企業?」と日向は思わず聞き返す。


「そうだ。西側諸国、特にアメリカの企業が絡んでいる可能性が高い。金と力を使って、あいつらは裏で糸を引いている」


長谷川は、少し疲れたような顔をして続けた。「ただの犯罪じゃない。国家の影響力が絡む、まさに国際的な陰謀だ。その背後にいるのは、間違いなく『首魁』だ。あの男は、一度手を染めると、どんな手段を使ってでも目的を達成する。」


日向は長谷川の言葉を反芻し、目を閉じて深く考え込んだ。もし本当にアメリカの企業が関わっているのなら、事件は単なる地元の問題ではなく、国際的なスケールで動く大きなものになる。だが、そうなれば、関わる人物や組織がさらに複雑になり、単独で捜査を進めることはますます難しくなるだろう。


「だが、どうして宇都宮でそれが起きる?」日向は再び問いかけた。


長谷川は静かに肩をすくめた。「それは俺にも分からん。ただ、あの『首魁』が関わっているからには、これ以上放っておくわけにはいかないってことだ。宇都宮を守るためにも、お前はその真相を掴まなきゃならない」



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第5章 - 真実の扉


その後、日向は再度新宇都宮署に足を運び、捜査資料を集めながら、黒沢の動向を注意深く追い続けた。黒沢が言っていた「裏社会」とは、おそらくヤクザの一大勢力だけでなく、さらにその背後に広がる巨大なネットワークを指していた。そして、そのネットワークがどうして宇都宮に関わっているのか。その真相を解き明かさなければならなかった。


日向はふと気づいた。高橋義人が殺された直後、現場に残された「首魁」の文字。あれは単なるメッセージではない。犯人が誰かを示すものでもなく、むしろ何かを象徴している。日向はその象徴的な意味を解き明かさなければならないと強く感じた。


その晩、日向は再び長谷川に会いに行く決意を固めた。次に見えるべき手掛かりが何か、長谷川が知っているはずだ。


「長谷川、もう一度、詳しく聞かせてくれ」日向は静かに言った。


長谷川は頷き、そしてカウンター越しに日向を見つめた。「お前、覚悟はできてるか?」


日向は深く息を吸い込み、決意を新たにした。「ああ、覚悟はできている」



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