第23話:魔力の罠

 岸沿いを進んでゆくと、ウツツともう一人の精霊が見えてきた。

 あれがアトム君だな。

 ムダな戦闘を避けながら、二人の精霊の方へ向かう。


「こんにちはー。いい天気だね」


 クララがダンジョンでは太陽見えませんよねって顔してるけど、場を和ませるほんのジョークだよ。

 しかし青褐色の大柄の精霊は御機嫌斜めだ。


「ようようウツツさんよお。助けを呼んだって、人間じゃねーか!」


 罠に捕らわれて抜け出せないガラの悪い精霊が、首から上だけ動かして喚きたてる。

 御挨拶だな、おい。


「アトム、よく見なさい。精霊連れですよ。彼女は『精霊の友』です」

「おお、そうだったか。すまねえ、早とちりしたぜ」


 素直に非を認めるところはポイント高い。


「ねえ、君。動けないの?」

「あ? ああ、強力に吸い寄せられて、全然抜け出せねえんだ」


 とすると……。


「ウツツ、クララ、近寄っちゃダメだよ」

「「わかりました」」


 ゆっくり近付く。

 うむ、引っ張られる感覚はあるが、力は弱い。

 これで抜けられないとすれば、やはり……。


「間違いない。ファントムバインドだね。引っ張るよ!」


 思いっきりアトムを引っ張る。

 簡単に束縛から逃れたアトムは大喜びだ。


「いやあ、助かったぜ!」

「まだ油断しない! クララ!」

「お任せください。ウインドカッター!」


 スワシャーンンン。

 今までアトムを拘束していた付近に、風の魔法をぶつける。

 これでよし。

 もう引っ張られない。


「うおお……」

「ユーラシアさん、今の魔法は?」

「あれはファントムバインドとゆー現象なんだ。魔力の流れがそこだけで完結してる閉回路になってるんだよ。だから実体を持たない精霊が取り込まれると、絶対に自分だけじゃ逃げられないの」


「そ、そうなんで?」

「まあ実体のある者が引っ張ってやれば外れはするんだけど、トラップ自体はなくならない。無効化するのに一番簡単なのが、魔法を当てることなんだよね」


 呆然としてる二人の精霊。


「……ウツツ、今の知ってたか?」

「いや、僕も全く。ユーラシアさん、人間には無害なもののようですが、なぜ魔力の罠なんて御存じなんです?」

「昔、あれに引っかかってたこの子クララを助けて友達になったんだ。その時に物知りな人から教えてもらったんだよ」

「えへへー」


 クララよ、照れるところじゃないよ。


「ファントムバインドはごく稀だけど自然にできるみたいなんだ。特に魔力の流れがおかしいなって感じたら注意するんだよ」

「な、るほど……助けていただいて、ありがとうごぜえやす。しかしユーラシア姐さんは、何でこんな僻地へ?」

「姐さん呼びか。まーいーや、『アトラスの冒険者』ってのがあってね……」


 『地図の石板』と転送魔法陣、現在の生活、戦力増強が急務であることを説明した。


「仲間が必要でしたら、ぜひこの剛石の精霊アトムを一味に加えておくんなせえ。骨身を惜しまず働きやすぜ!」


 青褐色の精悍な精霊が真っ直ぐあたしを見つめる。

 太眉の下の、大きく訴えかけるような目だ。

 しかし一味ゆーな。

 悪党みたいだ。


「いいの? よろしく!」

「アトム、よかったなあ」

「ウツツ、あんたはどうする?」


 ウツツは首を振る。


「戦闘ではお手伝いできそうにありませんから。僕にとってはここがパワースポットたりえるので、もうしばらくいますよ。この洞窟は先があって、一番奥に宝箱があるんです。僕は最奥で待ってます」


 宝箱だと?

 かっさらっていかないと冒険者とは言えないわー。


「アトムいいかな? あたし達には転移の玉とゆーものがあるんだ。行けるとこまで行ったらホームに撤退できる。マジックポイントギリギリまでムリができると思って」

「わかりやした」

「アトム、あんたの得意技と装備教えて」


 攻撃力、防御力と最大ヒットポイントの高い、典型的な前衛タイプだ。

 ただし装備は、近接殴打属性攻撃用のパワーカード『ナックル』しか持っていない。

 土魔法を使えるが、威力はさほどないとのこと。

 魔法力が低いせいかな?


「こんな技が使えやすぜ」


 アトムが右手に何やら集中している。

 魔力を込めているのか?

 それをぶんと遠く湖面に放る。

 ブシャアアアアンンンン!

 着水とともに爆発した。


「魔力を留め、何らかの外力で爆発させるスキル『マジックボム』ですね。魔力の操作が非常に細やかでお上手です」


 さすがクララ、わかりやすい。

 アトムはこの技があったから冒険者を志したか。


「じゃあフォーメーション決めるよ」


 あたしが前衛で二人は後衛だ。

 将来的にはアトムに盾役を任せたいが、防御装備なしでは仕方ない。

 アトムにはさっきの『マジックボム』中心に攻撃してもらおう。


「よーし、行ってみよう。目標は奥の宝箱、アトムかクララのマジックポイントが切れたら、撤収して後日出直し。いい?」

「姐御、『マジックボム』はかなりマジックポイントを消費しやす。敵の数が多いときに使い、減ったら前に出て通常攻撃でいいでやすかね?」

「よし、任せた。でも洞窟コウモリに『マジックボム』使っちゃダメだぞ」

「どうしてでやす?」

「お肉が木っ端微塵になるから」


 お肉は大事だからね。


 湖畔をぐるっと回り、宝箱があると思しき方へ進む。

 途中、洞窟コウモリ&大ネズミと遭遇した。

 避けられないこともなさそうだが、アトムの力も知っておきたい。

 力を測るにはちょうどいい相手か。


 レッツファイッ!

 洞窟コウモリが先制、やはり素早い! 攻撃を食らうがハヤブサ斬りで迎撃、アトムが大ネズミの攻撃を受けるものの、マジックボムで一撃爆砕! 最後にクララのウインドカッターが洞窟コウモリに炸裂した。ワンターンキルだ! しかし……。


「お肉が……」


 あわれ洞窟コウモリの亡骸は、プカプカと湖に浮かんだ。


「ご、ごめんなさい」

「あっしが取ってきやしょうか?」

「やめとこ。湖に何が住んでるかわかんないし、住んでないなら住んでないで、湖水に毒が含まれてる可能性もある。諦めも肝心だ」

「うおお、姐御の深察、感服いたしやしたぜ!」

「もっと褒めていいんだよ。ところでアトム、あと何回『マジックボム』撃てる?」

「三、四回ってとこでやすかね」


 ここまでマジックポイント回復の薬草である魔法の葉を何枚か採取してはいる。

 でもできれば換金したいしな。


「宝箱まではなるべく戦闘避けよう」

「「了解!」」

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