第10話:『地図の石板』はどこに?
――――――――――四日目。
フイィィーンシュパパパッ。
「あら、ユーちゃんいらっしゃい」
一仕事終えてからチュートリアルルームにやって来た。
バエちゃんが意外そうな顔をしている。
「今日はどうしたの? 次の『地図の石板』は発給されてるけど、まだ転送魔法陣は設置されてないわよね?」
「へー、転送魔法陣が設置されてないってことまで、チュートリアルルームからわかるのか。じゃなくて、次の『地図の石板』はどこに行けばもらえるのかな? バエちゃんがくれるんじゃないんだ?」
「えっ?」
何を驚いているのだ。
こちとら何も知らないんだぞ?
ガイド役たるバエちゃんがポカンとしていては不安になるだろーが。
「ええと、最初の『地図の石板』はどこで手に入れたの?」
「海岸で拾った」
「じゃあ多分同じところにあると思う」
「りょーかい。いや、何日かに一度しか行かない海岸なんだよ。何でうちに届けてくれないんだろ?」
「さあ?」
バエちゃんにもわからないのか。
つまり『地図の石板』を配る係とは管轄が違うんだな?
『アトラスの冒険者』の謎は深まるが、今は割とどーでもいい。
「『地図の石板』の入手に関しては解決。もう一つ質問。バエちゃんが武器としてパワーカードを用意してくれてたのは、クララが精霊だからなんでしょ?」
「ええ。パワーカードは精霊さんでも使える装備品だから」
やはりあたしがクララと一緒に行動することは前提になっていたらしい。
実体を持たない精霊は普通の装備品と相性が悪いから。
『アトラスの冒険者』運営の調査能力はさておき。
「バエちゃんとこの世界ではパワーカードは簡単に手に入るもんなの?」
「いいえ」
バエちゃんがブンブンと顔を左右に振る。
首がちぎれるぞ?
「請願書や申請書をあちこちに出しまくったのよ。もう判子がすり減るかってくらい。最終的には私の上司が、精霊使いはメチャメチャ貴重だから例外でいいから認めろって博物館に直談判して、どうにかこうにか二枚だけ譲ってもらったって言ってた」
「むーん? 事情はわかった。厳しいな」
「何が?」
キョトンとした顔をするバエちゃん。
「バエちゃんもパワーカードはすごく珍しくて知名度低いって言ってたじゃん? こっちの世界でも失われた技術なのかもしれないんだ」
「失われた技術?」
「使ってる人も作ってる職人も、あたしは聞いたことないよ。もっとも知らないのは、あたしの行動範囲が狭いからかもしれんけど。あたし達が持ってたカードは、たまたま家に昔から伝わってたやつなんだ。だから少しは知識あるの」
パワーカードは七枚を同時起動できる。
逆に言うと、最低一人七枚揃えて初めていっぱしの使い手でございという顔ができるんだが、そもそも数を手に入れられるのかさえ疑問だ。
魔物との戦いは命のやり取りになる。
入手法さえわからないものに人生懸けるのはちょいと厳しい、というのが表向きの理由。
「あたしもクララと一緒じゃなかったら冒険者やる気にはならなかったろうから、精霊でも使えるパワーカードでいいことはいいんだ。タダでもらったものに文句は言えないし」
「ユーちゃんが何を言いたいのか、よくわからないんだけど?」
「よーするに今後パワーカードが手に入らないと、あたし達はクエストの遂行に支障を来たす。イコールデビューさせた冒険者の活躍度に依存する、バエちゃんの給料に影響があるかもしれないとゆーことだ」
ショック受けてら。
バエちゃんにはこういう言い方が効くな。
覚えとこ。
「バエちゃんもパワーカードについて調べといてくれないかな? こっちもクエスト進めてくと行動範囲が広がる分、情報が増えるのかもしれないけど、当てにはできないから」
「わ、わかったわ」
「健闘を祈る」
健闘しなきゃいけないのはあたし達のような気はするが、まあバエちゃんも適当に頑張れ。
実際のところあたし達は、パワーカードをもらった分だけ丸得なのだ。
魔物に対抗できる攻撃手段を持ったということだから。
レベルさえ上がれば少々武装が貧弱でも魔物に勝てるだろうしな。
舐め過ぎ?
「じゃ、今日は帰るね。次は最初のクエストをやっつけたら来るよ」
「わかったわ。期待してるね」
◇
帰宅後、クララとパワーカードについて検討を加える。
現在手持ちのパワーカードは以下の四枚だ。
『シンプルガード』防御力+二五%、クリティカル無効
『エルフのマント』魔法防御+二〇%、回避率+一五%、敏捷性+五%
『スラッシュ』【斬撃】、攻撃力+二〇%
『火の杖』魔法力+一五%、スキル:『プチファイア』
上二つは元々あたし達が持っていたもの、下二つはバエちゃんにもらったものだ。
並べて見てると銀色で綺麗。
「『火の杖』を装備してると、マジックポイントを消費しない攻撃魔法『プチファイア』を撃てるってのがありがたいな。どー考えてもあたしが『シンプルガード』『スラッシュ』装備で前衛、クララが『エルフのマント』『火の杖』装備で後衛だよねえ?」
「常識的ですよね」
テストモンスターで試した編成だ。
あたしが攻撃力と防御力を上げて前衛を務める。
一方クララは回復魔法『ヒール』を使えるので、後衛から『プチファイア』で遠隔攻撃。
場合によっては回復魔法を使う。
足の遅いクララの敏捷性を上げるためにも、『エルフのマント』は有効だろう。
「一度も本物の魔物と戦ってない段階で言うのも何だけどさ。パワーカードの数は欲しいね」
「そうですねえ」
クララによると、パワーカードについては記述している本すら見たことがないらしい。
かなりレアな装備品なのかも。
「今でも作られてるといいんだけどな。ま、いいや。どうしても手に入らないようだったらパワーカードは全部クララが装備して、あたしは普通の武器を使うっていう手もあるんだから」
「パワーカードは軽いところがいいですよね」
「テストモンスターと試闘した時、手に馴染む感覚があったんだよ。あたしは感覚を大事にしたいから、できればパワーカードでやっていきたい気持ちはある」
クエストを進めてみての判断だな。
今は文字通り手持ちのカードで何とかしろってことだ。
「明日海岸行って『地図の石板』を回収。直ちに第一回目のクエストに向かう。いいかな?」
「はい」
「楽しみだなー。おやすみっ!」
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