第18話:獣人の冒険者

 ――――――――――八日目。


 フイィィーンシュパパパッ。

 クララを連れてチュートリアルルームに飛ぶ。


 今日は朝から先輩冒険者のクエストのお手伝いだ。

 先輩はウサギの獣人で、クエストはユニコーンの角を得るというものだそーな。

 魅力的な要素がてんこ盛りでワクワクするなあ。


「ユーちゃん、いらっしゃい」

「おっはよー」

「よろしくぴょん」


 ぴょん?


 帝国風スーツをやや着崩したような、冒険者にしてはかなり洒落っ気のある服を着た細身の背の高い男から、その言葉は発せられた。

 つば広の帽子から突き出た長い耳が、ウサギの獣人であることを主張している。


「上級冒険者のゲレゲレさんよ。こちら新人のユーラシアさん」

「女性の『アトラスの冒険者』とは珍しいぴょん」

「……ぴょん語尾はキャラ作りのためなん?」

「そうだぴょん。新人の時に、キャラクターは何より大切と教わったぴょん」


 教えた人に賛成だな。

 でも獣人冒険者ってだけでキャラ立ってるんじゃないの?


「話は聞いているかぴょん。ユニコーンに会って、何とか交渉で角を譲ってもらいたいんだぴょん」

「うん、聞いた。実に楽しそーなクエストだねえ」

「で、協力してくれるのかぴょん?」

「もちろん。力になれるかはわからんけど、お供させてもらう」


 だから何なんだ、そのメチャメチャ腰落とした天を仰ぐようなガッツポーズは。

 メッチャキャラ立ってるわ。

 『アトラスの冒険者』ってこんな人ばかりなのかな?


「イシンバエワ嬢、理想的な生きのいい少女を紹介してくれたこと、感謝するぴょん」

「そうでしょうそうでしょう。冒険者のクエストの可否は、私のお給料にも影響しますからね」

「理想的な生きのいい少女? あたしの思ってたニュアンスと、若干違う気がするんだけど?」


 清らかな美少女を探してたのと違うのか?

 まあウサギさんが満足げだからいいか。


「では参ろうぴょん」

「行ってらっしゃい。あ、ユーちゃん、夜こっちに寄ってね」

「うん、わかった。報告がてら来るよ。じゃあゲレゲレさん、連れてって」


 ウサギさんが転移の玉を起動し、そのホームへともに飛ぶ。


          ◇


「いいところだね」


 丸太小屋と畑、あたしとクララが住んでる場所に雰囲気が似ている。

 でも柵が頑丈そうなところを見ると、この辺には魔物がいるのかもしれないな。


「今日はよろしくお願いするぴょん」

「うん、頑張るよ」


 頑張ってどうにかなるものかは未知数だけど、せっかく先輩に頼られたのだ。

 やるだけはやろうじゃないか。


 奥さんがハーブティーを出してくれる。

 奥さんもやはり獣人で、ネコっぽい雰囲気の美人だ。

 傍らには双子の赤ちゃんが寝ている。

 獣人の赤ちゃんってすげー可愛いな。

 起こさないように静かな声で話す。


「ここは、地理的にはどの辺に当たるの?」

「ノーマル人が住んでる領域よりさらに西だぴょん」


 あ、やっぱりドーラ大陸内ではあるんだな。

 『アトラスの冒険者』ってドーラのシステムなんだろうか?

 あとで聞いてみよ。


「身どもはクエスト完了条件である『ユニコーンの角』さえ手に入ればいいのだ。その他クエスト中に手に入れたアイテムや素材の類は、全てユーラシア君のものという条件でどうだぴょん?」

「十分だぴょん」


 いかん、語尾が感染ってしまった。

 奥さんがクスクス笑っている。


「じゃあこちらへ。転送魔法陣だぴょん」


 小屋の裏側の少し高くなっている空き地に魔法陣がズラッと並ぶ。

 クエストを順調にこなしていくとこんなふうになるんだなあ。

 あちこち行けるようになる未来を夢見て、心がぴょんぴょんする。


「ゲレゲレさんは『アトラスの冒険者』になってどれくらいなの?」

「一三……一四年目だぴょん」

「へー。『アトラスの冒険者』って昔からあるんだ?」

「いつからあるかは知らないが、現役最年長の人は五〇年近く前から『アトラスの冒険者』だったはずぴょんよ」

「五〇年? すごいね」


 大ベテランもいるんだなあ。

 スライム爺さんも『アトラスの冒険者』だったというし、古くから実績のある組織だったということに間違いはなさそう。


「『アトラスの冒険者』って、ドーラだけのものなの?」

「いや、以前はカル帝国本土出身の『アトラスの冒険者』もいたという話ぴょんよ。でも今は全員ドーラ人じゃないかな」


 なるほどなあ。

 『アトラスの冒険者』に関する知識がだんだん増えていく。


「では行くぴょん」


 一つの転送魔法陣にゲレゲレさん、あたし、クララが立つ。

 魔法陣から立ち上る光が強くなり、事務的な声でアナウンスが響く。


『ユニコーンの平原に転送いたします。よろしいですか? 注意事項があります』

「注意事項を聞かせてくれぴょん」


 ゲレゲレさんがそう魔法陣に指示したのは、あたし達に聞かせるためだろう。 


『素材『ユニコーンの角』を得るクエストです。『ユニコーンの角』はドリフターズギルドに納めてください』

「ドリフターズギルドとは何でしょうか?」


 クララの質問だ。

 ゲレゲレさんは精霊と喋れるタイプの人なんだな。

 バエちゃんも割と精霊親和性高めのようだが。


「冒険者の溜まり場になっている場所ぴょん。二、三クエストをこなすと、ギルド行きの転送魔法陣が設置されるはずぴょん」

「そーなんだ? 楽しみだなあ」


 冒険者の溜まり場となれば、得られる情報も格段に多くなるはず。

 つまりギルドまで到達できれば勝ったも同然とゆーことだ。

 ウサギさんが指示を出す。


「転送してくれぴょん」


          ◇


 フイィィーンシュパパパッ。


「ここは……」


 転送先は草原だった。

 どっち向いても草しかないわ。

 方角がわかんなくなるな。


「ここはユニコーンのナワバリで、魔物はほぼ出ないぴょん。だけどもし出たら身どもに任せるぴょん」

「うん、わかった」


 上級冒険者って言ってたし、ウサギさんはかなり強いに違いない。


「ではアイテムを拾いに行くぴょん」

「「えっ?」」


 クララとハモる。

 ユニコーンが目的なんじゃないの?


「待っていればユニコーンが現れるというものではないぴょん。ここは素材はほとんどないけれども、薬草はかなりあるぴょんよ」


「ユニコーンに遭うのは偶然頼みなのかな?」

「今まで遭えたことないぴょん。美少女パワー頼みだぴょんよ?」

「なるほど、だったら今日中にユニコーン出そうだねえ」

「……」


 クララ、何か喋りなよ。

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