第3話


 そうして僕たちは夜にまーくんの畑の跡地にやってきた。一緒についてきたメンバーは約束をした源ちゃんと、文字を読むことが今でもできる秀才の田中、そして暴力をふるうことには定評がある太っちょのたけしだ。


「ほ、本当にティーブイってやつなんか……? これで幽霊だったら……」と源ちゃんは弱腰な姿勢を見せてくる。


「ふ、馬鹿らしいですね。この世に幽霊だなんているわけがないでしょう」と田中。


「そうだぜ源太郎! 俺が幽霊なんてやつがいたとしてもこのパイプでいちころだぜっ」


 そういってどこから持ってきたのかわからない鉄パイプをぶんぶんと振り回すたけし。僕は「幽霊に物理的な攻撃が効くとは思わないけどね」と苦言を呈しながら、歩く源ちゃんに続いた。


 畑の中に足を踏み入れる。畑の中は長い丈の雑草に蝕まれていて、いちいち踏んで倒して歩くことしかできない。


「本当にここなのか?」とたけしは汗を拭きだして呼吸を荒くしながら不満そうに声を吐く。暴力以外には定評がないから、たけしはもう疲れてしまったのかもしれない。


 そして「……ああ、ここだ」と源ちゃんは立ち止まる。


 そこには土が覆いかぶさっている。だけれども、ほか一面が雑草ばかりだというのに、なぜかここだけが切り取られたように何もない。確かに変だな、と僕は思った。


「それで、落とし穴があるんだっけ?」


「あ、ああ。まあ、俺が侵入した時、もう落ちないように細工をしたから、もう落ちることはないけどよ」


 そう言いながら源ちゃんは土で覆われている部分を手で払うようにする。そうして出てきたのは木の板であり、彼はそれをひっくり返した。


 おかしい。おかしいところがたくさんある。


 彼がひっくり返した場所を覗けば、確かにそこには穴がある。だが、その穴は暗いものではなく、なんと奥の方から光が届いている。


 その光を見て、源ちゃんは震えあがった。


「や、やっぱり幽霊か……?」


 彼がそう思うのも当然だった。僕たちが明かりをつけるときはガソリンを使ったランプくらいであり、燃料がなければ使うことのできない明かりしか僕は知らない。


 でも、目の前にある光は永遠と続くように光り続けている。それも火の揺らめきを感じさせないほど光は停止して、僕たちは迎えるようにただ光り続けている。


「源ちゃんがここに来たときにもこんな感じだったのか?」


「そ、そうだよ」と独特のビブラートをかましながら彼は呟いた。意外にも美声だな、と僕は思った。


「ともかく進みましょうよ。こんなところにいても埒があきません。ここはたけしくんを先頭にして、源ちゃんを最後尾の列にしていきましょう。そのほうが安心です」


 田中は眼鏡をくいっと指で押しながら僕たちにそう言った。秀才の彼が言うのならば間違いないと、僕たちも彼の言葉に従って、そうして穴の中に進んでいった。


 穴の中に進むたびに、くぐもった空気が喉を刺激する。酸素が薄くなるような感覚もするし、目の前にある光が揺れているような、そんな感覚もした。


 そして──。


「──ここだ……」


 慎重に源ちゃんは言葉を吐いた。その言葉に僕は息をのんだし、たけしは汗をこれまた噴き出した。田中は眼鏡をくいっと指で押さえて調節をした。


 目の前にあったのは、白色の箱だった。箱、というには薄い胴という感じはしたけれど、それでも確かにそれは白い箱だった。


 そして、白い箱を彩る中には──。


「お、おなごじゃねぇか!!」


 たけしはそれに気づくと、一目散に走っていく。大した距離はないはずなのに、それでも走ったら彼は呼吸が安定しなくなり、はぁはぁ、と息を荒立てた。


 でも、気持ちはわかる。確かにそこにはおなごがいる。村で見るおなごとは違ってローブや覆面を被っておらず、肌色の面積が多くなるような下着らしきものを着ていた。そして、こちらをじっと見つめているような──。


「お、おらが見たのはそのおなごだ。ずっと死んだ目でこちらを見てきやがるんだ……」


 目に生気は感じないような気がした。源ちゃんの言う通りであった。


 たけしは「お、おなごだぁ、おなごだぁ」と息を荒くしながら画面を呆然と見つめている。あまりにもおなごというものに飢えすぎて、一瞬彼が獣になっているのではないか、とそう思ってしまう。


 だが、それを無視して田中は箱の方まで近づいていく。


 田中は箱に近づくと、ん? と訝しいような声を出す。


「これは、……英語?」と田中は視線を箱の下の方に向けながらそういった。


 なんのことだ、と思いながら、僕も彼の近くに移動して、その視線を追いかけようとしてみる。


 彼が見ているものは、多数のボタンがついている板のようなものだった。そのボタンには高校生の時まで見ていた文字のような形をしているものがあったし、よく読めない丸まった文字がたくさん書かれている。


 田中はその板をかた、かた、と怪しみながら押してみる。それを源ちゃんは「だ、大丈夫なのか?!」と不安そうな声で叫ぶものの、田中は気にしないまま触った。


 すると、箱の中にいるおなごが消えた。確かにそこにはおなごが、布面積の少ない希少なおなごが閉じ込められているはずだったのに、そこにはもうなにもいなかった。


 代わりに現れたのは、昔倣ったような気がする文字列のものと、その背景とされている白い壁だけだった。


「お、おなごは?! おなごはどこにいっちまったんだよ!?」


 たけしは慌てふためいていた。田中は「うるさいですねぇ……」と文句を言った後にたけしへと手刀をくらわして、それから箱の中にある文字を見つめた。たけしはそれから動かなくなった。


「な、なにが書いてあるんだ?」


「……『この村は狂っている』、とそう書かれています。ひどく丁寧な字で……。これは誰かの手記のようですね……」


 田中は、そうして手記を読み上げた。



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