第16話:すごい才能があるから

 フイィィーンシュパパパッ。


「ようこそ、ユーラシア・ライムさん」


 チュートリアルルームにやって来た。

 バエちゃんが笑顔を浮かべて立っている。


 細かい襞のたくさん入った白いロングスカートにブラウス。

 肩に装飾のある紺色のベスト

 モフっとした腕飾り。

 そして銀色の首飾り。


 今までよりもかなりきちんとした装いだ。

 しかもカツラを装着済み。

 うむ、やはり美人じゃないか。 


「バエちゃーん、その服その頭、似合ってるよ」

「そ、そお?」

「お肉持ってきたんだ。鍋しない?」

「するっ!」


          ◇


 いいダシが取れる骨が手に入ったのはラッキーだった。

 コモさんありがとう。

 お肉とニンジンとキノコを投入して灰汁をすくい、塩で味を調え野草とネギを放り込んで煮えたら……。


「はい、でき上がり!」

「やったあ! ありがとう、ありがとう!」


 大雑把に言うと、バエちゃんを餌付けして情報を引き出す作戦なのだ。

 しかし思った以上に喜ばれるのは何故だ?

 鍋は人数多い方がおいしいからかな?

 普段ロクなもん食べてないからか?


「ゆーちゃんがわたしにくれたもの~とってもおいしいうさぎにく~」

「結構な早口だね」

「ほら、精霊さんもどんどん食べよ? ね?」

「はい、いただきます」


 人見知りのクララもすこーし慣れたっぽい。

 とゆーかバエちゃんは精霊に対する親和性が比較的高い気がする。


「私ね、ちょっと料理やってみることにしたの」

「うん、いいことだね。材料はあるの?」

「贅沢なものでなければ支給されるから大丈夫」


 材料支給で時間もあるのに料理してなかったのかってのはさておき。


「ごちそーさま。ところで初めてのクエスト、完了したんだよ」

「あっ、知ってる知ってる! もう次の『地図の石板』は発給されてるからね」

「あれ、随分早いんだな。でも次のクエスト怖いんだよなー」

「えっ、何で? 前のクエスト、一日で終えたんでしょう? 戦闘経験のない新人で即日クリアなんてあんまりいないのよ。ユーちゃんはとっても優秀だと思うわ」


 あたしは一人じゃなくてクララと一緒だからね。

 何となくバエちゃんから目を逸らす。


「前のクエストのところにもう魔物はいないんだ。次のクエストの魔物が強かったら、戻ってレベル上げするってことができないの。パワーカードを手に入れる術も今のところないから厳しいな」

「でもユーちゃんはすごい才能があるから、大丈夫だと思うの」

「すごい才能?」

「だから女の子なのに『アトラスの冒険者』に選ばれたのよ?」


 マジかよ、ちょっと待て。

 知っとくべき情報は最初に言ってくれよ。


「こっちに来てくれる? 個人の能力を表示するパネルなの」


 一人用の机くらいの大きさで青っぽいパネルだ。

 魔道の装置のようだが?

 バエちゃんがスイッチを入れると、低い音がした。


「手を当ててみて。まずユーちゃんから」

「オーケー、ぺたっとな。おお、文字がたくさん浮かんできた」

「ユーちゃんのステータス値を感知して表示しているのよ」

「へー、ハイテクだな」


 レベル三、うんうん合ってる。

 攻撃力、防御力、魔法力その他もろもろの数値が並んでいる。

 比較対象がなくて数字だけ並べられてもよくわからんな。

 と、固有能力か。


「固有能力って、先天的な魔法持ちみたいなやつのことだよね?」

「そう。ある個人が元々持ってるすごいパワーのことよ。例えば精霊さんのように『白魔法』持ちなら回復魔法を使えるとか。誰もが持ってるわけじゃないけど、冒険者にとって固有能力はあると有利になることが多いの」


 スキル使えりゃ単純に有利だもんなあ。

 あたしも『ハヤブサ斬り』っていうバトルスキル覚えたんだった。


「ユーちゃんのステータスパラメーターは全体的に平均して優れています。バランス型で何でもできるようになるわよ。注目すべきは固有能力。『自然抵抗』『精霊使い』『発気術』、最初から三つも持ってる人は見たことないわ」

「そーなの? あたしに美貌とカリスマ以外の優れたところがあったとは」

「あははは!」


 笑うな、失礼だろ。

 バエちゃんがそれぞれについて説明してくれた。


 『自然抵抗』は、沈黙・麻痺・睡眠の三つの状態異常にある程度の耐性があるんだそうな。

 無効じゃないから過信はできないが、魔物の嫌らしい特殊攻撃を考えると地味にありがたい。


 『精霊使い』は精霊親和性が極端に高く、精霊を従えることができる能力。

 すごくレアで、持ってる人はほとんどいないらしい。

 あたしは小さい頃から『精霊使い』って呼ばれてたけど、これって固有能力だったんだ?

 慣れと性格によるものだと思ってたよ。


 あれ、待てよ?

 灰の民の村には、あたしが『精霊使い』の固有能力持ちだと知ってる人がいるってことなのかな?

 おかしなところで謎が増えてしまった。


「『発気術』は、攻撃に気合いを乗っけるみたいな能力よ。レベルが上がると強いバトルスキルを覚えられるわ」

「レベルが三になった時にスキル覚えたんだよ。『発気術』のおかげなんだろうな」


 ちなみにクララは敏捷性はないけど魔法力や最大マジックポイントが大きく、他のパラメーターも悪くないそうだ。

 固有能力は『白魔法』『風魔法』『冷静』(状態異常の激昂が無効)の三つ。

 やっぱりクララは風魔法使いでもあるんだな。


「精霊や、それから天使や悪魔のような実体を持たない存在は、複数の固有能力を持つことが多いと言われているわ。内一つは必ず魔法系で」

「うん、わかる。あたしの知ってる精霊は皆魔法を使えるわ」


 ようやく冒険者として役立つ知見だよ。

 秘められた能力が明らかにされると気分が上がるなー。


 でも初めから固有能力のことを知っていれば、もっとレベル上がるの楽しみだったわ。

 『発気術』持ちだってわかってりゃ、スキル覚えるのを計算に入れられたと思うし。

 どうしてバエちゃんは教えてくれなかったんだろうな。

 あっ、さては! 


「ねえ、バエちゃん。勘違いだったらゴメンだけど、これって最初に来た時に調べるべきなんじゃないの?」

「もう過去のことはいいじゃない。大事なのは未来よ?」

「誤魔化し方が雑っ!」


 どーしてあたし達がこの七日間、悩み多き青春を送っているのかわかった。

 バエちゃんがポンコツだからだ。

 いい加減な仕事して新人が脱落しまくると給料下げられるぞ?

 まあいいや。

 バエちゃんに聞かねば。

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