第24話:たっからっばこっ!

 その後二回ほど魔物に絡まれたが、無事お肉をゲットした。

 ふんふーん、鼻歌が出ちゃうわ。

 何故ならお肉は幸せの使者だから。

 でも思ったより洞窟コウモリって逃げないみたいだな?

 物知りのクララが言う。


「こっちのレベルが高いと逃げるみたいですよ?」

「野郎、舐めくさっていやがるのか!」

「怒らない怒らない、自分が食卓に並ぶことさえ理解しないで向かってくるんだから、可愛いもんじゃないの」


 アトムがうへえという失礼な顔をした。


 ここまでの戦闘で、あたしクララアトムの三人ともレベルが四になる。

 クララが状態異常解除の白魔法『キュア』を覚えたので、毒持ちの殺人蜂と戦う選択肢ができた。

 ま、でもムリはしない。


 道中アトムに聞いたら、ここはドーラ大陸のかなり西方、元々ドワーフの集落があったところの近くなんだそうだ。

 灰の民の移住先である、塔のあるところよりもずっと西ってことか。

 考えてみればドーラって広いよなあ。

 ノーマル人の住んでるところなんて、レイノスを中心とするほんの一部に過ぎない。


 お、ウツツがいた。

 そしてかなり立派な宝箱が鎮座ましましている。

 ウツツが両の腕を天に突き上げ、重々しく宣言する。


「闇を纏う洞窟の深奥に辿り着きし勇者達よ。その宝箱は豪胆なる貴公らのものだ。さあ、開けるがいい!」


 やだ、ウツツってこういう子だったの?

 仲間にならない?


 クララが宝箱を検分している。

 こういう無造作に転がった宝箱は、罠であることを当然考えなくちゃいけないからだ。


「どう? 何か感じる?」

「内部から魔力を感じます。箱自体からは……おそらく何もないです」


 少なくとも魔力作動のトラップではなさそうってことか。

 中のお宝がマジックアイテムだとすると説明がつく?


「ウツツ、この宝箱は昔からあるの?」


 ウツツは頷いて答える。


「僕が初めてここに来たのは二〇年ほど前になりますが、その時既にありました」

「ふーん、マジで誰も来ない洞窟なんだなあ。ウツツは開けてみようとは思わなかったの?」

「特に欲しいものは思い当たらなかったので」

「やっぱウツツは冒険者向きじゃないなあ」


 気質とか個性ってもんがあるからな。

 無欲で好奇心の薄いウツツが、冒険者やりたいアトムと友達ってのもまた面白いことじゃないか。


「姐御、箱は金属と木でできてやす。間違いねえ」


 ほう、剛石の精霊は材質に強いのか。

 やるじゃんアトム。

 金属と木でできているとすると、ミミックのように宝箱自体が魔物というわけではない。

 可能性があるとすれば物理トラップか、ゴーストみたいな精神系の魔物が封じられているケースくらいか?


 でもあたしは思うのだ。

 穏やかで美しい意匠と精密な細工、職人が愛情を持って製造した宝箱に違いない。

 これが罠なんてことがあるだろうか?


「あたしが開ける。あんた達は下がって、万一のときはフォローよろしく」

「「「はい」」」


 留め金を外し、蓋を開ける。

 やはり罠はない。

 中には……。


「盾があるわ。おーい、もういいから、皆おいで」


 三人の精霊が寄ってきて、箱の内部を覗き込む。

 青く美しい盾を見て、誰ともなくため息がこぼれる。


「見るからにカッコいいわ。相当上物だねえ」

「魔法の盾ですよ、これ」


 おそらくはドワーフの傑作なんだろう。

 でも残念なことに、あたし達に盾はいらないんだよなあ。

 苦笑しながらその盾を持ち上げると、何かが落ちた。


「パワーカードだ! 二枚もありやすぜ」

「ここでパワーカードか。予想外だけどラッキーだなあ」


 メッチャありがたい。

 しかも防御力・回避率が上がる『シールド』と、魔法防御が上がって毒・暗闇耐性と少しだがヒットポイント自動回復のある『厄除け人形』だ。

 今一番必要な防御用のやつ!


「じゃあこの二枚はアトムが装備して。フォーメーション変えるよ。前衛トップに盾役でアトム、トップ下にあたしで、クララが引き気味後衛なのは同じね。アトム、今度は『マジックボム』は温存して、なるべく通常攻撃してみて」


「わかりやした」

「よーし、これでもう少し戦ってみようか」


 まだまだ戦闘経験が足りないので、色々試してみたいのだ。

 殺人蜂を含んだ三匹編成の魔物などとも戦ってみたが、手応えあり、十分イケるな。


 一〇回ほど戦い、回復役クララのマジックポイントが少なくなってきたところで、先ほどの宝箱の場所に戻ってきた。

 絶品と聞いた洞窟コウモリ肉を炙り焼き、ウツツを含めた皆で賞味する。

 塩持ってきてよかった。


「う、うまひ……」


 何だこれ?

 脂身が少なく、お肉自体が甘くていい匂いがする。

 歯ごたえはあっても筋っぽくはなく、噛めばくしゃっと潰れて食べやすい。

 塩でもおいしいけど、バエちゃんに教えてもらったけちゃっぷやまよねえずをつけて食べたら絶対間違いないわ。


「洞窟コウモリは襲ってきますけど、肉食じゃなくて花の蜜とかを吸ってるらしいですよ。だからおいしいのかもしれません」


 さすがクララ。

 村の図書室の『魔物図説一覧』を一字一句覚えてる子。


「おう、ウツツ、そこの石の蓋みてえの何だ?」


 あらかた食べ終わった頃、アトムがウツツに話しかけた。

 実はあたしも気になっていたのだ。

 奥の壁側にある大きな石の蓋みたいなもの。

 苔まみれになってはいるが、文字のようなものも刻まれている。


「わかりません。ただの碑文なのか、それともあの石の向こうにこそ、ドワーフの研究所があるのか」


 あたしとクララが大石に近づく。


「読めないねえ」

「ドワーフが独自の文字を持っているという記録はなかったですけど……」


 クララも首を捻る。

 クララが読めないようじゃ降参だな。


「コケシならば読めるのかもしれません」


 クララと仲のいい精霊コケシは、古い文字に詳しいのだ。

 いつか読んでもらいたい気はあるが、コケシは簡単に言うこと聞く素直な子じゃないんだよな。


「わからんものは保留、今日は帰ろう」


 ウツツに別れを告げ、転移の玉を起動、アトムを連れて帰宅する。

 ウツツはしばらくこの洞窟にいるそうなので、いずれまた会う機会もあるだろう。


『クエストを完了しました。ボーナス経験値が付与されます』


 やった、またレベル上がった!

 三人レベルが上がるってことは、随分強化されるんじゃない?

 もうあたし達は完全に冒険者としてやっていける!

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冒険者になったつもりの破天荒少女は、うっかり『世界の王』と呼ばれてしまう uribou @asobigokoro

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