第17話:横からクエスト

「ね? ユーちゃんが優れた冒険者の素質を持っているのは、ステータス上から明らかなのよ」

「充分に理解したけど。とゆーかあたしが優れてることなんか、物心ついた時から知ってるけれども」

「あはは、さすがユーちゃん!」


 あたしが固有能力持ちだってことは最初に教えといて欲しかったもんだ。

 バトルスキル『ハヤブサ斬り』を覚えたのは、おそらく発気術の固有能力持ちだからだろう。

 スキルを習得できるとなれば今後が楽しみだ。

 が……。


「パワーカードどこかで手に入らないかな? ある程度数を揃えられないと、どう考えても苦しいんだ」


 三日前にバエちゃんに会った時、パワーカードについて調べておくように頼んだ。

 あたし達が自力で調べるのは、クエストが進んであちこち行けるようにならないとムリな気がするからだ。

 そしてクエストを進めるためにはパワーカードが必要なんじゃないかという、矛盾と焦り。


「ちょっとこっちで調査してみたの。パワーカード装備の『アトラスの冒険者』は、現役では一人もいないわ」

「だろうなー。そんな気はしてた」

「でも珍しい装備品として、割とあちこちに保管されてるらしいのよ。製作者もいるわ」

「作ってる人いるんだ? やたっ! 朗報だ!」

「クエストをこなしていく内、近い将来にパワーカードの工房へ行けるようになるわ」

「近い将来か。よしよし、嬉しい事実だな」


 つまり比較的早い段階のクエストで、パワーカード工房のやつが出るってことかな?

 となると最大の問題は、次のクエストを終えられるか、だ。

 バエちゃんが笑う。


「多分平気よ。前回のクエスト終了時のボーナス経験値でレベル上がったでしょ? レベルが低い内の一違いって、全然強さが違うから」

「うん、わかる」


 この前のスライムクエストで実感したことだ。

 レベルが一つ上がったら、攻撃によって与えるダメージ量が明らかに多くなった。


「『アトラスの冒険者』の石板クエストは、適性レベルがミスマッチなものは来ないの。最初のクエストを一日で完了させた人が、次でどうにもならなくなることなんてないから」

「ふむふむ。じゃ、イケそーじゃん」

「ユーちゃんはパワーカードを揃えること自体が目的ではないんでしょ? 強くなって魔物を倒せるようになることが目的であって」

「正確には、魔物に邪魔されないくらいの強さを得ることを目的としているね」

「汎用の魔法やバトルスキルというものがあるのよ」


 あまり一般的ではないが、人を選ばず使用できる魔法やバトルスキルは、スキルスクロールに封じられて販売されることがある。

 稀にダンジョンに落ちていることもあるらしい。

 スキルスクロールは開くだけで封じられたスキルを習得でき、使用後はただの紙屑になる、使い捨てのアイテムだ。


「戦闘力を上げるために、汎用スキルのスクロールを買って習得するという手があるってことか」

「そしてじゃーん! スキルスクロールは、ここチュートリアルルームでも販売しているのでした!」

「マジか! バエちゃん女神!」

「あはははは、もっと崇めて奉って~」

「でもお高いんでしょう?」

「それなりに」


 満面の笑顔からいきなりのマジ顔だ。

 振り幅がすげえ。

 バエちゃん絶好調だなあ。


「比較的レアだけど、クエスト中にステータスをアップさせる薬草を採取できることもあるわ。食べるだけで強くなれるのよ。パワーアップの方法なんて、いくらでもあるの」

「うんうん、パワーカードに拘り過ぎる必要がないのはわかった。それにしてもどーしてバエちゃんは、心の中でポンコツさ加減を罵ったところで有能な面を見せるのかな?」

「ポンコ……あっ!」


 急にバエちゃんがハッとした顔になる。

 何だ? ここでポンコツさが炸裂するのか?


「ユーちゃんにクエストの相談あるんだった!」

「えっ、何だろ?」


 バエちゃんからクエストの相談?

 ほう、『地図の石板』以外に、チュートリアルルームで依頼されるパターンもあるのか。

 とゆーか何でクエストみたいな大事なことを早く言わないんだ?


「ユーちゃんの先輩の『アトラスの冒険者』がね、クエストで困ってるの」

「先輩が困るようなクエストで、あたしみたいなド新人に何ができるってゆーんだ」

「ユニコーンなのよ」


 ユニコーンは簡単に言うとウマの一種。

 ほとんどは白馬で、雄の頭部に生えている角はレア素材として知られている。

 頭がよくて非常にプライドが高いらしい。

 人間とは友好的でまず争うことはなく、魔物扱いはされていないはずだが?


「レア素材として珍重される『ユニコーンの角』を持ってこいというクエストで」

「え、角のためにユニコーン殺しちゃうの? 残酷だなあ」


 バエちゃんがブンブンと首を振る。


「違うの。そのクエストを請けた人は、ユニコーンに角を譲ってもらおうとしているの」

「どゆこと?」


 『ユニコーンの角』は不定期に生え代わるんだそうな。

 清らかな美少女には心を許し、角をくれることもあるのだという。


「清らかな美少女か。どう考えてもあたしのためにあるようなお題だね」

「でしょう? ユーちゃんにピッタリだと思って」


 クララがモゴモゴしている。

 言いたいことがあったらハッキリ言いなさい。


「面白そうだからやってみる」


 先輩冒険者に会える機会を逃したくないしな。

 現役の『アトラスの冒険者』に会うのは初めてだ。

 何か有益な意見を聞けるかもしれない。


「よかったあ。じゃあ明日の朝、ここへ来てくれる? その冒険者も呼んでおくから」

「わかった。どんな人?」

「ウサギの獣人よ」


 何ですと?

 いや、ドーラに獣人がいるのは知ってるけど、実際に見るのは初めてだぞ?


「『アトラスの冒険者』って、亜人もいるんだ?」

「ノーマル人だけという決まりはないわ。でも現役の『アトラスの冒険者』で亜人は一人だけよ」

「へー。最初に会う現役の先輩が、唯一の獣人なんてツイてるなあ」


 すげー楽しみになってきたんだが。


「さて、あたし達は帰ろうかな。ありがと、大分参考になったよ」

「いえいえ、こちらこそ鍋、大変おいしかったわ。次は私が御馳走するから」

「期待してるよ」


 転移の玉を起動し帰宅する。

 役に立つ情報が増え、先輩冒険者にも会えることになった。

 今日はいい日だったな。

 やはりバエちゃんとは仲良くしておかねばならん。

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