第8話:パワーカードと戦闘テスト

 ――――――――――三日目。


 フイィィーンシュパパパッ。

 目玉焼きデーの翌日、性懲りもなくチュートリアルルームにやって来た。

 また遊びに来たのかって?

 あたしがいつもエンターテインメントを追求する姿勢ばかり見せてると思うな。

 『アトラスの冒険者』のことを少しでも知っておかないと、転移の玉を使うのさえ不安だからだ。


「ユーちゃん、いらっしゃい」

「こんにちはー。えーと、『アトラスの冒険者』について新人メンバーに説明することが、バエちゃんの職務なんじゃないかと思い当たった。合ってる?」

「実はそうなの!」


 今気付いた、みたいなノリだな。

 何でこの仕事っぷりでお給料がもらえるんだろ?

 『アトラスの冒険者』の信頼性が低下するんだが。

 お、仕事モードに入ったな?


「『アトラスの冒険者』とは、所属する冒険者に対する一種のお仕事マッチングサービスです。『アトラスの冒険者』が『地図の石板』を得ると、ホームに新たな転送魔法陣が設置されます。転送先にクエストがありますので、それを解決してください。報酬と経験値を得られます」


 簡潔で理解しやすい説明だ。

 きっとマニュアルを丸暗記してるんだろ。

 注目すべきは、魔物を倒すだけじゃなくてクエスト解決でも経験値を得られる、という点か。

 とっととレベルを上げて行動範囲を拡大したいあたしには重要だ。


「『地図の石板』とは、海で拾ってここへの魔法陣が開いた板のことだね?」

「はい。『地図の石板』を入手した際に、ある程度『アトラスの冒険者』の説明があったかと思いますが……」

「そーゆー仕組みだったのか。ごめん、拾った直後に大波にバックアタック食らったから、よく聞いてないんだよ」

「……」

「絶句すんな。あたしを納得させるのは、バエちゃんの話術スキルにかかっているぞ。まずクエストとは何かから教えてもらおうか」


 要するに『アトラスの冒険者』とは、世の中に星の数ほどある困りごとを収集、所属する冒険者に割り振るってシステムってことか。

 きっと運営側も仲介料とかで儲けるんだろうな。

 わからないのは……。


「転送魔法陣とか転移の玉とか、ムダにハイテクなのは何でなん?」

「あ、あんまり聞いちゃいけないところなんだけど、ムダじゃないですよ。便利じゃないですか。移動に時間がかかることこそムダというか……」

「ふーん、バエちゃんとこの世界とあたしんとこの世界が別なのは内緒じゃないんだよね? 運営母体については内緒ってことなのかな?」

「世界が別なのも秘密なんですが……」


 ちょっと鎌かけたら世界が別言っちゃってるやん。

 ゆるゆるだな?

 ま、いーか。

 さほど興味のある部分じゃないし、追及し過ぎてゆるくない人がチュートリアルルームの係員になっても困る。


「クエストを完了すると次の『地図の石板』が来る。転送魔法陣が増えるって理解でいいかな?」


 ホッとしたらしいバエちゃん。

 勢い込んで説明する。


「その通りです! 『アトラスの冒険者』最大のメリットは、自分のホームを維持したまま活動できるということです」


 今の生活を維持したまま面白案件に首突っ込めて、おゼゼも儲かる。

 しかもレベルが上がれば段々強くなれる、行けるところが多くなるときた。

 クララにはすまないけど、ウシ飼うよりずっと面白そうじゃないか。


「どうです? 『アトラスの冒険者』やってみませんか?」

「興味はあるし、やってみたくもある。でも冒険者だと荒事も多いんでしょ? あたし達武器持ってないから、務まらないんじゃないかな」

「武器を支給いたします!」

「おおう、パワーカードか」


 所持者の体内を流れる魔力を利用し、刃や盾などを具現化させるという装備品だ。

 その昔、通常の武器や防具を装備できない精霊でも持てるように開発されたと言われている。

 意外そうなバエちゃん。


「パワーカードを知ってるの? すごく珍しくて、知名度低いって聞いたんだけど?」

「喋りが素に戻ったね。いや、あたし達も持ってるの。防具タイプだけど」


 昔から家に伝わり、お守り代わりに持っているパワーカードを見せた。


「ちょうどよかった! こっちで用意したのが近接戦闘用のブレードを出す『スラッシュ』と、ノーコストの攻撃魔法『プチファイア』を使える『火の杖』なの」


 ふむ、攻撃用のパワーカードか。

 攻撃手段があれば魔物に対抗できるんじゃないか?


「では、戦闘テストしてみましょうか」

「うん、ちょっと待って」


 セオリー通り、回復魔法を使えるクララが後衛だ。

 『火の杖』を持たせる。

 自然あたしが前衛になるので『スラッシュ』を装備、と。


「いいですか? 出でよ! 邪悪なる存在、テストモンスターよ!」


 バエちゃんノリノリだな。

 魔物と戦った経験のないあたし達にとって、試闘できるのはとてもありがたい。


 ぼやけた人間の影みたいなものが現れた。

 剣と盾を持ったファイターみたいな見かけだ。


「テストモンスターは弱いです。どんどん攻撃してください!」


 あたしの斬撃! ザクッ! よおし、ダメージ入ったっ! 相手の攻撃で少しダメージもらったが気にしない。クララのプチファイア! もう相手はヘロヘロだ。とどめの斬撃、よっしゃ勝ったっ!


「おめでとう! これでチュートリアルは終わりよ。どうだった?」

「魔物を倒すのも案外いい気分だった。とりあえず頑張ってみるよ」

「初めてのクエストで戦うことになる魔物は、今のテストモンスターより少し強いと思うわ。注意してね」

「わかった」


 どの程度強いのかは、戦ってみてのお楽しみということか。

 待てよ?

 テストモンスターということは……。


「バエちゃん、このテストモンスターって、ひょっとして設定弄れたりする?」

「できるわ。でも経験値やドロップアイテムはないから、外で魔物退治する方がお得だと思う」


 損得の問題じゃないんだな。


「設定できる項目、見せてもらっていい?」

「いいけど」


 ふむふむ。

 攻撃力などのパラメーターの他、攻撃方法まで選べる。

 大きさや姿、感触や固さまで変えられるじゃないか。

 何だこの『種族:男ノーマル人(変態)』ってのは。

 まあいい、これならイケる!


「あたしの言う通りに、設定変えてくれる?」

「う、うん」


 ニヤニヤしてるあたしに、バエちゃんばかりかクララまでが不穏なものを感じ取ったらしい。

 実に失敬だな。

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