第19話:友達ユニコーン

「おっ、強草だ。攻撃力パラメーターの上がるレア薬草だぴょんよ」


 バエちゃんがチラッと言ってたやつか。

 クララが嬉しそうに回収する。

 こういうものを食べていれば、徐々に戦いやすくなるだろうな。


「ステータスのアップする薬草って栽培できないのかな? 可能なら簡単に強くなれそうだけど」

「ハハハ、不可能と言われているぴょんね。何でも魔力条件が厳しいんだそうぴょん」


 地中の魔力量を制御しなきゃいけないってことか。

 そりゃムリっぽいなあ。

 クララも首横に振ってるくらいだし。


「ユーラシア君のナップザックは、既に何かが入っているようだが?」

「うちで作ってるニンジンを持ってきたの。ユニコーンにあげようと思って。ゲレゲレさんも食べる?」

「いただこう」


 むしゃむしゃと齧るゲレゲレさん。

 どう?


「これは美味いぴょん!」

「でしょ? うちのクララは植物の精霊だからね。野菜の生育条件もよく知ってるんだよ。もう一本どーぞ」

「おお、すまないぴょん!」


 やっぱりウサギの獣人だけにニンジン好きのようだ。

 見た目変わり映えのしない草原を先へ進む。


「ユーラシア君は今までいくつクエスト終えたぴょん?」

「チュートリアルの次の一つだけ。スライムを五匹倒せってやつだったんだけど……」


 二人がかりで大苦戦だったと正直に告白。

 どしたらよかんべ?


「戦闘初心者なのに、最初のクエストを一日で終えたぴょんか? それはすごい!」


 いや、スライム爺さんやバエちゃんも褒めてくれたけど、これからやっていけるのか不安なんだよ。


「少々の魔物退治経験がある者はともかく、完全な初心者が『アトラスの冒険者』としてやっていくのは、大変難しいんだぴょん。最初期が一番厳しいと思うぴょんが……」


 まったく同感。

 転移の玉や転送魔法陣を用意するのだって結構な費用がかかるんだろうから、もっと新人に対してフォローがあってもいいのに。

 とゆーかあたしに優しくしろ。


「ゲレゲレさんからあたし達を見てどう? あんまり心配することないのかな?」

「クエストを終えるとボーナス経験値でレベルが上がるぴょん。今はもうレベル三くらいだぴょん?」

「うん。あたしもクララもレベル三だよ」


 ウサギさんが大きく頷く。


「レベル一と三とでは全然強さが違うぴょん。次のクエストでどうにもならないことはないぴょん。気にかかることがあるとすれば……」


 経験豊富な冒険者が気にかかることか。

 何だろう?


「仲間と武器のことぴょんね。精霊使いなら精霊を仲間にするのが定石ぴょん。しかし機会に恵まれるかは運ぴょん。装備品はパワーカードぴょんね?」

「うん、そう」

「製作工房があると聞いたことはあるぴょんが、到達までがキツそうだぴょん。ギルドまで行くと情報が豊富になるから、聞くといいぴょん」

「ありがとう、ゲレゲレさん」

「何の何の。有望な新人と知り合えて、身どもも嬉しいぴょんよ」


 先輩にこう言ってもらえると勇気が湧く。

 スライム爺さんにも似たようなことを言われたな。

 バエちゃんからの情報と合わせて、大分前途が開けた気がする。

 とりあえず次のクエスト行ってみるか。

 明日にでも新しい『地図の石板』を取りに行こう。


 さっきからせっせとクララが薬草を採取している。

 薬草が豊富というのはマジなんだな。

 売れば結構なおゼゼになりそう。


 不意にゲレゲレさんが足を止める。

 緊張してるようだ。


「……本当に現れた。雄のユニコーンだぴょん」


 どこよ? あ、あれかあ。

 随分遠いところなのに、獣人は目がいいな。


「身どもがこれ以上寄ると、おそらく去ってしまうぴょん」

「あたしが一人で行ってくるよ。逃げられちゃったらごめんね」

「その時は別の方法を考えるぴょん。よろしくお願いするぴょん」


 あたし一人でユニコーンに近付く。

 向こうも気付いたっぽいな。

 こっちをじっと見てる。

 警戒してる様子はないようだ。

 臆せず堂々と進め。


「大きくて立派だねえ。それにすごく綺麗」


 ユニコーンのすぐ側まで寄ることができた。

 目がとても優しい。

 頭を下げてくるのは、撫でてくれってことなんだろうな。


「よしよし。いい子だねえ」


 そうだ、ニンジン食べるかな?


「どーぞ。おいしいよ」


 大喜びで食べるわ。

 草原にはニンジンほど美味い草はないだろうからな。

 まだあるよ。

 よしよし、全部食べた。


「可愛いなあ」


 以前ウシを飼うのが夢だったけど、ウマもいいもんだなー。

 あれ、膝を折ってどうしたんだろ?


「……乗せてくれるの?」


 そうだ、と言いたげにブルっと鼻を鳴らす。

 ある程度意思の疎通もできるな。

 ありがたく乗せてもらおう。

 ユニコーンに乗せてもらう機会なんて滅多にないだろうし。

 どっこいせっと。


 立ち上がって走り出すユニコーン。

 賢いってのは本当だな。

 揺れないように注意しながら進んでくれる。

 裸馬なのに全然落ちる気がしない。

 あたしのちょっとクセのある髪をくすぐる風が心地よく、高いところから見下ろす草原は海に似てるなと感じた。


「気分がいいねえ。あっ、あそこの二人は仲間なんだ。近くに行ってくれる?」


 すぐ理解してくれ、ゲレゲレさんとクララの近くへ歩を進めるユニコーン。

 ハハッ、ゲレゲレさんとクララが驚いてら。


「ただいまー。よいしょっと」


 地に降り立ち、頭をぎゅっとして首を撫でてやる。


「すっかり友達だぴょんね?」

「友達かあ。友達だなあ」


 ん? 何だろ、違和感が。

 角がポロっと外れた!


「……くれるの?」


 ヒヒーンと大きくいななく。


「ありがとう! もらっとく」


 あたしが角を拾うと、もう一度いなないてから去っていった。

 もう二度と会うことはないと思うと、ちょっと切ない。


「ゲレゲレさん。これ」


 『ユニコーンの角』を渡すと、ウサギさんがしみじみ言う。


「……身どもが請けたクエストの中で、間違いなく最高難易度のものだった。これほど短い時間で完璧に仕事をこなせるとは。ユーラシア君は持ってる女ぴょんね」

「大先輩にそう言ってもらえると嬉しいなあ」

「冒険者にとって持ってるということは、一番重要なことだと思うぴょん」


 ユニコーンに似た、優しい笑みを見せるゲレゲレさん。


「大した礼もできないのは心苦しいぴょんが……」

「え? いいよそんなの。丸々アイテムもらってるし」

「せめて昼御飯でも食べてってくれぴょん」

「ゴチになりまーす!」

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