第22話:まだ見ぬアトム君
「アトム君は冒険者希望だって。どんな子かなあ?」
「パーティー的には前衛が欲しいですねえ」
「うん。前衛で盾役かメイン火力になれる子だといいなあ」
クララとキャイキャイ話しながら、ダンジョンに向けて進む。
もう仲間が増えること前提でね。
テンション上がるわー。
実際はどうなるかわかんないけど、物事は希望的に考えた方が楽しいから。
ウツツ?
一人称が『僕』のやつは冒険者に向かない(偏見)。
ようやく足元グスグスゾーンを越えて、ダンジョンの入り口に到達。
大きな石を精緻に組み合わせてあり、小指の厚み半分ほどの隙間もない。
ドワーフは石工に優れるとは聞いたことあるけど、この技術はすげーな。
ここだけほとんど苔が生えてないのも、何かの工夫なんだろう。
ダンジョンの中に入ったところで精霊ウツツが待っていた。
内部は思ったより明るい。
壁や天井から光を取り入れる工夫がしてあるようだ。
これなら手持ちの照明はいらないな。
「少々入り組んではいますが一本道です。最奥の少し広くなったところから、下へ降りられます」
「下の階があるんだ?」
「はい。一つ下の階層にアトムが捕らわれています」
「わかった、情報ありがとう。早めに行く」
精霊ウツツが慌てたように言う。
「ちょっと待ってください。この先はかなりの数の魔物がいます。武器をお持ちでないようですが、逃げるだけだと厳しいかもしれません」
「御心配なく。あたしらも冒険者だから」
パワーカードを起動する。
「そ、それはパワーカード! 精霊使いの冒険者とは、ああ、まさに天の配剤だ!」
「ところでウツツはどこでパワーカードを知ったのかな?」
ウツツはドワーフがパワーカードを生み出したことを知っていた。
アトム君も同様のようだ。
パワーカードは珍しいものだと聞いているのにな?
あたしやクララの知らない情報源がある?
突っ込んで聞いてみたいわ。
「どこで、と言われても困りますね。パワーカードを発明したロブロというドワーフは、精霊に使わせる武器ということを視野に入れていたらしいんですよ。ドワーフの塔の辺りでは比較的知られている話でして」
「ドワーフの塔?」
「御存じないですか? ドーラのノーマル人の住んでる地区より少し西にあるんですよ」
コモさんの言っていた、灰の民の移住先にある塔か?
意外なところで繋がりがあるもんだな。
あっちでもパワーカードを手に入れられるのかもしれない。
参考になったよ。
「まーでもあたし達は駆け出し冒険者に過ぎないから、なるべく魔物とは戦ったりしないけどね」
「いえいえ、戦える手段さえあるなら、最弱に近い魔物でありますので」
その最弱一匹に苦戦するんだってばよ。
「洞窟コウモリという、すぐ逃げる魔物がいますが、こいつの肉は絶品です」
「すげえ有益な情報きたぞ?」
「素材や薬草の類はかなり豊富に取れます。御入用かと思いますので、参考までに。では失礼いたします。下の階に降りたところでお待ちしています」
ヒューンと、精霊ウツツが転移する。
「聞いた? 絶品のお肉だって。楽しみだなあ」
目的が変わっちゃったよーな気もするが、多分気のせい。
素材や薬草の類が豊富に取れるというのも何げに嬉しいな。
道なりに歩いてゆく。
外部より湿気は少ない感じだが、ところどころ床石の滑る部位がある。
要注意だ。
比較的広いので、ごく凶暴で遠くから向かってくる魔物以外はやり過ごせそうだ。
「お、チドメグサと、何だかわかんないけど多分薬草」
「あっ、それ堅草ですよ。防御力アップの効果があります」
ポピュラーな薬草はあたしでもわかる。
クララ先生は物知りなので、素材だろうが薬草だろうが大体何でも知っている。
あたしの弟分アレクとともに、灰の民の村では図書室の主だったしな。
考えてみりゃアイテム回収って、見る目がなきゃ務まらないよなあ。
クララの有能に感謝。
通路が狭くなってるところに二匹の魔物がいる。
これは戦闘やむなし。
正直一匹ずつ戦いたいところだが仕方ない。
クララが囁く。
「洞窟コウモリと大ネズミです」
「お肉から集中攻撃ね」
レッツファイッ!
素早そうな洞窟コウモリが先制、急降下攻撃を食らうがあたしのハヤブサ斬りで迎撃、向こうのダメージの方がうんと大きい。大ネズミは……しめた! 様子みてる。クララのウインドカッターで洞窟コウモリを撃墜、お肉ゲット! 残りは大ネズミ一匹。負ける相手じゃない。次のターンで大ネズミを倒した。あたし達、強くなってるね!
「よーし、イケる! 風魔法はやっぱり、飛んでる魔物にはかなり効果大きいね」
「ユー様の『ハヤブサ斬り』もかなりのダメージ出ます」
このクエスト最初の戦闘を無事終えてホッとする。
魔物を倒せるなら経験値を得られ、いずれレベルは上がる。
すなわち冒険者を続けられる。
アトム君を仲間にできれば最高だ。
よしよし、先へ進もう。
ちょっと進んだところに大きなハチ。
飛行魔物でも一匹なら倒せそうだが?
「殺人蜂は毒持ちです。まだ毒消しの手段がないので、やめておきましょう」
「アトム君と合流するまで戦闘はなるべく避けたいしな」
分の悪い勝負はしない。
冒険者の心得だね。
アイテムを採取しながら進むと、やや広いところに出た。
穴が開いており、縄梯子が下がっている。
「あたしが先降りるよ」
「はい」
注意深く縄梯子を降りる。
お、ウツツがいた。
見える範囲に魔物はいない。
クララが降りるのを待ってウツツが話しかけてくる。
「ここから左手に地底湖があります」
「地底湖?」
「はい、そこの岸にアトムは捕まっているんです」
「わかった、すぐ行く」
「よろしくお願いします!」
壁伝いに左へ曲がると、眼前に幻想的な景色が広がる。
恐ろしく透明度の高い水と漂う霧のせいで、どこが水面かわからないくらいだ。
天井に開いたいくつもの穴から光が差し込み、まるで湖に数本の黄金の槍が突き立てられているように見える。
「ふわーこりゃすごい……いや、いかんいかん」
こんな時こそ気を引き締めなくては。
「魔物に隙を見せてはならないからですね?」
「魔物警戒も大事だけど、アイテムを見逃して回収し損なうとすごく悲しいから」
「さすがはユー様です」
おいおい、尊敬し過ぎだろ。
捕らわれしアトム君のところまであと少しだ。
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